風が吹けば、桶屋でなく警察が、、、、

私はドイツに暮らしていて天災多き日本で生れたことをどこかで誇りにしている。
 もう二十年以上も昔、大学のセミの真最中に少しぐらりときた。「地震」と叫ぶ私
を皆が胡散臭そうに見た。翌日の新聞は何十年ぶりとかで大騒ぎである。ドイツ国民
は何もわかっていないと思った。それ以来どんな天災が起ころうと、私は冷ややかに
眺めることにしている。
 ところが、暮に私の自負心を揺るがす事件があった。午後手持ち無沙汰からテレビ
をつける。パリで風が吹いて屋根瓦が飛び大騒ぎである。窓越しに外を見ると隣の白
樺が竹のようにしなっていた。確かに風の強い日である。
 ドイツの「黒森」で大木が倒れている。これは酸性雨で木が弱くなっているせいだ
と私は思った。アナウンサーが「記録的風速225キロメートルを計測し、、」と叫
んだ。全盛時のボリス・ベッカーのサーブに毛の生えた程度の風で大騒ぎをしてはい
けない。だいたい割り算を怠り、秒速で表わしてくれないのは困る。私はそう思っ
て、下の娘に「算数の勉強になるから秒速に直すように」というと、しばらくして
「秒速六二,五メートル」と答えが戻ってきた。これは確かに台風にひけをとらない
強い風である。
 テレビにスキー場の混乱ぶりがうつる。「お兄ちゃんがスノーボードに行ってる」
と娘が叫んだ。そういえば、朝から息子のを顔を見ていない。母親が心配して、いっ
しょに行った友達のうちに電話をかけている。私も落ち着かない、、、、、
 息子が無事帰宅したのは夜遅くである。風が強いので早めに切り上げたが、帰る途
中、どこも道路は倒木で通れず、遠回りしたそうである。
 私はほっとしてテレビに目をやる。警官が出てきて一日中電話の応対で忙しかった
と嘆いている。それを見て、「天災多き国」に生れた私の自負心が少々蘇る。
 泥棒じゃないのに、風が吹いて警察に電話するなんて変だと思いませんか。


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