Neuron 41 Jan. 8, 2004, pp101-111

哺乳類脳でのカドヘリン1-APCの軸索成長とパターニングの調節

Hiroshi Kuromi, Atsuko Honda & Yoshiaki Kidokoro

Inst. Behav. Sci., Gunma Univ., Sch. Med., Maebashi, Japan
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シナプス小胞の細胞内取込(エンドサイトーシス)1)は引き続き細胞外放出(エキソサイトーシス)2)を誘発するが、この両方の過程には外部からのカルシウムイオン(Ca
2+)が必要である。しかしながらこのCa2+が一つのルート上で両過程を開始させるかどうかについては明らかになっていない。ショウジョウバエ幼虫の神経筋接続部を用いて、KuromiらはFM1-433)を用いて小胞の細胞外放出および細胞内取込の両方を別々に調べた。温度依存的Ca2+チャンネル4)変異体ハエであるcacophonyTS2では、高濃度K+5)で誘発したエキソサイトーシスにおいて、エンドサイトーシスが変化しない状態で非寛容的な温度が減少した6)
正常型のハエ幼虫において、エキソサイトーシスはクモ毒であるPLTXIIにより選択的に阻害され、一方エンドサイトーシスはCa2+チャンネルブロッカーであるフルナリジンやランタン(La
3+)で選択的に減少する。一方エキソサイトーシスやエンドサイトーシスにおいて、Ca2+イオノフォア7)誘導性でこれらのブロッカーにより影響を受けるものはない。非寛容性温度内でのcacophonyTS2と正常ハエをPLTXII処理したところ、刺激頻度とは無関係にシナプス電位誘発が減少したが、一方フルナリジンとLa3+処理ではシナプス電位が高頻度刺激においてのみゆっくりと減少した。これらはエンドサイトーシスがブロックされたことにより、シナプス小胞が形成されなかったことによると考えられた。ダイナミン8)変異体ハエであるshibirets1では、刺激を施してもダイナミンの機能が無いため、フルナリジンとLa3+が細胞膜におけるクラスリン9)集合を抑制した。

1)エンドサイトーシス:神経細胞どうしのつなぎめであるシナプスでは、電気刺激を化学刺激に変換して伝達するが、この化学刺激を伝えるため、多くの化学物質が放出されたり取りこまれたりする。この細胞の外側にある化学物質を細胞膜ごと細胞の中へ取りこむのがエンドサイトーシス(細胞内取り込み)である
2)エキソサイトーシス: エンドサイトーシス(細胞内取り込み)に対して細胞の中からシナプス部位へ化学物質を放出するのがエキソサイトーシスである。
3)FM1-43: 蛍光試薬の一種。シナプス部位の外側にこのFM1-43を投与しておくと、エンドサイトーシスによりこの物質が取りこまれる。この物質が蛍光物質であることから、蛍光顕微鏡にビデオカメラを装着した装置を用いると、細胞の外側からシナプス小胞の動態を生きたまま観察することができる。
4)Ca2+(カルシウム)チャンネル: カルシウムイオンを選択的に透過させる受容体のこと。この受容体(チャンネル)が開閉する刺激は様々なものがあり、この種類によってチャンネルが分類されている。
5)
高濃度K+細胞外側のカリウムイオン濃度が高まると、浸透圧のバランスが変化して細胞内にカルシウムが物理的に取りこまれる。この刺激により細胞内カルシウム濃度が上昇し、外部から神経細胞に刺激が与えられて細胞内カルシウムが上昇したと類似の状態を作り出すことが出来、その後カルシウムにより引き起こされる生理的現象も擬似的に誘発できる。
6)
非寛容的な温度の減少: 温度感受性が鈍るということう。
7)
Ca2+イオノフォア:人為的に作成したカルシウムイオンのたくさん詰まった小胞のこと。これを細胞内に導入することで細胞内カルシウムを上昇させ、外部から神経細胞を刺激した状態を人為的に作り出せる。
8)
ダイナミンシナプス小胞は、細胞膜が細胞内へくびれて形成されるが、この細胞膜を絞り切る役割をする分子がダイナミンである。つまりこの分子が働かないと小胞が作れず、シナプス外の化学物質を細胞膜と一緒に細胞内に取り込むことが出来ない。
9)クラスリンダイナミンがくびれを作るのはシナプス小胞になろうとする部分で、ここにはクラスリンという分子が集まって化学物質の取りこみ準備をしている。


コメント
ショウジョウバエは一般に遺伝の実験で有名だが、様々な変異体が確立されていると同時に、ゲノム解析が進んでいる動物でもある。またP因子と呼ばれるトランスポゾン(動く遺伝子)をベクター(運び屋)として用い、外から簡単に遺伝子導入することもできる。この実験ではshibireという変異を用いているが、これはいわゆる“痺れ”の意味で名づけられたハエであり、この実験ではシナプス小胞を細胞内に作るために必要なダイナミンという1つ分子を欠くことから、フルナリジンとLa3+が作用しない理由も解明できた。このようにピンポイントで個体への作用メカニズムが解明できるのは素晴らしい。ハエの変異にはそのほか様々な表現型のものが確認されており今後も大変興味深い。

ショウジョウバエのトランスポゾンについて(国立遺伝研)
様々な種類の変異ショウジョウバエ(東京都立大)