Neuron 40 Dec.18, 2003, pp1173-1183

シナプス小胞の異所的放出

Ko Matsui & Craig E. Jahr

Vollum Inst. Oregon Health Sci.Univ., Portland, Oregon, USA


シナプス小胞の細胞外への放出はふつう、超微細構造的に前シナプス前のアクティブゾーン2)のみに見られる。もしこの部位にのみ限定されて放出されているならば、シナプス間隙3)に局在していない受容体は、間隙から放出する神経伝達物質により活性化されるか、または全く活性化されない。MatsuiとJahrは、小脳バーグマングリア細胞の登上線維4)から放出される、AMPA5)受容体を介したこの「全か無かの法則」について調べた。この「全か無かの法則」は、同じ登上線維から入力を受け、全か無かで記録される隣接したプルキンエ細胞6)においては一致しなかった。バーグマングリア膜はシナプス間隙から排出されたことから、彼らは細胞外放出はバーグマングリア膜を直接横切る所にある登上線維から起こっていることを示した。この異所的放出はおそらくバーグマングリアのAMPA応答の殆どは、登上線維の刺激により引き起こされると考えられた。

注釈
1)シナプス小胞:シナプスとは、神経細胞と神経細胞のつなぎ目の部分。通常神経細胞内は電気的伝達を行うが、つなぎ目の部分は直接連結をしていないため、いったん化学物質に変換され、次の神経細胞が化学物質を受け取り、電気信号に変換しさらに伝達される。このためシナプス前は、シナプス小胞という化学物質を蓄えた小胞を細胞外へ放出し、シナプス後はこれを受け取る受容体が多数存在している。この研究ではシナプス前のAMPAというグルタミン酸を含むシナプス小胞の細胞外放出を見ている。
2)アクティブゾーン: シナプス前の神経伝達物質を放出する部位で、実際の化学伝達の際に活性化する部分という意味で名づけられた。
3)シナプス間隙: シナプス前膜とシナプス後膜の間の部分で、化学伝達がおこる領域。幅は20-40nm。その周囲は星状膠細胞の細胞突起によりシールされた閉鎖系な空間である。
4)小脳バーグマングリア細胞の登上線維: 小脳には大型のグリア細胞の一種であるバーグマングリア細胞が存在する。この細胞の小脳の軸部分から外側に向かって投射する繊維が登上線維である、この線維が小脳のプルキンエ細胞に水平方向からシナプス結合して信号入力し、調節を行う。
5)
AMPA生体の神経細胞内、特に脳内に多く存在するグルタミン酸の一種。α-amino-3-hydroxy-5-methyl-4-isoxazole propionateの略。
6)
プルキンエ細胞:小脳の中でも特に大型の細胞で、細胞体を小脳軸部に、樹状突起を皮質側に持ち、規則的に配列し運動機能を調節している。運動機能に異常が見られる動物の小脳では、この細胞の形態に異常が見られることも多い。バーグマングリア細胞の登上線維から、電気的信号の入力を受ける。

コメント 神経は電気的信号を伝える細胞だが、神経細胞と神経細胞の間のつなぎ目は直接結合していない。シナプスというそのつなぎ目は隙間があり、電気的信号はこの部分だけ化学物質に変換されて後ろへ伝わり、受容体によって受け取られて再度電気信号へ変換され伝えられる。このシナプスは、神経化学・生理学の分野で大変古い歴史と共に、最も長く多く調べられてきた領域である。しかしながらこの論文は、そのシナプス前からの化学物質の放出機構について、今までの常識と考えられていた定説とは異なる結果を出している。シナプス小胞が異なる場所から放出されていると言う結果である。現在では、シナプス小胞をつくる膜にクラゲの発光体を遺伝子導入することで、小胞の細胞内での動態を生きた状態のままで調べることが出来、様々な結果がもたらされている。