J. Neurosci. 23(36) Dec.10, 2003, pp11352-11362
脳下垂体後葉における興奮性およびカルシウム濃度変化による活性依存的抑圧は"断続伝導モデル"となる

Martin Muschol, Paul Kosterin, Michinori Ichikawa & B. M. Salzberg
Dept. Neurosci. & Physiol., Univ. Pennsylvania, Pennsylvania, USA,
RIKEN Brain Res. Inst., Saitama, Japan
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1000分の1秒単位の解像度をもつオプティカルレコーディング装置1)を用いて膜電位感受性カルシウム
2)を測定することで、脳下垂体後葉における活動電位母集団の活性依存的な変化が、カルシウム濃度変化の修飾作用にどのように伴っているかを調べた。連続刺激を与えることで、活動電位集団の振幅が大きく変化し、時間的分散が有意に増加することを見つけた。活動電位集団はカルシウム濃度変化と頻度依存的振幅との間に相関を示し、活動電位の分散は、ほんの限られた役割だけであった。高速カメラによる記録はスパイク修飾の振幅は下垂体を通して均一であることを示したが、それらはメカニズムに基づく伝播ミスを含んでいる。対照的に、一時的な分散と集合スパイクの潜伏時は刺激部位からの距離とともに増加していた。この増加は繰り返し刺激により増幅され、刺激頻度により起こる。カルシウム流入量の変化は、直接スパイク振幅集団の減少を反映し、カルシウム活性型カリウム伝導を介した神経末端やバリコシティ3)での興奮性の局所的ロスの電気生理的測定結果と一致していた。彼らはこの観察結果から“断続的伝導”モデル:繰り返しの活動電位刺激は神経末端やバリコシティに限ってはスパイク振幅集団の速やかな下降による興奮性不全を引き起こす―を提唱する。この不全は活動電位の伝播を阻害することはないが、スパイク頻度の累積的な増加が生じる。

注釈
1)
オプティカルレコーディング装置:オプティカル“視覚的、可視的”の意。レコーディングは“記録”。つまり視覚的に記録する装置のこと。この装置で細胞を上から覗き、特殊な蛍光物質を加え細胞に刺激を与えると、細胞内のカルシウム変化が見られる。これをビデオを使って記録、後に動態を解析することが出きる。日本ではノーベル賞の“カミオカンデ”製造で一躍有名になった浜松ホトニクスもこの装置製造を手がけている。
2)膜電位感受性色素: 細胞の外部から刺激をうけると、細胞膜にまず衝撃が加わる。このとき細胞膜に電位の変化が起こるが、この膜の電位を感じて色が変化する色素をいう。この色素を細胞の中に取りこませて刺激を加えると、膜電位の変化に応じて細胞内で色が変化し、カルシウム動態が視覚的に分かる。
3)バリコシティ: 神経細胞には他の神経細胞と接続するつなぎ目が神経突起上に多く見られる。この部分が静脈瘤に似た形なのでこう呼ばれる。

コメント 電気生理学分野の研究なので生理学の用語が多く、やや分かりにくいかもしれない。オプティカルレコーディング装置とは、細胞内の分子の濃度変化を、MRIのように生きたまま視覚的に観察することができる装置。この装置と、細胞に電極を当てて電気的信号を測定する電気生理学的実験を組み合わせることで、細胞がどのような状態にあるのかをより多次元的に詳しく知ることができる。この実験では細胞内部のカルシウムの動きを1000分の1秒という解像度で観察できる装置を用いて、カルシウムの伝播が起こっている際に、細胞がどのような電気生理的性質を示したかを詳しく調べている。この両者の相関が完全に理解できることで、外部刺激に対する細胞の応答と性質について一定のモデルを提唱できる。