不老不死と進化

2000/2/14-/17 ([Bilab:4015][Bilab:4017][Bilab:4019] より一部改編)
  1. 序〜遺伝子の回数券「テロメア」:不老不死への第一ステップ

    「ヘイフリック限界」の謎を解く「鍵」が、この「テロメア」であるといわれています。テロメアについては、最近、ちょっとした雑誌、週刊誌、あるいは新聞の科学欄などにも、特集が組まれたりしているので、その言葉くらいは聞いたことがあると思います。

    ※「ヘイフリック限界」…40年ほど前までは、適切な環境下で培養されたヒトの細胞は死ぬことはないと考えられていたが、ヘイフリック博士によって、正常な細胞でも約50回の細胞分裂を繰り返すと死を迎えることが証明された。このことを「ヘイフリック限界」という。

    テロメアとは染色体の端っこにある、ある塩基の繰り返し配列のことであり、この繰り返し配列が、DNAがコピーされるたびに、だんだんと短くなっていき、ある短さに達すると、そのDNAのコピーができなくなるというものです。つまり遺伝子コピーの回数券みたいなものです。回数券のなくなった染色体は、御役御免とばかりにコピーすることができなくなります。

    ガン細胞では、このテロメアを修復(!)するテロメラーゼという酵素があることが知られており、昨年の1月に、アメリカのジェロン社から

    「テロメラーゼでヒトの正常細胞の寿命を延ばすことに成功した」

    という報告もなされており、ヒトの寿命を延ばすことに期待がもたれています。

    ただその一方では、テロメアはたしかに「細胞の寿命」を延ばすけど、「人間の寿命」を延ばすかどうかは疑問であると言う人もいます。というのも、神経細胞や、心臓の筋肉細胞などのような「分裂しない細胞の寿命は?」という問題が残っているからです。

    不老不死、本当に実現するのでしょうか?

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  2. 〜エネルギーの発電所「ミトコンドリア」:寿命は遺伝子により決まる

    不老不死に関する研究って本当にされていて「テロメア」以外で有名なものでは「ミトコンドリアのA型」というものがあります。岐阜県国際バイオ研究所の田中さんが第一人者で、1998年にイギリスの医学雑誌に

    「A型(遺伝子の型)の人の中には長寿遺伝子がある」

    という報告を行い、一躍有名になりました。
    ## よくNHKの特番、教育番組などに出演されています。

    この遺伝子型がどういうものかと言いますと、ミトコンドリアの遺伝子には 16,569 の塩基配列があります。そのなかの「5178 番目」の塩基が A (アデニン)である人をA型、C (シトシン) である人 をC型と定義します。この定義に基づき、長寿の人の型を調べてみると、圧倒的にA型が多く、全国の100歳以上の長寿者37人中、67%がA型、104歳以上の人は全員A型だったそうです。もちろん、きんさん、ぎんさんもA型だそうです。このミトコンドリア 5178番目の遺伝子型はC型の方が世界標準なのですが、日本人はA型が多く、日本人の平均寿命が高いのもそのせいではないか?と考えられています。

    どうしてA型だと長寿なのか?それはA型だと病気にかかりにくいらしいのです。たとえば心筋梗塞などになる確立などは、A型とC型で約2倍の開きがあるそうでう。平均寿命も10歳は違うと、田中さんは言っています。

    さて、なぜミトコンドリアの型で寿命が決まるのか?ご存知の通りミトコンドリアは、エネルギーを作る、 いわば、体内の発電所です。つまりエネルギーの供給源が衰えれば、とうぜん人間の体も衰えるのです。このミトコンドリアの活性が止まるのがだいたい100〜120年。見事に人の寿命と一致しています。

    ということは、生まれながらにしてだいたいの寿命が決まっている?寿命を延ばしたり、不老不死の実現なんて無理?田中さんのグループは、活性のおちたミトコンドリアの「修復」や、あるいは「総入れ替え」をするという研究を進めているそうです。

    不老不死、実現しそうな感じです。

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  3. 〜不老不死と進化:「死」の意義と必然性

    不老不死が実現したらどのような世界になるでしょうか?人間は死なずにどんどん増えていくのだろうか?それとも増やさずに現状維持でいくのでしょうか?

    死なずに増えていく場合、何が起るかはわかりますね。人口増加による食糧不足、自然環境の破壊、そして、それに伴う人間関係の悪化です。

    人間関係の悪化、それが何を指すか、説明する必要もないでしょう。不老不死といってもあくまでも寿命という概念がなくなるだけです。つまり「自然死」以外の「死」というものはあるのです。誰かが「最後のボタン」を押してしまえば…それで全てが終わってしまいます。

    もちろん、食料大量生産や火星移住など、問題解決の道は残されているとは思いますが、その道ができる前に、あっという間に地球上は人間で埋め尽くされていることでしょう。

    では、もう一方の選択肢、増やさずに現状維持で行くではどうでしょうか?これもまた危ない選択です。簡単に言ってしまえば、子供を作らずに今生きている人間だけで生きていこう、ということですよね。これは自らの進化、そして未来を閉ざすことになります。

    なぜ、有性生殖というものがあるのか?聡明なみなさんなら、すぐにわかりますよね。生物が環境に適応するために、より多様な遺伝子型を持った方が有利であるからです。つまり自分の持っている遺伝子と、相方の持っている遺伝子を組み合わせることで、新しい遺伝子を作り、次世代に、より環境に適した遺伝子が現れることを期待する。こういったことが「進化」なのだと思います。

    生物に「寿命」があるのは、自分の「死」と引き換えに、「新しい命」に未来を託す、ということなのかもしれません。

    「人間はどうやって死んでいくのか」の著者である米山公啓さんは

    「実は寿命がある、つまりいづれは”死ぬ”ということには非常に重要な意味があるのです。…人間を含め有性生殖する生物は、進化し生き延びるために『寿命』すなわち『死』を獲得したともいえる。ですから将来、もし人工長寿時代が実現したとしたら、人類の進化を遅くすることになるかもしれません。」
    とその著を締めくくっています。

    一個人の寿命を延ばすことが、人類の寿命を短くするかもしれない。

    未来を「自分たち」に託すのか?それとも「子供たち」に託すのか?そういう選択をせまられる日は、案外近いのかもしれません。


    参考文献 ダカーポ(マガジンハウス)1999/6/2