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C O L U M N   L I B R A R Y

ターンエーの癒し
2012/3/18



 ガンダムとは、なぜこれほどまでに奥の深いアニメなのだろうかと最近つくづく感じている。今回紹介したいのはサンライズ製作のアニメ『∀(ターンエー)ガンダム』(「ガンダムシリーズ」の一作として、1999年4月9日から2000年4月14日までフジテレビ系列で全50話が放送され、2002年にはアニメーション映画として『地球光』『月光蝶』の2本にまとめられた)のテーマソングについてである。
 最初に見るのは、「∀ガンダム COCOA オリジナル・サウンドトラック3」(キングレコード株式会社)収録の「限りなき旅路」。


「限りなき旅路」
作詞:C.Piece/作曲・編曲:菅野よう子/歌:奥井亜紀

破れかけた天空(そら)のかなたから
真っ直ぐな光が現れ
たちすくむ僕 問いただす
夢と現実にゆれ
過去と未来から吹く風にあおられ
確かなものを奪いとれ
Walk on
希望の歌をくちずさみながら
空虚の谷を君と歩いてきた
今日までもそして明日からも
限りなき旅は続く
わき出るような痛みに
突き動かされ歩きつづければ
目の前に今こそ扉はひらく

守るべきものなど何もない
壊されるべきものだけがただ
僕のこの手にいつも在る
Shine on
雨は川をくだり海にそそぐ
地表を照らす日射しは 生きる物の
営みをつくり続けている
変わり続けてゆくだろう
時も宇宙も未来も
そして僕も変わり続けていく
それこそが新しいすべてをつくる
限りなき旅は続く
わき出るような痛みに
突き動かされ歩きつづければ
目の前に今こそ扉はひらく

限りなき旅は続く
わき出るような痛みに
突き動かされ歩きつづければ
目の前に今こそ扉はひらく


 希望的で明るい曲なのはいいが、歌詞をよく見るとなにやら宗教的な部分を簡単に発見することができる。それは最初の歌い出しにある。

 「天空(そら)のかなたから 真っ直ぐな光が現れ たちすくむ僕 問いただす」

 何の説明も不要であろう。彼は宗教的表現で言うところの「神」或いは「天使」との邂逅を体験し、なお且つ彼はその存在から語りかけられたらしい。まるで新約聖書に記されたパウロのそれではないか。
 新約聖書には次のようにある。

 「ところが、道を急いでダマスコの近くにきたとき、突然、天から光がさして、彼をめぐり照した。彼は地に倒れたが、その時「サウロ、サウロ、なぜわたしを迫害するのか」と呼びかける声を聞いた。」使徒行伝 第9章3節から4節

 次の歌詞はこうである。

 「夢と現実にゆれ 過去と未来から吹く風にあおられ」

 彼は心の動揺、葛藤にほんろうされているようだ。新約聖書にはパウロの言葉として次のように記されている。

 「すなわち、わたしは、内なる人としては神の律法を喜んでいるが、わたしの肢体(したい)には別の律法があって、わたしの心の法則に対して戦いをいどみ、そして、肢体に存在する罪の法則の中に、わたしをとりこにしているのを見る。わたしは、なんというみじめな人間なのだろう。」ローマ人への手紙 第7章22節から24節

 「夢と現実にゆれ」という歌詞は的確にピンポイントでパウロの言葉を暗示しているように見える。
 次の歌詞、

 「希望の歌をくちずさみながら 空虚の谷を君と歩いてきた」

 「空虚の谷」。聖書に登場しそうな谷の名前である。聖書には多くの谷の名前が登場する。「たといわたしは死の陰の谷を歩むとも」詩編23編4節、「嘆きの谷(涙の谷)」詩編84編7節、シディムの谷、ヘブロンの谷、アコルの谷、ベン・ヒノムの谷等々。
 そして次の歌詞、

  「限りなき旅は続く わき出るような痛みに 突き動かされ歩きつづければ 目の前に今こそ扉はひらく」

 パウロやイエスの十二弟子らは、信仰のゆえに限りない旅に出たのだが、その道のりは決して平たんではなかった。世俗からの容赦のない迫害に甘んじ、湧き出るような痛みを感じつつ、それでも師を慕いながら、その欽慕の念に突き動かされて歩き続けた。彼らは天の御国の扉を開け門をくぐることを願っていた。
 かくして著者は、なんとガンダムのテーマソングを通して、パウロやイエス、十二弟子らのあまりにも崇高な旅路と邂逅したのである。
 一方、2番を見ると、一転してそこには自然科学的、進化論的世界が歌われている。この曲は、一曲で宗教(キリスト教)と科学のエキスを端的に表現してみせたようだ。
 次に見たい曲はこれも「∀ガンダム COCOA オリジナル・サウンドトラック3」収録の「炎と雨」。


「炎と雨」
作詞:岩里祐穂/作曲・編曲:菅野よう子/歌:奥井亜紀

炎のような燃える想いが  あなただけを求めている
あなたは誰を見つめてるの
そして 闇に閉ざされたグレイの瞳
隠した心の真実 報いなき愛 それでいいの
すべてを抱きしめて 愛のために
あなたが癒されるなら 私の胸で

夜の窓を打つ雨の叫びは  私の心に降る雨
このひとときに身をまかせて
そして 叶わなかった夢や願いは
いつか宇宙(そら)の藻屑となり 土に帰ってゆくのですか
すべてを越えたいの 愛のために
決して告げることのない 清らかな嘘

すべてを抱きしめて 愛のために
あなたが癒されるなら 私の胸で

炎のような燃える想いが  あなただけを求めている


 この曲は「限りなき旅路」とは、天と地ほどの落差を感じ取ることができる曲である。前者が縦なるものと我との欽慕がテーマだったのに対して、後者は横への恋慕がテーマのように見える。飲み屋街のはずれから聞こえてきそうな曲ではないか。もう一度言おう。これもガンダムのテーマソングの一つである。と同時に、このサイトで見てきた数々のアニメのテーマソングがそうだったように、この曲もまた宗教的に解釈することが可能である。恐れながら、歯に衣を着せずに言う。この曲はなんと、イエス・キリストが天の父なる神への哀切な訴えを歌った曲に解釈できるのだ。
 そのことを念頭に置いて、もう一度前掲の歌詞を読んで頂きたい。
 いかがだろうか。十字架上での、或いはゲッセマネでのイエスの叫び、或いはそれに至るまでの過酷な情動がみごとに表現されているではないか。しかし、ここで著者が注目したいのは次の行である。

 「決して告げることのない 清らかな嘘」

 この行は何を言おうとしているのだろうか。或いは、この行にはどんなメッセージがあるのだろうか。幾つか考えられる。

 1.決して嘘をつかない。
 2.清らかではない嘘はつく。
 3.清らかな嘘をつく。そして、それが嘘であることは決して明らかにされない。

 著者は3の解釈を注目したい。この行は、「イエス・キリストが語る清らかな嘘」の存在を教えようとしているのではないか。仮にそれは事実だとしよう。だとしたら、その嘘とは愉快犯的嘘ではなく、救いの為の、癒しの為の嘘なのではなかろうか。この曲の雰囲気はそれを伝えようとしているかのようである。「冷徹な真実よりも、癒しのある嘘」これが宗教のキーワードだというのか。更に解釈を拡大してみよう。この曲には、もしかしたら「神が存在するという清らかな嘘」というメッセージがあったのだろうか。数千年の有神論、無神論の対峙の歴史の末に、勝利を得るのは無神論だというのか。ここで感じ取ることができるキーワードは、ニーチェの「ニヒリズム」だ。彼らは思想の世界において、一端リセットを行おうとしていたかのように感ずる。思想があまりにも一方に傾斜した際に起こる現象と言える。例えで言うならば、植物の種は硬いコンクリートの上に蒔くものではなく、柔らかな土に蒔くものである。とすればこの時代は、新たな種が蒔かれる時代とも言えるのかも知れない。
 或いは、聖書(本文批評)学者のバート・アーマンらの指摘が確かであれば、聖書には多くの誤写、誤訳、捏造をされた文章が内包されているらしい。それを称して「清らかな嘘」と表現したのだろうか。イエス・キリストの神に対する気持ちや、隣人愛は言葉では計り知れない。聖書がいかに真実を教えないとしても、イエス・キリストなる人物は、何か大きな力の持ち主だったかも知れない。その可能性の根拠は聖書ではない。歴史が一つの根拠である。聖書は歴史によって創造されたのだ。歴史は人によって作られた。そして、人は神霊によって右往左往している。
 「決して告げることのない 清らかな嘘」。この行は、「聖書内の愉快犯的誤写、誤訳、捏造ではなく、救いの為の、癒しの為の誤写、誤訳、捏造を見よ!」という深いメッセージがあったのではなかろうか。聖書には様々な浮世の要素が投影されている。だからこそ左傾して、聖書の教えを完全に拒絶することは不適切となる。聖書はすこぶる人間的だからだ。聖書或いは宗教を拒絶することは、ありのままの人間性をも拒絶することに通ずる。逆に、聖書をあまりにも神秘化・神聖化することも不適切である。聖書は人間的だからだ。どちらに傾いてもおかしくなる。真っ直ぐ立つべきである。ガンダムのテーマソングは私達に、このようなメッセージを発信していたのではなかろうか。やはりガンダムは深い。
 最後にもう一つの曲をご紹介しておこう。これも「∀ガンダム COCOA オリジナル・サウンドトラック3」収録の「月の繭」。


「月の繭」
作詞:井荻麟/作曲:菅野よう子/歌:奥井亜紀

山の端 月は満ち
息づくあなたの森
夏草浴びて眠る 愛おしい 横顔
おぼろな この星
大地に 銀の涙
繭たる蛹(さなぎ)たちは
七たび身をかえる
青にLaLaLu LaLaLu 染まる 恋し繭玉(まゆだま)
揚羽(あげは)の蝶になる
やがて宇宙(そら)をつつむ 無限の翅模様(はねもよう)
いのち輝かせよ

あの月 あなたなら
悲しみを写さずに
世の揺らぎ見つめて
嘆かずに飛んでみる
風にLaLaLu LaLaLu 唄え 翅(はね)に月うつし
揚羽(あげは)の蝶になる

揺らぐ夜に生まれ 銀河をわたる蝶よ
いのち輝かせよ

青にLaLaLu LaLaLu 染まる 恋し繭玉(まゆだま)
揚羽(あげは)の蝶になる

やがて宇宙(そら)をつつむ 無限の翅模様(はねもよう)
いのち輝かせよ


 この曲のテーマは「月」と「蝶」だ。

 「繭たる蛹(さなぎ)たちは 七たび身をかえる」

 とある。蝶は、卵、幼虫、蛹、成虫と段階を踏んで完全変態をおこなう。蝶は成虫となったとき、いよいよ天空へと羽ばたいてゆくことができる。
 今回ご紹介した3つの曲は、一枚の音楽CDに収録されているが、そのCDには全部で21曲収録されている。


1. 限りなき旅路(奥井亜紀)
2. 月のくじら
3. モダンライフ
4. かわいそうなソシエ
5. 収穫祭
6. Merry Bell
7. Innocent lie
8. Position X
9. Exit
10. Vesper Bell
11. Black History
12. 炎と雨(奥井亜紀)
13. さびしいキエル
14. The song of a stone(大塚宗一郎)
15. ボーキサイト
16. Element's
17. Colors of the wind
18. Heavy Duty
19. サードワルツ
20. 月の繭(奥井亜紀)
21. 通信


 3つの曲はきれいに配置されているように見えるが、厳密に言えば、「月の繭」は21番目にくるのがベストだったのかも知れない。
 当サイトの本文に書いた次の表を見て頂きたい。表の中の各段階は、今回ご紹介した3つの曲とも対応している。


テーマ 第一段階 第二段階 第三段階
三つのアニメ ガンダム イデオン ザブングル
ガンダム・シリーズ ガンダム ガンキャノン ガンタンク
エデンの園 アダム イブ(エバ) 天使
聖書 創世記 アダム ノア アブラハム
アブラハム以後三代 アブラハム イサク ヤコブ
第一から第三のアダム アダム イエス・キリスト 再臨のイエス
聖書的人類史の解釈 創 造 堕 落 復帰・回帰
∀ガンダム COCOA オリジナル・サウンドトラック3 限りなき旅路 炎と雨 月の繭

表−2 相関の概観

 なんとこのCDは、当サイトのテーマをみごとに網羅していたようだ。しかし、なぜそれが可能だったのだろうか。ちょっとそれ以上の深読みは著者にも無理だ。
 確かなことは、ガンダムの世界に神秘が存在するということだ。これからも、ガンダムの世界の神秘解明の限りなき旅路はつづく。


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