横浜市議会2氏の除名「日の丸反対でなぜ」「どちらも悪い」

 横浜市議会で日の丸掲揚に反対し、議長席を占拠したことなどを理由に除名処分を受け、失職した「女性市議2人」対「市議会」の闘いは場所を横浜地裁に変え、除名処分の取り消しを求める行政訴訟に移った。市議会事務局には「日の丸に反対したら除名なのか」という抗議が殺到する一方で、「どちらも悪い。やり過ぎだ」という冷めた見方も広がっている。なぜ議員除名だったのか。    
【山本浩資、若井耕司】

舞台は行政訴訟へ市民への直接の訴えも

 横浜市議会のホームページに今月15日夜、6月末に開かれた懲罰特別委員会の会議録が掲裁された。通常2ヵ月はかかる会議録の公開。市会事務局内での閲覧を7月末から可能にするなど、異例の速さで公表した。
 2人は「市民の党」の井上さくら(37)、与那原寛子(38)両前市議。2人が懲罰動議にかけられた6月5日から、事務局には120件の意見が寄せられた。3分の2が「日の丸に反対しただけで除名はひどすぎる」など抗議の内容だった。事務局は「日の丸に反対しただけで除名されたのではない。その問のいきさつを知ってほしいし、知りたいという要望も強かった」と夏休みを返上し、公開を急いだ。
 2人は失職後、街頭演説や集会を開き、除名処分の不当を市民に直接訴えている。今月7日に起こした処分の取り消しを求める行政訴訟には弁護士28人の弁護団を結成。与那原前市議は「多くのみなさんに励まされている」と活動の充実ぶりを話す。
 だがその背後では、来春の統一地方選に向けた動きが見え隠れする。市民の党の斎藤まさし代表は「審決や裁判でも闘うが、選挙で決着をつける。発言が保障される交渉会派入りを狙う」と、交渉会派の要件を満たす5人以上の当選を目指す。前回選挙で、井士前市議は鶴見区で1万3641票と7人中2位、与那原前市議は港北区で9095票と8人中3位の高得票で当選していた。除名された「悲劇のヒロイン」となることで、さらなる追い風を得る戦術にみえる。


 感情的争いまで生んだ感否めない

 除名に賛成票を投じた市議は「2人に反省の色があれば出席停止で済んだ。しかし、謝罪の言葉もなく(出席停止)7日では短すぎる。除名しか選択肢がなかった」とこぼした。イデオロギー色の強い「日の丸」間題をめぐり2人のとった一方通行的に主義、主張を言い募る行動が、他の議員と感情的な争いまで生んだ感は否めない。また、会期末も近づき、出席停止では効果が薄くなっていた。議会の大勢は自然と除名へと進んだ。
 「法律上、出席停止は3ヵ月でも1年でも可能」(横浜市会事務局)だが、現実には一つの会期中の出席停止が次の会期に及ぶのを避けるため、他の自治体でも最大10日が出席停止の一つの基準となっている。
 懲罰の選択肢の少なさを反映してか、地方議会では過去10年の間に少なくとも6件の除名のケース(全国市議会議長会などの調べ)がある。理由は、慣例による議長交代を拒否して議会が流会するなど混乱▽議会で不穏当な発言▽政策チラシで議会を批判−など。ただ、その後、6件中4件が「議会の裁量権の逸脱」「議員に許される範囲の意見発表」などとして、県知事による審決や司法の判断で除名が取り消されている。
 横浜市在住で「横浜市政・市議会をチェックする会」を設立した関東学院大の安田八十五教授(環境政策学)は横浜のケースを「どちらも悪いのかもしれないが、一種、議会による村八分みたいなもの」と指摘。同じく横浜市在住、明大の岡野加穂留名誉教授(政治学)は「双方とも議会制民主主義の否定と自分の都合のいいように理屈づけており、子供のけんかのようで税金の無駄遣い。夏向けのバトルのようだ」と切り捨てる。

 取り消しを求めて知事に審決を申請

 2人は行政訴訟とは別に処分の取り消しを求めて神奈川県知事に審決を申請している。 審決申請を受けた県は、市議会に弁明書の提出を要求。市議会は9日に弁明書を提出
した。
 地方自治法上、知事は必要に応じて専門家ら第三者の自治紛争処理委員3人を任命して審理することが可能だ。前市議2人は「1票の重みを知っている知事に判断してもらいたい」と委員の審理を希望していない。
 県市町村課によると、89〜99年の間、全国の2市9町1村の議会で議員除名処分が可決。審決申請された9件のうち3件が、処分取り消しの判断を下している。判断までの期間は54〜599日と転がある。


2市議除名の経線

 ことの始まりは5月22日の議会運営委員会。委員の構成は、自民6、民主3、公明3、神奈川ネット2、共産1、横浜みらい1。市民の党は非交渉合派(4人以下)で、2人はオブザーバーで出席した。
 日の丸掲揚に、ネット、共産が反対。他会派は「法制化されている」などの理由で賛成した。2人は「発言させてほしい」と挙手。ネット、共産は「発言させるべきだ」としたが、賛成多数で発言は認められなかった。「発言の場」を求めた2人は、5月29日の本会議で日の丸に手をかけ、退場させられた。
 2人は、議長と事務局長に19項目の公開質問状を提出。日の丸反対に加え、「退場の際、全治7日のけがをさせられた」などと異議を申し立てた。
 6月5日の本会議では、開会前から議長席と事務局長席に座り、約6時間も居座り続けた。懲罰動議の採決の際、議長が立って議事を進める異常な光景が広かった。占拠理由を2人は、「議長と事務局長が話し合いに応じなかったため、座って待つしかなかった」と述べた。
 6月6日の本会議前、議運所属の市議が占拠を防ぐため議長席に座っていたところ、与那原前市議が「皆さん、そんなに議長席に座りたいのですか」と発言。弁明でも「混乱の責任は事務局にある」と話し、委員の反発を買った。非難の声は次第に高まり、「除名処分やむなし」の空気が広まった。
 採決では、自民、民主、公明、横浜みらいが除名に賛成。共産は懲罰を科すごとには賛成したが、陳謝の処分を主張。ネットは2人の行為を非難した上で「多数会派主導の議会運営が紛糾の原因」として処分なしとした。
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媒体 毎日新聞 掲載日 2002.08.19