The Journal of Neurosci. 23(37) Dec. 17, 2003, pp11732-11740
新規分泌因子ニューロジェネシン-1は、成体海馬の神経幹細胞に対し神経発生のための環境的信号を提供する

Takatoshi Ueki, Masamitsu Tanaka, KannaYamashita, Sumiko Mikawa, ZheFu Qiu, Nicholas J. Maragakis, Robert F. Hevner, Naoyuki Miura, Haruhiko Sugimura & Kohji Sato
Dept.Anat. Neurosci. First Depat. Pathol. & Dept. Biochem., Hamamatsu Univ. Sch. Medicine, Hamamatsu, Japan, Grow. Fac.Dev. Nat.Cancer Center Res. Inst. Chuo-ku, Tokyo, Japan, Dept. Neurol. Jons Hopkins Univ. Sch. Med., Maryland & Dept. Path. Univ. Washington Sch. Med. Seattle, Washington, USA


成体の哺乳類脳では神経発生はほんの限られた部位でしか起こり得ないが、とりわけ海馬歯状回1)で見られる神経発生は、記憶と学習に対して非常に重要な役割を果たしている。今日においても、神経幹細胞
2)が神経発生部位に居座ることで結果的に神経としての運命選択をするという神経発生への手掛かり、特に成体海馬神経発生での神経発生の手掛かりについては殆ど分かっていない。Satoらはこの研究において、海馬アストロサイト3)および神経幹細胞と隣接する歯状回顆粒細胞4)が、新たに単離・精製された新規分泌因子、ニューロジェネシン-1を分泌することを示した。このタンパクは3つのシステインに富むドメインをもち、特別な配列を持っている―これは成体脳で、神経幹細胞が神経分化する時に、グリアへの運命に選択されることを妨げるような配列―を持っている。さらに、海馬培養液の神経発生活性は、ニューロジェネシン-1抗体を投与すると特に抑制された5)。このことから内因的メカニズムにより成体海馬の神経発生は誘発されることが示され、神経再生疾患のような神経新生処理は、海馬神経のロスによることが示された。

注釈
1)海馬歯状回:海馬は脳の中でも記憶に関わる領域。海馬の背中側は、外部からの入力を担う部分で、この情報は腹側に伝わり大脳へ出力される。この腹側に位置するのが歯状回と呼ばれる部分である。背腹軸に切断するとひらがなの「く」の字をしており、これが歯の形に似ていることからこう呼ばれる。
2)神経幹細胞: 神経細胞の前駆細胞。未だ機能的には神経となっていない未成熟な神経細胞。
3)アストロサイト: 神経細胞はニューロン(電気的信号を伝達)とグリア(非伝導的細胞、ニューロンをサポート)に2分される。さらにグリア細胞の一種で、ニューロンに酸素や栄養を供給する役割を担うのがアストロサイトである。脳内に多数存在する。
4)顆粒細胞: 海馬に存在する細胞は錐体細胞と顆粒細胞と大きく2種類に分けられる。顆粒細胞は電気的信号を送らない小型の細胞。
5)細胞をとりまく環境に、ある物質の抗体を投与すると、物質と抗体が抗原抗体反応で結合し、物質が活性を失ってしまう。この方法を抗体中和法という。


コメント 少し前まで、神経細胞は大人の脳では分裂増殖しないのが世の常識だった。ところが記憶を司る海馬の一部では、大人になっても神経発生が起こっていること、そしてそれらが記憶・学習に重要な役割を担うことが分かってきた。一方、新しく発見された分泌因子ニューロジェネシン-1は、どんな役割を担っているのか?この2点を結びつける研究といえる。新しく発見された物質にはどんな機能があるか分からない。様々な角度からその生理活性を調べ、その役割を発見していって欲しい。