Philip Chen, Cheng Peng, John Luff, Kevin Spring, Dianne Watters, Steven
Bottle, Shigeki Furuya & Martin F. Lavin
Queensland Inst. Med. Res. Royal Brisbane Hos. Queensland, Australia, Sch.
Bio. Biomed. Sci. Griffith Univ., Queensland, Australia, Sch. Phys. Sci.,
Queensland Univ. Tech., Australia, Nat. Cir. Mech.Res., Group BSI, RIKEN,
Saitama, Japan, Dep.Sur. Univ. Queensland, Royal Bris. Hos. Herston, Queensland
Australia.
Atm遺伝子1)を破壊したマウスは、遺伝的疾患である毛細血管拡張性失調症の患者に見られるような特徴を示す。しかしこのマウスは神経モーター機能の欠落や神経の表現型は示しても、ヒトの患者に認められるような神経発生の発達はみられない。一方、毛細血管拡張性失調症(Atm)変異マウスでは、酸化分子やいくつかの神経疾患レベルが上昇している。Lavinらはこの実験で、
Atm遺伝子を“ノックアウト(除去)”2)および“ノックイン(導入)”2)したマウスの小脳プルキンエ細胞3)を培養したときの生存率が、正常マウスと比べて有意に減少していることを示した。正常マウス4)の殆どのプルキンエ細胞が樹状突起を伸ばし、突起が枝分かれする条件で、Atm欠損マウスのそれでは極端に樹状突起の枝分かれが少なかった。抗酸化剤(イソインドリン・ニトロオキシド)がAtm欠損マウスのプルキンエ細胞死を阻害し、樹状突起形成を正常マウスレベルまで促した。さらに妊娠期を通した抗酸化剤の投与で、Atm遺伝子破壊マウスのプルキンエ細胞の生存を、わずかながら伸ばし、より年をとった個体では酸化ストレスに対して保護した。このデータはAtm欠損マウスの小脳欠陥に対して、酸化ストレスがこの表現型に関係していることを示唆する確固たる証拠といえる。
注釈
1)Atm:AtmとはAtaxia-telangiectasia mutated(毛細欠陥拡張性失調症)の略。この疾病とこの原因遺伝子は分かっている。だがこの遺伝子の有無だけがその症状の発現や表現型を決定していないようだ。
2)ノックアウト・ノックイン: 遺伝子を人為的にマウス胚へ導入すること。ノックアウトとは胚時期に特定の遺伝子のみ除去する方法。ノックインは、目的遺伝子を導入する方法のことを言う。
3)小脳プルキンエ細胞: 小脳は運動機能を司る部位であるが、運動機能に異常が見られる動物では、小脳のプルキンエ細胞の神経突起に異常が見られることが多い。このことからプルキンエ細胞は運動機能に対して重要な働きを担う細胞と考えられている。
4)正常マウス: 遺伝子導入・除去実験を行う際、実験に用いたマウスと同じ母親から生まれた兄弟を対照群として残す。ここで使われる正常マウスとは同腹で遺伝的に同じ条件であり、かつ何も操作をしていない個体を示す。。
コメント マウスを用いた遺伝子欠損・導入実験は随分と進んできた。この論文では臨床例である毛細血管拡張性失調症とその原因遺伝子Atmとの関係について、Atm遺伝子をただ操作しても症例を改善できない箇所について、より詳細な研究を行っている。この症例の場合、抗酸化剤が小脳プルキンエ細胞の生存や突起伸長を促すことを付きとめたことから、毛細血管拡張性失調症に対する薬が考案される日も近いだろう。ただし妊娠期の投与が効果的という点については、ヒトへの応用は何段階もの壁を乗り越える必要があるだろう。