海の日 / The Day of Sea
2000/7/19 ([Bilab:4367] より一部改編)
北村薫の小説「ターン(新潮文庫)」の中に興味深く、魅力的な文章があったので紹介します。
「だから、世界を保とうという何らかの安全装置が働いているような気がするの。大きな意志」
神様?
「といっていいのかどうか分からないけれど。とにかく、高いところから見ている何かよ。あのね、わたし、たまたま子供向けの科学番組を見ていてびっくりしたことごあるの。――夕食の支度をする時に、≪ながら≫で音だけ聞こうかと、テレビのスイッチ入れたの。そうしたら、氷のことを話していた。氷は固まると、水より重くなるか軽くなるか」
それこそ、子供だって知ってる。
「どっち」
氷は浮くんだ。軽いに決まっている。
「そうよね。それが≪常識≫だと、私たちは思ってる。当たり前だと。でも、この世の水以外の液体って、実は固まると縮んで重くなるのが≪当たり前≫なんですって。それなのに、なぜ、水だけだ例外なのか」
そんなことに説明がつくの?
「つけたのよ、その番組では。――氷だけは軽くないと生き物が困るから、ですって」
え?
「寒くなるでしょう。池も川も上から凍るからこそ、魚や虫が水の底で冬を越せるの。私それを聞いた時に、ぞぞっと背筋の震えるような気がしたわ。誰が決めたの、っていいたくなるでしょう」
本当だね。
「氷なんて、小さい頃からどれだけ見てきたか分からない。冬の朝、庭のバケツに透明の丸い板が出来た。その冷たいのを朝日にかざしてきらきら光らせたりもしたわ。でも、どうして固まると軽くなるのかなんて、考えたこともなかった。わたし、お料理の味醂の瓶を持ったまま、しばらく何も出来ないで立っていたわ。わたしたちは、基本的に――生きるように出来ているのよ」
正確に言うならば、水が氷に状態変化しても重くも軽くもなりません(だって質量保存の法則があるから)。水が氷になる時、体積が増えるため、氷の密度は水の密度より小さくなり、そのため氷は水に浮くことができるのです。
このように、僕らは氷が水に浮く原理を理解しています。しかし、それを第三者に説明する時、「水が氷になると水素結合ができて…」なんて説明してしまうと、なんか無機的な、いかにも「化学のお話」というような感じがしますね。でも「(氷が水より軽くないと)生き物が困るから」なんて説明すると、なんかやわらかい、神秘的な感じがしていいですよね。
明日は海の日です。ご存知のように海は、僕らが生きていくために必要な水が生まれてくるところでもあります。ちょっとした空いた時間にでも、水について考えてみてはどうでしょうか?新たな発見があるかもしれません。