Nature Neurosci. 7(1) Jan., 2004, pp17-23

同一シナプス末端における、発生に伴うGABA放出からグリシン放出へのスイッチング

Junichi Nabekura, Shutaro Katsurabayashi, Yasuhiro Kakazu,Shumei Shibata, Atsushi Matsubara, Shozo Jinno, Yoshito Mizoguchi, Akira Sasaki & Hitoshi Ishibashi

Dept. Cell. Syst. Physiol., Grad. Sch. Med. Schi, Kyushu Univ., Fukuoka, Japan, Dept. Dev.Physiol., National Inst. Physiol. Sci., Okazaki, Japan, Dept. Otorhinol., Sch. Med., Hirosaki Univ., Hirosaki, Japan, Dept. Anat. Neurobiol., Grad. Sch. Med. Sci., Kyushu Univ., Fukuoka, Japan.
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生後発生初期のラット側上オリーブ核1)ニューロンにおける抑制性入力では、GABA2)放出が優位であるが、その後グリシン
3)放出優位に変化する。これについてIshibashiらは、自発的な微小抑制性シナプス後電流(mIPSCs)4)が、生まれてから最初の2週間、同様にGABA型からグリシン型へ変化することを示した。この移行期にはグリシンとGABAが同じシナプス小胞から共放出されることから、多くの“混合型”のmIPSCsが見られる。免疫組織化学5)に調べると、生後8日目では多くの神経末端部はGABAとグリシンの両方を含んでいることを示した。生後14日では、これら混在神経末端中のGABA量と混在型mIPSCsの両方が減少していた。神経末端のグリシン含量は同時期に渡って増加していた。彼らの結果から、側上オリーブ核での同一シナプス前末端においてGABA型からグリシン型入力にスイッチングがおこっていると考えられた。これは発達に伴う可塑性6)の研究において、同一中枢シナプスというレベルでは新しいタイプを示したこととなる。

1)側上オリーブ核:聴覚内耳神経の一種。内耳の有毛細胞から入った聴覚信号が中脳へ伝達されるまでの経路の途中部位。
2)GABA: ガンマアミノ酪酸(Gamma-Amino Butylic Acid)の略。神経は興奮性と抑制性の2種類に分類され、両者が調節しあいながら正常な機能を保っているが、このうち抑制性神経伝達物質の代表がGABAで、これを放出するGABA作動性ニューロンが抑制性ニューロンの代表である。
3)グリシン: 抑制性神経伝達物質の代表的なものはGABAであるが、グリシンも代表的なものの一つである。グリシンはアミノ酸の構造的に低い電気伝導性を示す。
4)微小抑制性シナプス後電流(mIPSCs): miniature Inhibitorial Post Synaptic Currentsの略。シナプスの後ろで起こる微小な抑制性電流(複数合計値)のこと。
5)免疫組織化学:抗原抗体反応を利用した分子の検出方法。この場合目印をつけたGABAおよびグリシンに対する抗体を反応させて、どこにGABAが、またグリシンが存在するかを検出して調べる。
6)
可塑性脳の性質が外部刺激によって変化しうること。可塑とは、ある程度の強度のものにさらに強い力が加わると形が変化するが、その後そのままの形で固定されてしまうという意味。

コメント 「三つ子の魂百まで」という諺があるが、事実ヒトでは3歳前後までには優れた脳の可塑性が見られ、この時期に習得した情報は一生脳内に記憶されることが分かっている。この優れた可塑性を有する時期を「臨界期」と呼ぶが、この仕組みには抑制性ニューロンの発達が重要な鍵を握っていると考えられている。高次中枢の抑制性ニューロンの大多数はGABA作動性ニューロンであり、その他といえばグリシン作動性ニューロンというのが一般的である。このGABAとグリシンの両方を含むシナプス小胞が存在することは既に知られていたが、この論文では、ラット内耳神経では生後2週間前後には、同一の神経末端で発生に伴ってGABA作動性ニューロンからグリシン作動性ニューロンに切りかわるという結果を示している。子供の脳の「臨界期」のメカニズムは、様々な抑制系ニューロンが発達に伴って発達することが重要であると考えられている。ヒト大脳皮質においても、発達のある段階で抑制系ニューロンがGABAからグリシンへスイッチングし、臨界期の記憶メカニズムに関連する可能性があるとすれば、大変興味深い研究だと言える。