No.027 赤ちゃんのはいはいと座る文化(08/01,1999) 

 「座る文化・腰掛ける文化」(「住まいにひとこと」No.025に収録)を読んでいて、突然思い出したのは日本でも読者が多いミヒャエル・エンデさんのお宅です。昔、エンデさんのところへ行って、お話をうかがったとき、本当にいいなと思いました。それは彼の居住空間です。入口で靴を脱ぎ、中に入るとテーブルも低く、絨毯が厚めで、そこに私はあぐらをかき、彼は西洋式座布団に座って話をしました。

 なぜいいかと思ったかは簡単で、居住空間が全部低くて、西洋式の高い椅子も机もなく、床に座った位置に適した低い調度になっていました。要するに日本的な居住空間近かったから、自分に居心地がよかったのだと思う。

 よく考えれば、私自身ドイツに来てから、机とかベットを買わず、終始マットを床にしき、シーツや掛け布団の寝具は昼間大きな木箱に入れる生活をしていました。4人の友人とフラットの住居を共同で借りていっしょに住んでいましたが、他の人々は自分のうちからもってきた机やベットを自分の部屋に入れていました。私の部屋の入口では、皆に靴を脱いでもらい、またみかん箱に似た木箱を座り机として私だけが日本的な生活をしていました。

 もう何十年もこの国(ドイツ)に住んでいるのですが、あぐらをかかないで、高い椅子に座っていると、空中に浮かんだような気持で、自分のうちにいる感じがしません。

 エンデさんが「『緑の党』からは立候補しない」といっていたので、お宅におじゃましたのは多分1970年代の終りだった思います。当時は靴を脱がせるうちは少なかったのですが、今では多くなってきていると思います。とは言っても証拠をあげなければいけません。

 その後数年たって、自分が父親になってはじめて知ったのですが、ドイツの赤ちゃんは座れるようになってから、はいはいすることもなく立ちあがって歩きだすのが普通だそうです。これにはびっくりしてしまいました。

 当時小児科のお医者さんが、60から70パーセントの赤ちゃんがそうだといっていました。これもよく考えてみれば、西洋式空間では日本の赤ちゃんのようにハイハイする場所がろくろくないのです。ベットだといつ落ちるか心配で、土足で歩き回る床ではハイハイなどさせる気持になりません。だから、寝かして、座らして、いつか立ち上がり、歩くということになるのだと思います。当時、ドイツの赤ちゃんかわいそうだなと思いました。

 今年、ある小児科のお医者さんにきいたのですが、ハイハイしない赤ちゃんがこの十年で20から30パーセントは減ってきているといっていました。多分、靴を脱がせ、エンデさんのおうちのように、すべて低くした居住空間(つまり赤ちゃんがはいはいできる空間がある)の家庭が増えてきているからではないかと思います。■

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