2002年7月11日 原爆投下で日本人は救われた?
今学期に受講しているHistry 2のクラスもいよいよ大詰めを迎えよう
としている。Histry 1のクラスはコロンブスが新大陸を発見した149
2年から始まり南北戦争が終わるまでの大まかな歴史の流れを学べば良
かった。しかし、Histry 2となる現代史の複雑な話になってきて何かと
面倒臭い。最近はついに第二次世界大戦の話になり、クラスで只独りの
留学生であり日本人である俺は肩身の狭い思いをしている。と、思われ
るかもしれないが、実は結構楽しく授業を聞いている。日本では大戦の
話はあまり詳しく教えてくれなかったが、アメリカの授業はかなり詳し
い事まで教えてくれる。原爆を創り出すマンハッタン計画の過程なども
事細かに教えてくれた。
そんな風に、アメリカ側からみた第二次世界大戦の授業を俺は結構興
味深く聞いていた。そして、大戦の話も後半に入り、ようやく原爆投下
の話が終わった時、教授がこんなことを言った。
「これは私個人としての見解ですが、確かに原子爆弾は恐ろしいもの
でした。しかし、その投下によって戦争の終結を早めた事で日本人はそ
れ以上無駄な犠牲者を出さずにすみました。原爆を投下してなかった場
合よりは良かったのではないでしょうか?」
この話を聞いたとき、「はだしのゲン」を読んで泣いた経験のある俺
はカチンときた。普段全く発言しない俺だが、ここは日本人として反論
しなければいけないと考え、やっとのことで手をあげた。俺の言った反
論はこうだった。
「日本軍が真珠湾攻撃をした時はあくまで米軍の基地を攻撃しまし
た。しかし、原爆投下は民間人を標的とし20万人以上の市民を虐殺し
ています。教授はそれでも原爆投下によって日本人は救われたと言うの
ですか?」
しかし、教授は落ち着いてこう答えた。
「確かに、犠牲者の数はあまりにも多かったですが、よく考えてくだ
さい。あの頃の日本は、SUCIDE ATTACK(特攻の事)にも見られるよう
に、国民全体が洗脳されて、日本人が最後の独りになっても抵抗しつづ
けるような状態でした。原爆と言う圧倒的な爆弾を受けて初めて目が覚
めたのではないですか?」
悔しいことに、俺は反論できなかった。反論するネタが無かったわけ
ではないのだが、その場でそれがすぐ浮かんで英語で発表する能力が俺
には無かった。授業が終わり、アパートへ向けてハイウェーを運転しな
がら俺は頭の中で、あの時なぜああ言えなかったのか、あそこでああ言
って置けば良かったなどと考えていた。考えれば考えるほど悔しい思い
がこみあげてきた。しかし、家に帰って冷静に考えたとき、俺は教授と
同じような事を中国人の友達に対して言ったことがあった。
少し前まで、中国人のルームメイトと一緒に住んでいたのだが、その
ルームメイトが第二次世界大戦のときの中国に対して日本軍が行った事
について俺につっかかってきた。そこで俺が言った反論はこうだった。
「確かに、日本軍が行ったことに残虐な行為もあったかもしれない。
だけど、あの時代に日本がああしていなかったら、東南アジアは欧米列
強の食い物にされていたかもしれないんだぞ?第二次世界大戦があった
おかげで植民地から独立できた国がいくつもあるじゃないか。中国だっ
てそうじゃないのか?」
ルームメイトは何か言いたそうだったが、彼の英語はつたなく、それ
以上俺に反論できなかった。それからというもの俺は中国人の友達から
突っかかれるたびにこの反論をくりかえした。今考えると、彼らが未だ
に俺と友達でいることが不思議だ。彼らは大分若い世代なので助かった
のかもしれない。
そういう経験も踏まえて考えた場合、なぜ俺が教授にああ言われて、
カチンときたかがわかった気がする。つまり、殺人を犯した犯人がその
悲しんでいる遺族に向かって「結果的にあいつが死んでよかったんじゃ
ないか?」と言っているのと同じ事なのだ。日本が掲げた大東亜共栄圏の理想はあくまで建前であり、その実はアジアにおける覇権を握り、列
強の仲間がしたかっただけなのだ。アメリカも、原爆投下によってそれ
以上の犠牲者が出ずにすんだ、と言うのは後からの理由付けである。そ
の当時に原爆投下に踏み切った理由は、ソ連が不可侵条約を破り参戦す
ることを発表したのが原因だった。アメリカはその時すでに、戦後の構
想としてソ連が大きなライバルになる事を予想しており、戦後日本の統治はあくまでアメリカ主導で進めなければならず、可能な限り戦争を早
く終わらせソ連を参戦させない事が目的であった。広島への原爆投下の
日は、ソ連軍の日本上陸予定日の数日前であったことを考えてもそれは
明らかな事実だ。
つまり、日本軍にしてもアメリカ軍にしてもその残虐行為を起こした
時に考えていた事は自分の利益である。その行為を正当化するために後
から理由付けすることは許されるべきではない。なぜならそれを許せば
アメリカはまたどこかの国に原爆を投下するだろう。それはアフガニス
タンであったかもしれないし、イラクであるかもしれない。そして殺さ
れるのは無力な一般市民だ。
このホームページを読んでいる留学生の皆さん、History 2を受講して
第二次世界大戦の話になったときはぜひ原爆投下についてアメリカの見
解に反論できるように十分準備してからクラスに出てください。お願い
します。