ビールと脳いっ血の間には
「からーい。脳いっ血になりそう」。友人は叫んで、ミュンヘン名物焼き豚料理にろ
くろく手をつけなかった。
一流企業の部長になったかもしれないが、昔学生食堂でモリモリ食った「あいつ」が
である。「いまどきの日本人はこんな塩辛いものは食べない」。そう言われて私も残
してしまった。
これは十年以上昔の話である。この「脳いっ血になりそう」はボディーブローのよう
にきいた。日本の雑誌を見る度に「無塩」というコトバが目にとびこむ。日本人は皆
健康な食事をしているのに、私だけ異郷で塩分を過剰摂取する。脳いっ血になって片
足を引き摺りながら冷たい石畳を歩くかわいそうな私。
それまで気にしなかったが、ドイツの食事が塩辛いといったのは彼だけではないので
ある。これからも多くの日本人がそういう。その度に自己憐憫の陥ってはいけな
い、、、、。
それ以来、「塩辛い」と言う人には次のように答える。
「それはミュンヘン市の景観が日本のようにどんどん変わらないからです」
この理屈はこうだ。街並みがあまり変わらないのは規制があってとっぴな建物をつく
れない。この厳しい建築規制のため新しい場所にレストランも開業できない。開業し
たければ営業をやめるレストランを見つけるしかない。
レストランの多くはビール会社が所有なので、ビールも大家から購入する。賃貸契約
期間中のビール購入料は、契約延長に重要である。だからお客さんにはビールをたく
さん飲んでもらいたい。
こうしてビールの町ミュンヘンはだんだん辛口になってしまたったのである。
話を聞いた相手のあきれたような顔を見て、塩分過剰摂取が改善されるわけでない
が、私の精神衛生にはよい。
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