PNAS 101(1) Jan.6, 2004, pp354-359

ガラニン過剰発現マウスにおける繰り返し強制水泳テストによる海馬ノルアドレナリンとセロトニン放出の増加

Takeshi Yoshitake, Fu-Hua Wang, Eugenia Kuteeva, Kristina Holmberg, Masatoshi Yamaguchi, Jacqueline N. Crawley, Robert Steiner, Tamas Bartfai, Sven Ove Ogren, Tomas Hokfelt & Jan Kehr

Dept. Neurosci., Karolinska Inst. Retzius vag, Stockholm, Sweden, Fac. Pharmac. Sci., Fukuoka Univ., Fukuoka, Japan, Lab. Behav. Neurosci., Nat. Inst. Mental . Health, Bethesda, MD, Dept. Obst. Gynecol., Dept. Physiol. Biophys., Univ. Washington, Seattle, Scrip. Res., Inst. La, CA, USA.


血小板由来成長因子Bプロモーター(GalOE/P)1)またはド―パミン脱水酸化酵素(GalOE/D)プロモーター2)下流におけるガラニン過剰発現マウス3)では、通常水泳または強制水泳ストレス4)がノルアドレナリンとセロトニン5)の放出を誘導することが、海馬腹側部位への生体内マイクロダイアリシス法6)によりわかった。正常マウスおよびGalOE/Pマウスでは、ガラニンを脳室内投与すると細胞外ノルアドレナリン量が有意に減少する。10分間強制水泳を行い、マイクロダイアリシスでサンプル採取したところ、正常マウスのノルアドレナリンとセロトニン放出量はそれぞれ127%、119%となったのに対し、GalOE/P群ではそれぞれ213%、156%まで上昇していた。10分間、再度強制水泳させると、ノルアドレナリンとセロトニン放出量はさらに上昇し、GalOE/P群ではそれぞれ344%、275%となった。一方、GalOE/Dマウスの細胞外ノルアドレナリン量の上昇は192%止まりだった。再度強制水泳後、GalOE/Pマウスを推定されているペプチド型ガラニン受容体の拮抗剤であるM35で再処理すると、ノルアドレナリンとセロトニンレベルの上昇が完全に阻害された。この結果から、GalOE/Pマウスにおける海馬投射神経のノルアドレナリンとセロトニンは強制水泳などの条件付および無条件ストレス刺激に対して強い感受性をもち、この作用はガラニン受容体を介している。これらの見解は、ガラニンがノルアドレナリンとセロトニン放出、そしてその2つの神経伝達物質間の調節に関係していることを示している。

1)血小板由来成長因子Bプロモーター:プロモーターとは「(遺伝子を)開始させる」の意。この場合ガラニン遺伝子を生体内で過剰発現させるため、遺伝子を生体に入れてから人為的に発現をスイッチオンする。その方法はガラニン遺伝子を導入後、このマウスに「血小板由来成長因子B」を投与するとスイッチが入るよう、血小板由来成長因子Bのプロモーターをガラニン遺伝子につなげ導入する。このようにして作成されたマウスが「血小板由来成長因子Bプロモーター(GalOE/P)マウスである。GalOE/PのPは血小板由来成長因子PDGFの頭文字。
2)ド―パミン脱水酸化酵素プロモーター: 上述と同様に、ガラニン遺伝子の発現を誘導する物質として遺伝子上流に接続されたもの。ド―パミン脱水酸化酵素の投与によりガラニン遺伝子の発現が開始する。GalOP/DのDはド―パミンDopaminの頭文字。
3)ガラニン過剰発現マウス: ガラニンは種々の生理活性を有する神経ペプチドで生体内に広く分布している。このガラニンが脳や神経系においてどのような生理作用をするか、現在も様々な研究がなされている。ガラニンは生体内で様々な働きをしているため、遺伝子を欠損させたマウスを作るのは難しい。この実験では過剰に発現させてその生理作用の変化を調べることによりガラニンの役割を見出している。
4)強制水泳ストレス: 水中へ無理やり投下して泳がせる実験。ネコやマウス、ラットは水中へ投下されることをストレスと感じるため、特に痛みを伴わないストレスの実験に用いられる。
5)ノルアドレナリン、セロトニン:ノルアドレナリンは神経を興奮させる神経伝達物質。交感神経系終末から放出される。不安や恐怖を引き起こしたり、覚醒、集中、記憶、痛みを感じなくする働きがある。セロトニンは必須アミノ酸の一種であるトリプトファンの代謝過程で生成される。他の神経伝達物質、例えばノルアドレナリンなどの作用を調節し、安定させる作用がある。セロトニンが不足すると感情などの抑制がうまく行かないことから、最近ではうつ病にかかわる神経伝達物質としてよく知られる。
6)
マイクロダイアリシス直訳すると微量透析の意。脳内の神経伝達物質の動態を生きたまま調べる装置。生きた動物の頭蓋骨に小さな穴をあけ、ここに透析膜のついた微小パイプ(プローブ)を取りつける。これをチューブを介してポンプにつなげ、ポンプより生理食塩水を脳内に出し入れする。こうして回収した液体を分析することにより脳内にどんな神経伝達物質が放出されているか解析する。生理食塩水の代わりに特定の物質を投与することにより、その効果を動いている生体内で調べることもできる。

コメント 特定の遺伝子を導入したトランスジェニックマウスや特定の遺伝子を欠くノックアウトマウスの作成が普通にできるようになった今日、生体内のたった1つの分子が、生きた動物において生理的にどのように作用しているのかを調べられるようになった。この方法では、薬理学だけでは解明できなかった受容体サブタイプごとの生理的な違いなども生きた動物で調べられる。一方この方法では生命維持に重要な分子を調べようとすると生前に死んでしまい機能が調べられなかったり、目的遺伝子を欠損させても良く似た生理作用を持つ他の分子が取って代わって働き、役割が見出せなかったりと言った短所も併せ持っている。うまく行くかどうかは、実際に労力をかけてマウスを作成し、実験を行ってみるしかない。