環境ビジネスの現状と中小企業の参入戦略(1)

 

〜勝てる環境ビジネス市場のディスカバリー戦略〜

 

                                環境ビジネスコンサルタント

中小企業診断士 内 藤 秀 治

 

1.環境ビジネスは21世紀の主役産業

 

  20世紀も残すところ4ヶ月となった。20世紀は利便性と経済性を追求した結果、まさに「創造と破壊の世紀」であった。便利で快適な商品やシステムが数多く創りだされ、人々の生活が豊かになった。反面、多くの自然が破壊され、生態系が破壊された。その破壊の手はわれわれ人類の生存を脅かすまでになってしまった。

一方、21世紀は「環境の世紀」と呼ばれている。18世紀にイギリスで始まった産業革命以来続いてきた地球環境の破壊に終止符が打たれる世紀だ。そして、その担い手は今まで破壊の主役であった産業界である。産業界の環境保全活動こそ、21世紀、「環境の世紀」の主役活動となる。そしてそれは、環境ビジネスという形で具現化することになる。

今年の5月26日に環境庁から「環境ビジネスの市場規模予測」の発表があった(第1表)。

1997年には25兆円であった市場が、2010年には40兆円へと年平均3.7%の成長率で拡大する予測である。

さらに、世界の市場に目を転じてみると、市場の大きさに目を見張ってしまう(第2表)。

このビッグ市場に、大小問わず多くの企業が熱いまなざしを注いでいる。

ただし、環境ビジネスに参入すれば絶対に成功するというわけではない。ビジネスで成功するには、勝てる市場を探す必要があるからだ。「ここでなら勝てる」という市場を発見し、その市場で勝つための仕組みをつくるのがマーケティング戦略である。本号では、環境ビジネスの市場動向を分析し、中小企業にとって有望な環境ビジネス分野を探ってみたい。いわば、“勝てる環境ビジネス市場のディスカバリー戦略”である。

 

 

 
 


 

 

 

 
 


 

 

 


2.環境ビジネスの市場動向

 

(1)   環境ビジネスの定義

 

 環境ビジネスについて考察するにあたっては、まず環境ビジネスの定義を明確にする必要がある。今までは必ずしも明確ではなかったが、1999年にOECD(経済協力開発機構)にて一定の道筋が示された。「『水、大気、土壌等の環境に与える悪影響』と『廃棄物、騒音、エコ・システムに関連する問題を計測し、予防し、削減し、最小化し、改善する製品とサービスを提供する活動」というのが、環境ビジネスの定義である。要約すると、「地球環境にとって不具合な問題を計測、予防、削減、最小化、改善する事業」が環境ビジネスであるということになる。分かりやすくするために、環境ビジネス・マップを紹介する(第1図)。

ここでは、縦軸に製品やサービスの機能を、横軸には製品やサービスの提供形態を取り、マトリックスを作成した。ここに紹介したのは一例に過ぎない。現在の環境ビジネスのアイテム数は800を超えたといわれている。あらゆる産業から環境ビジネスへの参入が始まっているのである。

 

 


 


(出所)平成11年版環境白書を基に、筆者作成

第1図  環境ビジネス・マップ

 

 

 

(2)   環境ビジネスの市場規模の変化

 

 再度、第1表に目を転じてみよう。ここでは、環境ビジネスを大きく3つの分類に分けている。「環境汚染管理」、「環境負荷低減技術及び製品」、「資源管理」の各分野である。

まず、1997年のデータを分析すると、もっとも大きな市場は「環境汚染管理」分野であり、全体の57.4%を占めている。次いで、「資源管理」分野で41.6%でありこの2つで99%を占める。この中でも特に市場規模が大きいビジネスは、「廃棄物処理」(73,904億円)、「再生素材」(37,451億円)、「排水処理設備」(33,942億円)といったところである。

一方、2010年の予測数値では、「資源管理」分野の伸びが大きく、全体の52.0%を占めることになる。「環境汚染管理」分野は47.3%にとどまる。この13年間で伸びの大きいビジネスは、「土壌、水質浄化」、「教育、訓練、情報提供」、「水供給」、「省エネルギー及びエネルギー管理」、「再生可能エネルギー施設」、「再生素材」、「環境負荷低減及び省資源型技術、プロセス」といったものである。特に、「再生素材」(88,506億円)は「廃棄物処理」(85,202億円)を抜いて最も大きな環境ビジネスに成長するものと予測されている。ここから明らかなように、環境ビジネスにおける21世紀のトレンドは、「リサイクル」、「省エネ」、「省資源」、「水」、「土」、「教育」、「情報」といったところである。

また、第1表を見て気づくことがある。余りにも未集計の項目が多いことだ。環境庁は2010年に40兆円という市場規模予測を発表しているが、筆者はこの未集計部分をプラスすると、将来的には 100兆円を超える規模になるのではないかと考えている。100兆円といえば、現在のGDPのおよそ20%にあたる大きな数字である。しかし、今後の農林水産業は、持続可能な方向に軌道修正しなければ産業自体が危機に瀕することになるであろうこと、旅行業界の商品はエコ・ツーリズムが主流になること、市場に出回っている製品やサービスは全てエコプロダクツにならざるを得ないことなどを考えるとあながち夢物語でもないと思う。さらに、環境ビジネスの規模がGDP比で20%になるころには、「環境ビジネス」という言葉自体がなくなり、全ての事業者が環境配慮型の製品・サービスを提供し、全ての国民が当たり前のように環境配慮型の生活をしているのではないだろうか。

 

 

 

(3)   中小企業の環境ビジネスへの参入状況

 

 一般的に、環境ビジネスの市場シェアは大手企業7割、中堅・中小企業3割。大手企業は官公庁依存、中堅・中小企業は民間からの受注に依存しているといわれている。

それでは、この環境ビジネスに中小企業が、どの程度参入しているのかを1998年に(財)東京都中小企業振興公社が調査した「中小企業の環境ビジネス実態調査報告書」のデータをもとに見ていくことにする(第3表)。

この調査は、中小製造業に限られたものであるが、すでに7.5%の中小企業が環境ビジネスに参入しているとの結果である。製品・技術を開発中、あるいは計画中まで含めると約20%の中小企業が、今後、何らかの形で環境ビジネスに参入してくる可能性が高い。さらに、地球環境問題の認識の高まりから、この数字はさらに上昇するものと推察する。

次に、環境ビジネスへの参入分野を見ていくと、「資源の有効利用」、「ごみ問題の改善」、「公害防止」が上位3項目を占めている(第2図)。

 

 

 

 
 


 

 

 

 


 


資料:「中小企業の環境ビジネス実態調査報告書」のデータをもとに作成)

(財)東京都中小企業振興公社(98年3月)調べ

 

第2図  中小企業の環境ビジネス参入分野

 

 

 

この調査結果は、環境庁の「環境ビジネスの市場規模予測」とも一致しており、「リサイクル」分野、「廃棄物処理」分野、「環境汚染防止」分野の市場の大きさを物語っている。特に「リサイクル」・「廃棄物処理」分野では、積極的に法的規制の見直し・強化が行われている分野である。先の第147国会でも「循環型社会形成推進基本法」をはじめ6つの環境関連の法律が成立したが、そのうち5つはリサイクル・廃棄物処理に関するものであった。法規制が変化するところにはビジネスチャンスが多く転がっていることは言うまでもない。一方、この分野は既得権を持った事業者が多い分野でもあり、既存の事業者にとっては経営革新が求められることになるであろう。

 

 

 

3.中小企業にとって有望な環境ビジネス

 

(1)中小企業の特徴

 

 中小企業が環境ビジネスに参入するには、まず中小企業の特徴を押さえることが第一である。ビジネスで勝つには自身の特徴をいかに発揮できるかにかかっているからだ。自分の強みをいかに発揮するか、これこそがビジネスで勝つ唯一絶対の方法だ。中小企業といっても個々の企業によって、業種も違えば、歴史も社風も違う。規模も立地も何もかも違う。しかし、一般的に言われることは、経営資源の不足により競争力が低いということである。ヒト、モノ、カネ、情報、ネットワーク、時間において大企業と比較すれば不利な状況にある。一方で、意思決定が速く、機動力があるという面を忘れてはならない。機動力というのは、言い換えれば変わり身が速いということである。昨日は西部戦線で戦っていたかと思うと、今日は東部戦線で合戦ができるということである。別の言い方をするといつでも参入し、すぐにでも退却できる身軽さということである。また、地域経済に立脚しているという特徴もある。規模が小さいため広域な範囲の事業ができないために、結果として地域経済の依存度が高い特徴を持っている。さらに、何らかの他社にないコア・スキルを持っていることがあげられる。いかに中小企業とはいえ、コア・スキルを持たない企業はビジネス社会から淘汰されるのが掟である。今日まで存続してきたということは、他社にないコア・スキルを持っている証拠である。

 以上、まとめると、一般的に中小企業は、「経営資源が少ない」という弱みと、「機動力がある」という強み、「地域経済への密着」、「他社にないコア・スキルの保有」という特徴を持っているといえる。

 

 

(2)環境ビジネスの特徴

 

 次に、環境ビジネスの特徴をみていく。第一に、環境ビジネスの本質は規制産業であることだ。ここが、今までのファッション産業やグルメ産業など、他の産業とは根本的に違う点である。多くの産業は、若干の規制はあるものの、基本的には自由な競争で顧客志向の経営をおこなっている。顧客にどれだけの満足を与えたかが、唯一絶対の評価基準である。しかし、規制産業は違う。確かに顧客満足も大きな評価基準ではあるが、いかに規制をクリアするかが最大の評価基準であるからだ。規制は国会でつくられる。そして、その原案を作成するのは官僚である場合が多い。したがって、環境ビジネスの方向性は官主導ですすむ傾向にあることが一点目の特徴である。

 二点目は、ソリューション型、つまり問題解決型の産業である点である。問題解決型であるということは感性や好みに左右されないということである。地球環境に対する不具合な問題を解決することこそが環境ビジネスの使命である。問題が発生すると、問題を解決するプログラムが要請され、そのプログラムが商品になる。問題を解決するところに経済が発生する。エコロジーを解決すれば、エコノミーが発生するのが環境ビジネスである。したがって、ソリューション能力、つまり問題解決能力が企業の競争力の原点になる。

 三点目は、全産業網羅型であることである。地球環境問題は特定の産業だけの問題ではなく、全ての産業に関係のある横断的な問題である。また、大手企業だけの問題ではない。大都市だけの問題でもない。すべての産業、すべての規模、すべての地域に網羅的に求められるビジネスである。

 四点目は、地域密着型である点にある。循環型社会は地域レベルで推進されることになる。環境ビジネスには地域密着型の経営スタイルが求められることになる。

 五点目は、いまだ未完成の産業であることである。世の中は規制緩和の流れにあるなかで、環境行政は規制強化の方向に進んでいる。しかも、全体像の設計は遅れており、対処療法的に規制が進んでいる。今後も二転三転する可能性が強く、規制に立脚している環境ビジネスも流動的であるといえる。いまだ確固たるビジネス形態は何もない。これからデッサンしながら枠組みを作っていくことになる。したがって、創造力と機動力が求められることになる。

 以上、まとめると、環境ビジネスは、「規制産業」、「ソリューション型」、「全産業網羅型」、「地域密着型」、「未完成」という特徴を持っているといえる。

 

 

 

(3)中小企業が参入すべき環境ビジネス分野

 

 以上見てきたように、環境ビジネスには多種多様なビジネスが存在する。どの環境ビジネス分野に参入すればいいかは企業によって事情が違い、一概に特定することはできない。しかし、何らかの方向付けは可能である。あたかも検索エンジンで、絞込み検索をするように。

 一つ目のフィルターは、中小企業の特徴を生かせる分野である。中小企業は、「経営資源が少ない」という弱みと、「機動力がある」という強み、「地域経済への密着」、「他社にないコア・スキルの保有」という特徴がある。したがって、

@「経営資源」の勝負に持ち込まれない市場ポジショニングの固まっていない環境ビジネス分野

A「機動力」の生かせるニッチな環境ビジネス分野

B「地域に密着」している環境ビジネス分野

C「他社にないコア・スキル」の生かせる環境ビジネス分野

を探すべきである。

 二つめのフィルターは、今後、できるだけ成長が見込まれる分野であることである。必ずしも、成長分野である必要はないが、チャンスは成長分野のほうが多くあるのも事実である。上記の特徴を生かせる分野であれば成長率の高いほうが狙い目としては面白い。成長分野のキーワードである、

D「リサイクル」

E「省エネ」

F「省資源」

G「水」

H「土」

I「教育」

J「情報」

に関連した分野を目指すべきである。

これらのフィルターを通過した環境ビジネス分野は極めて魅力的な市場に写るであろう。しかし、これで安心してはならない。環境ビジネスに参入するには、環境ビジネスの特徴を十二分に理解した上で取り組まなければ成功はおぼつかない。それは、環境ビジネスが「規制産業」、「ソリューション型」、「全産業網羅型」、「地域密着型」、「未完成」であるという認識と対応である。法規制の動きから目を離さないこと、問題解決能力を磨くこと、他産業の事例を参考にすること、地域とのパイプを太くすること、自らパイオニアになる気概を持つこと。

そして、最後の点検をしてみよう。「そこには本当に顧客がいるのか?」

以上を第3図にまとめてみたので参考にしていただきたい。


 

 

 

 


4.おわりに

 

本号では、中小企業にとって有望な環境ビジネス分野を探ってみた。具体例が少なくやや抽象的であった感はあるが、環境ビジネスへの参入にあたり、ある程度のヒントにはなるのではないかと思う。次号では、今回の続編として、具体的な環境ビジネスへの参入事例をもとに、成功のポイントを探ってみたい。21世紀、「環境の世紀」の主役を求めて・・・。

 

 

 

参考資料

「平成11年版環境白書」環境庁編 1999

「平成12年版環境白書」環境庁編 2000

「地球環境ビジネス2000-2001」エコビジネスネットワーク編 1999

「中小企業の環境ビジネス実態調査報告書」(財)東京都中小企業振興公社 1998

 

 

 

筆者略歴

内藤 秀治(ないとう しゅうじ)

中小企業診断協会 大阪支部「環境経営研究会」会員  1994年工鉱業部門登録。

電気メーカーを経て、1989年(株)タナベ経営入社。1995年(株)クリエイティブ マネジメント コンサルティングの設立に参画、現在に至る。経営診断、経営コンサルティング、講演・企業教育等の実績は多数にのぼる。現在、「エコビジネス事業化セミナー」を定期的に開催している。