先輩のおはなし
 | 先輩のお話
ウェブ・キャベニー
「我々ほとんどの科学者にとって、細胞は細胞、単なるシャーレの中で操作するものでしかありません。でも、レチノブラストーマに罹った子供を一度でも見たら、その人の視点は変わるでしょう。私の場合、そうでした。二年程レチノブラストーマを研究したときのことですが、私はそれまで患者を見たことがなかったのです。レチノブラストーマ細胞を顕微鏡で見たことはありましたが、何のことはない、それは私にはラットの繊維芽細胞と大差なく見えました。私は、自分達の取ったマーカーDNAが、レチノブラストーマに使えるかどうかを調べるために、スウェーデンに行きました。そこで、一人の小さな患者に出会ったのです。それは、私の子供と同じ二歳の男の子で、美しいブロンドの髪をしていました。ちょうど手術室に入る前で、母親はさようならのキスをしました。
次に彼を見たのは手術の後で、顔を包帯でぐるぐる巻きにされていました。両眼の摘出手術を受けたのです。目覚めると、子供は泣き始め、母親はあやそうとしました。すると子供は母親にこう尋ねたのです。『ママ、これじゃ目が見えないよ。お医者さんはいつ包帯取ってくれるの?』 何という不条理でしょう。あの子供が一体何をしたっていうんでしょう。
科学者の名声やエゴなどくそくらえだ。科学者はトレーニングの一環として病院へ行くべきです。一度、こんな光景を見せられれば、自分が誰のために働いているのかがわかりますよ。研究から得られるどんな成果も、それは自分達のためのものではありません。彼らのためのものなんです。」