進 化 す る 環 境 会 計
〜リコーの事例に学ぶ環境会計の近未来〜
環境ビジネスコンサルタント
中小企業診断士 内
藤 秀 治
1.はじめに
毎年、6月後半になると新聞紙上に企業の決算広告があふれてくる。今年は、6月29日(木)が株主総会のピークにあたり、東証上場会社の84.1%にあたる1,368社をはじめ、全国で2,121社の公開企業が一斉に株主総会を開催した。従来の株主総会といえば総会屋対策に終始したシャンシャン総会というイメージが強かったが、ここ数年は開催日が分散しており、徐々にではあるが株主総会のオープン化が進んでいる。さらに今年の株主総会では、従来からの財務会計報告のみならず、環境会計の報告を盛り込む企業も出てきた。投資家との良好な関係を維持するためには、高い収益性に加え、地球環境への適切な対応が求められつつあるようだ。
このような環境会計を積極的に開示している企業の代表として株式会社リコー(以下、リコー)がある。リコーは、1976年に環境推進室を設立以来、積極的に環境保全活動に取り組んでおり、わが国でも有数の環境経営先進企業である。最近では、第9回地球環境大賞「経団連会長賞」、第3回環境報告書賞「最優秀賞」を受賞したが、その他にも環境保全活動に関する数々の賞を受賞しており、名実ともに環境リーディングカンパニーといえる。


この度、リコーから99年度(1999年4月1日〜2000年3月31日)の環境会計が発表された(第1表、第2表)。98年度(1998年4月1日〜1999年3月31日)に初めて環境会計を公表(第3表)してから今回で2度目になる。
環境保全への取り組みを定量的に評価するための環境会計は、現在、急速な勢いで進化している。2000年5月に環境庁から「環境会計システムの導入のためのガイドライン(2000年版)」(以下、2000年ガイドライン)が発表され、一定の道筋が示されたことにより、今後、さらに広く普及されることが予想されている。しかし、一方で情報の信頼性や客観性に対して疑問視されるなど、環境会計は未だ試験段階から脱していないとの意見が多いのも事実である。
そこで、リコーの2年度の環境会計を比較しながら、環境会計の発展状況、有効性、将来性を検討していきたい。

2.リコーにおける環境会計
リコーには、大きく分けて2種類の環境会計が存在している。「コーポレート環境会計」と呼ばれる企業活動全般を対象とした経営レベルのものと、「セグメント環境会計」と呼ばれる事業所単位、個別活動単位の環境会計情報を取り出した実務レベルのものである。一般的に環境会計と言われているのは、前者の経営レベルのものを指すことから、今回は「コーポレート環境会計」のみを検討の対象とし、「セグメント環境会計」には触れないこととする。
リコーの98年度と99年度の環境会計システムを比較したのものが第1図である。
98年度と99年度で大きく異なるのは、環境会計の範囲をグループ企業にまで拡大したことだ。99年度には、国内外生産関連会社12社を加えた。その内訳は、東北リコー、迫リコー、リコー光学、リコーユニテクノ、リコーエレメックス、リコーマイクロエレクトロニクス、リコー計器、REI(北米)、RIF(フランス)、RPL(イギリス)、RAI(中国)、台湾リコー(台湾)であり、順次、環境マネジメントシステムの構築ができた関連会社を環境会計の対象としていくと発表している。環境行動計画によると、2001年度末までに、国内外の全事業所で環境マネジメントシステムの構築が完了する予定であることから、2001年度には全グループの環境会計が公表されるものと推察される。
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98年度 |
99年度 |
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| (1)
環境会計の目的 |
@社内の経営情報として Aステークホルダーに向けて B消費者のために |
@社内の経営情報として Aステークホルダーに向けて |
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| (2)集計範囲 |
リコーのみを対象。 |
リコー及びリコーグループ(国内外生産関連会社12社)を対象。 |
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| (3)環境コストの範囲 |
設備償却費、人件費、経費など企業活動に関わる環境関連の支出。
(環境庁のガイドライン中間まとめにそった集計)
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設備減価償却費、人件費、経費を網羅的に把握。 (環境庁の2000年ガイドラインにそった集計) |
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| (4)効果の範囲 |
@経済的効果(金額ベース) 経済的効果に関してはその性格に応じて、算定項目別に以下の三つに分 類している。 a:実質的効果;
節電、節水、リサイクル有価物の売却益などの効果
b:みなし効果;
ある定義にて経済的効果があったとみなした効果 (生産付加価値に対する環境保全活動の寄与分など)
c:偶発的効果;
将来のリスク(訴訟、修復費等)を回避したと考え られる効果 |
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| A環境保全効果(物量ベース)
CO2(注1)、NOx(注2)、 SOx(注3)、廃棄物最終処分量、 用水の5項目についての年度の削減 量と総量を把握する。 (今後、項目については見直していく) |
A環境保全効果(物量ベース)
CO2、NOx、SOx、 BOD(注4)、廃棄物最終処分量、PRTR(注5)対象物質の6つの環境保全項目についての年度の削減量と総量を把握する。 |
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| (5)
環境効率について |
2つの表現にて環境効率を表す。
@
EE値(環境改善効率) 対象年度に要した総環境費用に対する環境保全項目の環境負荷 削減の効果を表現
EE値 = 環境負荷削減量/環境費用総額
(単位:t/億円) A
エコレシオ(環境負荷利益率) 事業活動に伴い発生した環境保全項目の環境負荷総量に対して得ら れた事業付加価値を表現
エコレシオ = 売上総利益/環境負荷総量 (単位:億円/t) |
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| (6)環境総合指標について |
98年度は なし。 |
99年度より、新たな試みとして、環境保全項目の統合化と指標の確立を検討。 @環境改善指数(EEI;エコエフィシェンシーインデックス)
=環境負荷削減総量(係数換算値)/環境費用総額(千円)
→効率的に環境負荷を減らせたか
A環境負荷利益指数(エコインデックス)
=売上総利益(千円)/環境負荷総量(係数換算値)
→少ない環境負荷で多くの利益を得ることができたか
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第1図 リコー環境会計システムの年度別比較
もう一つの大きな進歩は、環境総合指標を導入したことである。これにより、環境保全活動の評価について、トータルな判断が可能になった。98年度では、CO2などの環境負荷項目別にEE値(環境改善効率)、エコレシオ(環境負荷利益率)で環境効率を評価するのみであったが、99年度には、換算係数を導入したことで別々の環境負荷項目を一律に評価することができるようになった。つまり、細かい内容を見なくても、一目で環境効率が上がったのか下がったのかが分かるようになった。それが、環境改善指数(EEI;エコエフィシエンシーインデックス)と環境負荷利益指数(エコインデックス)である。ただし、これらの指標もあくまでリコー独自のものであり、必ずしも他の企業、他の産業で統一されているものではない。参考までに、リコーの「エコインデックス」の推移を次に示す(第2図)。

その他、環境コストの集計方法を「2000年ガイドライン」に準拠させたほか、物量ベースの環境保全項目を5項目から6項目に変更するなど、確実に改善のあとが見られる。
3.環境会計の今後の課題
このように、環境会計は進化の過程にある。未だ解決されていない種々の課題も含んでいる。
その一つは、効果面の測定・公表についてである。環境保全対策における効果には、「貨幣単位」のもの(金額で表わすもの。例えば、円、ドルなど)と、「物量単位」のもの(物理的な単位で表わすもの。例えば、トン、グラム、リットルなど)がある。「貨幣単位」のものについて確実な根拠に基づいた経済効果について大きな問題はない。しかし、予防的な環境保全対策によって発生する「偶発的な経済効果」(それを実施していなければ発生していたかもしれない偶発的なコストの回避額)の取り扱いについては、検討の余地が大きい。環境庁の「2000年ガイドライン」では、「偶発的効果は、公表を求めない。公表する場合は、算定根拠を示すこと」と書かれている。リコーでは、このガイドライに準拠しているものの、偶発的効果、つまり「分類C」の金額は、今年も公表されている。ただし、その算定根拠は、必ずしも明らかではない。客観性を持った環境会計のためには、「偶発的な経済効果」の測定方法、公表の基準が必要である。
また、「物量単位」の効果測定についても課題が残されている。どの環境負荷項目を対象にするのかの決定は企業にゆだねられていることである。リコーでは、98年度から99年度に対象を5項目から6項目に変更している。これは、“用水”を削除し、“BOD”、“PRTR対象物質”を加えたものである。対象項目が年々変化していくと、経年比較が難しくなるとともに、他企業との比較は不可能である。
二つ目は、総合的な評価のあいまいさである。環境会計を発表しても、結果的に良かったのか、悪かったのか、前年に比べてどうなのか、他社に比べてどうなのかが一目で判断できない点である。リコーが99年度からすすめてきた環境保全項目の統合化と指標の確立は、これに一石を投じるものになるであろう。環境改善指数(EEI;エコエフィシェンシーインデックス)と環境負荷利益指数(エコインデックス)がそれにあたる。
今後、環境会計がさらに普及していくためには、国内的、国際的に環境会計ルールの統一が不可欠である。一方で、個別企業としても自らの創意と工夫で独自の基準を作り上げる必要がある。各社の地道なデータの蓄積のうえに統一ルールが構築されるのである。リコーが、環境改善指数(EEI;エコエフィシェンシーインデックス)と環境負荷利益指数(エコインデックス)を公表したように、各社が積極的に独自の環境会計の方法をオープンにしていくことで、環境会計の進化のスピードが加速されるものと確信している。
4.あとがき
99年度のリコーの当期純利益は226億円となり、過去最高益を更新した。環境保全活動と企業業績の間には相関関係があることを証明した。その橋渡し役が環境会計である。私は、リコーの環境会計が近い将来の基準になり得ると考えている。「21世紀は環境の世紀」といわれるように、環境問題から目をそらすことはできない。今こそ環境保全活動をコスト面からのみとらえるのではなく、効果面にも焦点をあて企業革新を進めるときである。企業業績向上のための手段として積極的に環境会計を導入するのも一つの方策である。貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書と並んで、環境会計報告書が全ての企業の営業報告書に掲載される日もそう遠くはないであろう。
(注1)
CO2 :二酸化炭素
(注2)
NOx:窒素酸化物
(注3)
SOx:硫黄酸化物
(注4)
BOD:生物化学的酸素要求量(水中の有機物量を表わす指標)
(注5)
PRTR:環境汚染化学物質排出・移動登録(2001年4月よりPRTR法が施行される)
<参考文献>
@「リコーの環境価値マネジメント」 峰如之介著 発行ダイヤモンド社
A「環境会計ガイドブック」 環境庁
B「1999年版リコーグループ環境報告書」 リコーグループ
C「リコーホームページ http://www.ricoh.co.jp/ecology
」
筆者略歴
内藤 秀治(ないとう しゅうじ)
中小企業診断士大阪支部「環境経営研究会」会員 1994年工鉱業部門登録。
電気メーカーを経て、1989年、(株)タナベ経営入社。1995年、(株)クリエイティブマネジメントコンサルティングの設立に参画、現在に至る。経営診断、経営コンサルティング、講演・企業教育等の実績は多数にのぼる。現在、「エコビジネス事業化セミナー」を定期的に開催している。