multiple drug resistance factor

2000/4/19,20 ([Bilab:4169][Bilab:4171] より一部改編)
耐性菌に効く、新タイプの抗生物質が米で認可されたようです。

「耐性菌に効く新タイプの抗生物質、米で認可 」

 米食品医薬品局(FDA)は18日、従来の抗生物質が効かなくなった耐性菌に効く新しい抗生物質「ザイボックス」を認可したと発表した。細菌のたんぱく質合成を抑える新タイプの抗生物質で、重い院内感染症に対する有効な手段として期待されている。
 米国内でまもなく発売されるザイボックスはファルマシア社の製品で、最強の抗生物質とされるバンコマイシンに耐性のできた腸球菌などによる肺炎や皮膚感染の治療薬として使われる。FDAによれば、病院での腸球菌感染の4分の1がすでに耐性菌といわれるほど急増している。臨床試験では、ザイボックスはこのバンコマイシン耐性菌の感染患者の67%に効果があった。
 バンコマイシン耐性菌の治療薬としては、昨秋初めて承認された静脈注射薬シナシッドに次ぐ。シナシッドが天然物でできた従来型の抗生物質なのに対し、ザイボックスは、細菌が増殖する際のたんぱく合成を抑えるように設計された初の人工物質。注射薬だけでなく、飲み薬もあるのが利点だ。
 天然の抗生物質に比べて耐性はできにくい。しかし、臨床試験で耐性菌ができた例もあり、FDAは安易な使用を強く戒めている。また、頭痛、吐き気、下痢などの副作用があり、風邪薬や抗うつ剤と併用すると血圧を上げる危険もあるという。

耐性菌とは、俗に言う「MRSA」や「VRSA」のことです。昨今、「院内感染」ということで話題になっている菌です。この「MRSA」と「VRSA」がどんなものか簡単に説明しますと、「M」はメチシリン、「V」はバンコマイシンという抗生物質のこと、そして「R」は耐性、「SA」は黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のことをそれぞれ示しています。「黄色ブドウ球菌」は、人間の鼻や喉に、ごく当たり前に存在する常在菌で、中耳炎や傷口の化膿などを引き起こすバクテリアです。とは言っても、健康な人であればほとんど問題とならず、高齢者や手術後の体など、抗力の弱まった時に感染症を起こします。そのために「院内感染」が起きやすいのです。

1940年代、初の抗生物質、ペニシリンの登場で、人類が、このような病原菌を克服したかに思えたのですが、すぐに、このペニシリンを分解する酵素、「ペニシリナーゼ」を持つ耐性菌が登場しました。その後、「ストレプトマイシン」「クロラムフェニコール」「オキシテトラサイクリン」「エリスロマイシン」「テトラサイクリン」といった抗生物質が1950年代終わり頃までに登場してきましたが、いずれも耐性菌の登場によって効かなくなってしまいました。

1960年に開発された「メチシリン」はペニシリナーゼに分解されない画期的な抗生物質として登場し、ついに耐性菌の問題を解決した、と思わせました。が10年もしないうちに「MRSA」が登場し、1970年代、アメリカで院内感染が引き起こし始めました。日本では1980年代にはいって、大きな問題になりました。

その後、最後の切り札として登場したのが「バンコマイシン」。1956年に開発され、最も耐性ができにくいとされていた抗生物質です。日本では1991年に使用認可がおりています。しかし、これもまたすぐに「VRSA」という耐性菌が登場し、「院内感染」に対抗する手だてを失ってしまいました。

そして昨年登場したのが記事にもでてくる「シナシッド」。従来どおりの天然の抗生物質で、まだ耐性菌が拡大していないので、今のところバンコマイシン耐性菌に有効な抗生物質として用いられています。

今回の「ザイボックス」は、初の人工抗生物質ということで各方面から注目を集めています。「人工」ということで、耐性菌が出来にくいのでは考えられており、今後、創薬分野での発展が期待されます。ただ記事に「臨床試験で耐性菌ができた例もあり」とありますように、耐性菌が現れる可能性はあるので、人類と病原菌とのイタチゴッコに終止符がうてるのか、まだまだ安心できないようです。

さて、「MRSA」も「VRSA」も有名な耐性菌ですが、その他にはどんな耐性菌があるのか、調べてみました。

バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)
昨日の夜のニュースでは、これを耐性菌として紹介したところが多かったようです。糞便連鎖球菌とも呼ばれ、もともとは非病原体であるが、やはり体が弱ったときに尿路感染や心内膜炎などを引き起こす。一昔前までは抗生物質が、その治療に有効であったが、現在では、「VRSA」と同様に、バンコマイシン耐性の菌が出現してしまい、有効な治療方法がなくなっている。
多剤耐性肺炎球菌
肺炎球菌とは肺炎などの呼吸器系の病気をもたらしたり、子どもに中耳炎をもたらすバクテリアである。これも、また人間の鼻や喉にいる常在菌で、抵抗力が弱まった時に発生し、特に高齢者などでは重傷化することもある。ペニシリンが有効な抗生物質であったが、これもまた耐性菌が広まり、有効な対策がなくなってしまった。今、子どもの中耳炎の治療が難しくなってしまい、問題になっている。
多剤耐性結核菌
かつては、最も恐れられた病気、結核を引き起こす菌。1900年前後の流行では死者が210万人にもなったという。抗生物質の登場で死者は激減するが、1980年ころより耐性菌が広がり始め、現在も、問題となっている(1955年に死者300万人を越えるアウトブレイクを見せている)。
マラリア(原虫)
「原虫」とは病原体(菌)をもたらす「虫」のことである。マラリアはご存知ハマダラカを介在して人間に伝染する、世界最大の伝染病で、高熱を引き起こし、死亡率も高い。WHOが撲滅に力を入れ、原虫駆除のためにDDT散布、マラリア駆除の特効薬クロロキンの開発を行った。一時は、病気も激減したが、現在では、DDTに耐性をもったハマダラカが、クロロキンに耐性をもったマラリアが登場し、病気の発生率は増勢に転じている。

「結核」や「肺炎」は、最近老人ホームでの集団感染による死亡事故などでよく報道されているのでご存知かと思いますが、あのマラリアもまた、薬剤耐性菌のひとつなのです。

病原菌と人類のイタチゴッコは1980年代より、病原菌のほうが優位にたってきています。今回開発された「ザイボックス」が、本当の切り札となるのか?それともまたまた耐性菌が登場するのか?本当に目が離せない状況です。