環境ビジネスの現状と中小企業の参入戦略(2)

〜事例に学ぶ、環境ビジネス参入のポイント〜

 

環境ビジネスコンサルタント   

中小企業診断士 内 藤 秀 治

 

1.「環境の世紀」の主役たち

 

  前号では、“勝てる環境ビジネス市場のディスカバリー戦略”と題して、中小企業にとって有望な環境ビジネス分野を探ってみた。ビジネスで成功するには、まずは勝てる市場を探す必要があるからだ。繰り返しになるが、ここでもう一度、おさらいをしておきたい。(第1図)


 

 


 勝てる市場を発見したのなら、その次は、その市場で「勝つための仕組み」をつくることがマーケティング戦略の鉄則である。本号では、具体的な環境ビジネスへの参入事例をもとに、「勝つための仕組み」つまり、環境ビジネス参入の成功条件を探ってみた。ただし、いまだ環境ビジネスで完全に成功した企業はない。市場が未完成だからだ。成功に向かって突き進んでいる企業ばかりだ。今回、ケーススタディとして取り上げる企業も、“成功ing”つまり成功に向かって活動しつづけている企業ばかりである。そこには、高い理想に向かって挑戦する意欲と熱意がある。実際に経営者とインタビューを実施してみて、環境ビジネスに取り組む熱気と緊張感がひしひしと伝わってきた。以下、21世紀、「環境の世紀」の主役たちを紹介することにする。

 

 

2.既存事業での顧客基盤、経営資源をフル活用

 

〜株式会社サン(静岡県、斯波 辰兵 社長)〜

 

株式会社サンは、静岡県でトップクラスのビル総合管理企業である。1970年に創業して以来、順調に業容を拡大し現在に至っている。

当社は、1999年5月に環境事業部を設置し、環境ビジネスに参入した。本業のビル総合管理業自体が生活環境に密接に関係していたこともあり、自然環境に対する思いも深く、何の戸惑いもなく環境ビジネスに参入した。そのきっかけは、ビオトープの専門家の採用にあった。当時は、ちょうど新規事業を模索していた時期であった。新規事業の条件として、@既存の顧客に営業できる事業、A初期投資が少なくリスクの小さい事業、B社会的な責任の果たせる事業、の3点を掲げていた。

このような時、現在の環境事業部チーフマネジャーが入社してきた。ビオトープ関連企業で企画営業を担当してきた経験を活かし、「ライフガーデン」の開発に成功した。「ライフガーデン」は、純粋な自然空間と人口的な庭園の中間に位置し、自然環境の保全・復元の考え方に従来の造園や園芸の手法を取り入れたもので、植物だけでなく昆虫などの小動物をも含めた自然庭園である(第2図)。とりわけ、小動物の集め方にノウハウが隠されている。

 

         第2図 静岡センタービルの屋上に施工した「ライフガーデン」

 

 

また、ビルの屋上に設置することにより、温度の緩衝効果や省エネ効果もあることから、地方自治体の中には新設ビルや工場の緑化を義務化しているところもある。

商品開発成功後は、自社ビルの屋上に展示用の「ライフガーデン」を施工し販売促進活動に注力するとともに、既存事業の顧客基盤を活用して、ビルの屋上緑化、工場構内の緑化、住居の庭園等への販売を開始した。受注も順調に進んでおり、事業化3年目に当たる来期には環境事業部単独で黒字化の目処が立っている。

この8月には商標の登録も完了し、将来的にはFC展開も視野に入れ、ノウハウの蓄積を図っているところである。

当社の成功のポイントは、既存事業の顧客基盤、経営資源をフルに活用したことにある。従来の顧客に対し、従来の営業部隊が、商品ラインの一つとして提案する仕組みを採用した。そのため、新たな投資も最小限で済み、費用の増大も避けることができた。さらに、省エネへの効果という具体的な顧客メリットに加え、法的規制の後押しもあり将来性は極めて高い。将来的には全国展開を目指している。

 

会社概要

   会 社 名:株式会社サン

   所 在 地:静岡県静岡市南町5−15

   年  商 :20億円

   従業員数 :860名

 

 

 

3.顧客の声を徹底的に吸い上げ、独自の商品開発に成功

 

〜(株)ビィワンファクトリー(大阪府、土居 清美 社長)〜

 

(株)ビィワンファクトリーの土居清美 社長は、1993年(株)パナシスを創業した。当初は、松下電器産業(株)の電灯電力省電システムである「ナショナル精電器」の販売・施工代理店としてのスタートであった。主に、コンビニエンスストアや喫茶店といった小口の顧客をターゲットとし、順調に販売実績を伸ばしていった。しかし、販売が伸びるにつれ、顧客ユーザーから更なる要望が聞かれるようになってきた。電灯の省電だけでなく、エアコンや冷凍機等に対する省電システムへの要望である。そこで、松下電器産業(株)に掛け合ってみたが、色よい返事がもらえなかったことから、独自の商品開発が始まった。数々の障害もあったが、知人の技術者と半年間を費やし完成したものが「Be One(ビィワン)」である。「Be One」は、エアコンや冷蔵庫のコンプレッサーに取り付け、コンプレッサーの運転状況を感知しながら、本体の稼動を自動的に時間制御することにより電気使用量を削減するものである。この「Be One」の開発と同時に、1998年11月(株)ビィワンファクトリーを設立した。

Be One」は予想以上の反響があり、当社設立から2000年5月までの19ヶ月で3500台を販売した。特に、改正省エネ法の施行や大企業のISO14001の取得ラッシュによる追い風にも恵まれ、大手企業からの引き合いが相次いだ。2000年2月には特許を取得し、独自の地位を確立した。その後も、顧客の声を取り入れ、2000年5月には新商品「Be Next(ビィネクスト)」の開発に成功した(第3図)。「Be Next」は、「Be One」を進化させたものでデジタル式に改良した。さらに、パソコンからの制御や無線対応が可能になるなど顧客の要望に的確に応えている。

 

 

 

 

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第3図 2000年5月に発表した新商品「Be Next(ビィネクスト)」

 

 

 現在は、最大電力(デマンド)を引き下げ、電気の基本料金を引き下げるためのデマンドコントローラーである「Be Demand(ビィデマンド)」の新商品も計画しているほか、家庭向け商品も開発中である。さらに、2002年の冬をめどに株式の上場を目指し、準備を進めている。

当社の最大の成功ポイントは、顧客の声を徹底的に吸い上げ、商品化したことだ。顧客ニーズを吸い上げ、商品開発に結びつけることは経営の鉄則である。しかし、実際に実行するとなると、口で言うほど簡単なことではない。技術的な壁、資金的な壁、コスト的な壁、販売面の壁をこつこつと粘り強くクリアしていかなくてはならないからだ。環境に対する強い思いと顧客ニーズへの追求が結びつき、これらの壁をひとつひとつ壊していくところに環境ビジネスが成功する条件があるのだろう。

 

会社概要

   会 社 名:株式会社ビィワンファクトリー

   所 在 地:大阪府大阪市淀川区宮原1−2−6 新大阪橋本ビル

   年  商 :2.2億円

   従業員数 :24名

 

 

 

4.リサイクルの代行により顧客のゼロエミッションに貢献

 

〜(株)明豊 滋賀工場(滋賀県、大橋 修 常務)〜

 

(株)明豊 滋賀工場の責任者である大橋修常務は、4年前まで大手樹脂メーカーの技術者であった。当時、リサイクル関係の仕事をしていたとき、イギリスのグラスゴーに出張した。当地のプラスチックリサイクル工場に訪問したことが、現在の事業を始めるきっかけとなった。そこで見たものは、ドイツ製のプラスチックリサイクル機械であった。廃プラスチックをそのままの形で投入すれば、再成型されて最終的にはパレットが完成するというものである。日本にはその機械は入ってきていない。大橋常務はこの機械を見たとき、「これだ!」とひらめいたという。早速、会社に帰り導入を勧めたが、会社の決裁は得られず、それならばということで、自分で事業を起こすことにした。そのとき支援の手を差し伸べたのが、当社の樋口社長であった。樋口社長は、滋賀工場の運営を全て大橋常務に任せ、自身は本業の商社と農業土木工事事業に専念している。

その後、その機械を輸入し、独自の改良をして事業をスタートすることになった。スタートするにあたっては、「顧客のメリット」を最優先させた。「どうすれば、顧客が得をするのか。」これを探るために、構想を練った。その結果が、現在の事業内容である。「リサイクル代行業」というコンセプトで、顧客から材料を有償で購入し、パレットにして同じ顧客に買い取ってもらうというものだ。顧客から見れば、今まで産業廃棄物として高いお金を出して引き取ってもらっていた廃プラスチックを、お金を貰って販売し、市場価格よりも安いパレットを購入できるということである。経済的なメリットがあるうえに、工場のゼロエミッションも実現できる。まさに一挙両得である。この事前の顧客訪問により、1999年1月に事業を開始する時点ではかなりの顧客が確保できていた。その後も、ISO14001の取得企業からの問い合わせが次々と舞い込み、早々に2交代制を、来年の1月からは24時間体制にする予定である。

 

 

 

 

 

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第4図 日本には1台しかないドイツ製プラスチックリサイクル機械

 

 当社の成功のポイントは、顧客のメリットを高い技術力で実現したことにある。事業の発想を「顧客のメリット」に置いたことはもちろんであるが、それを実現するための技術力こそが成功の秘訣である。大橋常務自身が樹脂の専門家であると同時に、滋賀工場で働く人すべてが大手樹脂会社を定年退職した樹脂の専門家である。一般にはリサイクルが困難と考えられている、紙や布、アルミなどとプラスチックとのラミネート材をはじめ、当工場では熱可塑性樹脂であればどのようなものでもリサイクルできると自信を持っている。

 

会社概要

   会 社 名:株式会社明豊 滋賀工場

   所 在 地:滋賀県坂田郡米原町磯字ソバタ833

   従業員数 :10名(滋賀工場のみ)

 

 

 

5.技術力を武器にソリューション能力で独自の基盤を確立

 

〜日本エコロジー(株)(大阪府、高本 光章 社長)〜

 

日本エコロジー(株)は、公害問題がクローズアップされるようになった1974年にダイトーケミックス(株)(大証2部)の子会社として設立された。比較的新しい会社が多い環境ビジネスのなかにあって、創業26年を誇る当社は老舗組に含まれる。当時、親会社であるダイトーケミックス(株)では、公害問題に対する危機意識から排水処理技術を集中的に研究し、排水処理センターを完成させた。さらに、継続的な環境対策への取り組みの結果、誕生したのが当社である。

当社の事業は、産業廃棄物の収集運搬業および中間処理業に属するが、@重金属を含む廃液、廃アルカリおよび汚泥の無公害化処理・再資源化、A有機溶剤の高品位での再生処理、B有機化学薬品の蒸留・精製、といった極めて高い技術力を必要とする分野である。このような高い技術力が公害問題の解決へと結びついた。特に、メッキ業界、電子材料・電子部品業界、化学業界などでは排水処理が大きな問題になっていたこともあって、当社への問い合わせが相次いだ。また、当社の技術が地方自治体に認められたことも幸いした。排水処理問題で地方自治体に相談にくる企業に対して当社を紹介してもらえるという追い風が吹いたのだ。その後も、技術力の向上に取り組み、順調に事業を拡大し、今日に至っている。現在では、ほとんどの化合物への対応が可能になった。

1998年には(財)産業廃棄物処理事業振興財団から、フッ化カルシュウム(蛍石)の回収施設設置助成事業の認定を受けるなど、新しい技術開発にも積極的に取り組んでいる。今後は、21世紀の循環型社会に対応するために、排水や廃液を産業廃棄物としてとらえるのではなく、リサイクルという視点から、溶剤の回収や廃液からの成分回収技術を柱としたシステムづくりへと事業の位置付けを転換しているところである。

また、2000年3月にはISO14001を取得し、地球環境の保護を通じて、社会との共生を図っている。

 

 

 

 

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第5図 高度な廃液処理技術を誇る当社大阪工場

 

 

 当社の成功のポイントは、高い技術力に支えられたソリューション能力(問題解決能力)にある。創業以来培ってきた特殊な化学処理技術により、カドミウム、鉛、6価クロムなどの有害金属を含んだ排水を処理する技術は、他社の追随を許さない差別化要因となっている。この差別化要因である化学処理技術を顧客の抱えている問題解決に活用したことにより、顧客からの支持を得たのである。

さらに、21世紀を見据えたリサイクルシステムの構想には、他の産業廃棄物業者が抱いているような将来への不安は微塵も感じられない。コア・スキルに支えられた他社との差別化要因と21世紀を見据えた中長期的な展望こそが環境ビジネスの成功のポイントであるといえるだろう。

 

会社概要

   会 社 名:日本エコロジー株式会社

   所 在 地:大阪府大阪市鶴見区茨田大宮3−1−7

   年  商 :11億円

   従業員数 :37名

 

 

 

6.中期ビジョンでトップ方針を明確に

 

〜(株)チクマ(大阪府、藤山 篤 社長)〜

 

1994年12月、トータル・ファッション商社の(株)チクマは、2002年の創業100周年に向けて中期ビジョン「C−プラン2002」を策定した。この中期ビジョンの最重要課題の一つとして環境保全活動が掲げられた。中期ビジョンを受けて、当社では社内の省エネ、省資源活動に積極的に取り組むとともに、環境事業をスタートした。環境事業をスタートするにあたっては、1995年12月に常設機関として「環境開発班」という部門を設置し、環境事業を総合的に統括することにした。

当社がまず手がけたことは、1996年2月、環境庁所轄である「(社)環境生活文化機構」の設立に参画したことであった。これは、素材メーカー、商社、アパレル、納入業者、ユーザーとの連携でユニフォームのリサイクル事業を推進するものである(第6図)。同機構を通じて社外に向けての訴求活動を展開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       第6図 (社)環境生活文化機構のユニフォームリサイクル事業

 

 さらに、ユニフォームをメインとしてリサイクル事業を積極展開した。運送会社や再生業者とタイアップして、ペットボトル再生ユニフォームを回収した後、クッション材などに再生する「マテリアルダブルリサイクルシステム」の構築。さらに、西日本ペットボトルリサイクル(株)との取り組み。ユニフォームをリサイクルするための「EARTHINK(アーシンク)」ブランドの構築など、リサイクル商品の拡販を進めた。特に、当社が力を入れているのが、「EARTHINK」ブランドである。「EARTHINK」ブランドは、「EARTH(地球)」と「THINK(考える)」とを組み合わせた言葉で、地球にやさしいブランドを目指したものである。このブランドを広く普及させ、消費者が使用した後、このブランドの回収マークが付いているユニフォームならば無条件で回収するというものである。商品を売るのではなく、ユニフォームのリサイクルシステムを販売するという発想である。将来的には、このブランドをユニフォームだけでなく他の製品にも広げていく予定である。その試みの一つが、チャイルドベストである(第7図)。これは、チャイルドシートの着衣型であるが、全てのチャイルドベストに「EARTHINK」回収マークを付け、使用後の回収を約束している。安全性も高く、需要の拡大が確実に見込める商品である。

 

 

 

 

 

 

 

 

       第7図 「EARTHINK」回収マークのついたチャイルドベスト

 

 これらの活動の結果、1999年の環境商品は、前年度に比べ約2倍の15億円の売上実績であった。活動の結果は、確実に数字となって現れている。

 当社の成功のポイントは、中期ビジョンでトップ方針を明確にしたことである。「自分たちの扱う商品からはごみを出さない」という強い意志を会社の方針として徹底したことである。さらに、この方針を商品開発に結び付け、販売活動に結び付けるマネジメント力が環境ビジネス成功のポイントであるといえる。当社では、2000年4月にISO14001を取得し、環境経営の実現を図っている。

 

会社概要

   会 社 名:株式会社チクマ

   所 在 地:大阪市中央区淡路町3−3−10

   年  商 :367億円

   従業員数 :354名

 

 

 

7.おわりに

 

以上、環境ビジネスへの参入事例を通じて、成功のポイントを探ってきた。各事例で共通する項目も多々見られたが、あえて成功条件を一般論としてまとめることは差し控えた。過去の成功条件が将来の成功を約束するものではないし、個々の企業によって成功のポイントは違うからである。厳しい言い方をすれば、一般論を真似しても成功するとは限らないということである。今回登場した経営者は、自分の頭で考え、それぞれ独自の行動をしてきた。もちろん、共通点もある。「環境の世紀」の主役たちは熱い目をしていたということだ。

 

 

 

 

 

 

筆者略歴

内藤 秀治(ないとう しゅうじ)

中小企業診断協会 大阪支部「環境経営研究会」会員  1994年工鉱業部門登録。

電気メーカーを経て、1989年(株)タナベ経営入社。1995年(株)クリエイティブ マネジメント コンサルティングの設立に参画、現在に至る。経営診断、経営コンサルティング、講演・企業教育等の実績は多数にのぼる。現在、「エコビジネス事業化セミナー」を定期的に開催している。