ベルリンのパンダちゃん

 「本当にドイツ人は無茶をする。ジャガイモを食べさせるなんて」とK君はパンダの
檻の前で怒った。
 
 K君は大学時代の同級生でドイツへ来る度に連絡してくれる。今回事情があって私達
はベルリンで会った。昼食後繁華街を歩いていると動物園の前に出て、散歩がてらに
入ってしまったのだ。

 「日本ではパンダ用の笹を中国からもらって栽培しているのに」とK君の憤慨が続
く。ガラス張りの檻の中ではニ頭のパンダが壁を背に居眠りをしていた。床に転がっ
ているのはジャガイモでなく西洋梨であるので、訂正しようと思った。ところが、言
いそびれたのは、昔政治運動家であったK君は怒ると話が止まらなくなるからであ
る。

  「パンダの良さはドイツ人にわからない。日本では檻の前に行列ができるのに」
 確かに見物者はかなり前から私達二人だけであった。K君は息子と見たパンダを語
る。その息子も今は社会人なので、日中国交回復でパンダが騒がれた頃の昔話であ
る。 

 そのうちに初老のドイツ人がパンダ見物をはじめた。笹のことを彼に話すと地元の
事情通らしく、
「最近はベルリン市も財政難で頻繁には食べさせてもらえないそうだ」と笑い、片
目でウィンクした。笹は南仏から取り寄せるのに、栄養価は低い。パンダは雑食性で
何でも食べると彼は説明した。

 K君と私は動物園を後にブランデンブルク門にむかう。
「梅に鶯、パンダに笹。この日本的固定観念はよくない」  
と彼はしきりに反省する。そのうちに中国人に迎合する日本人を批判し、ドイツ人の
ケチを賛美し、日本の財政赤字を嘆いた。
 
 私は歩きながら、石畳につもった赤や黄色の落ち葉の感触を楽しむ。ドイツであま
り笹を食べることができなくなったパンダちゃんの顔が思い浮かぶ。その途端、自分
の食生活も似た事情であることに気がついて、K君との晩飯は絶対日本料理にしよう
と固く決心した。