12月

12月31日

 パートさんの出勤状況が思わしくないので朝から出荷準備の現場に入る。

 昼になって背後の作業台で仕事をしていた「らいおん丸」が鼻を鳴らした。
「お昼行けないよお……」

 時刻はもう12時30分を回っているではないか。

「あれ? まだ昼飯食べに行ってなかったの?」

「haゲさんがこの仕事終わるまで休んじゃ駄目だって…、お腹すいたよお」

haゲ、相棒のゾンビおばさんはちゃんと昼休みを与えて「らいおん丸」には与えないとはどういうことだ?

「らいおん丸、いいよ昼行っちゃって」

 ぐうさんが断りもせず「らいおん丸」を昼に行かせたのが頭にきたのが不機嫌なhaゲ。商品の値付け間違いも発覚してブルーである。しかしこれは自分が悪いのだ。

 昼、コンビニ部門本社から作業応援にきているY君と話をする。Y君とは言えすでに新潟センターの所長も経験している出世頭である。今は本社勤務だが、弟子と同じ悩みを語っていたのが面白かった。

 しかしながらY君とぐうさんが話しているのはどうもシゲ所長から見たところやりづらいというのがありありだ。

 ふん、いたづらにこの会社で年季積んじまったかな。

 
 2002年最後の仕事が終わった。かといって特別の感慨は沸かない。明日元日も普通に仕事だし、正月休みなどというものは極悪ベンダーにはない。24時間年中無休の店が顧客である。

 敢えて今年一年を振り返って見れば一昨年よりも極悪ベンダーのコンビニ部門を取り巻く諸環境が悪化したことに尽きる。

 センター社員の誰もがおそらくこの業界から足抜けしたいと考えている。ぐうさんだって弟子や「らいおん丸」がいたから辞めないでいられた。今この仕事を歯を食いしばって続行している理由は彼、彼女がいるから、それだけなのだ。

12月30日

 パートさんの休みが非常に多く、社員の大部分が出荷作業に応援に入るも終了は午後7時。そのあと場内整理と再棚卸で終業は午後10時30分(泣)。帰宅は11時20分であった(大泣)

12月28日

 今日は社長や人事部長がセンターへ来るというので前日から清掃に余念がなかった。ましてや暮れの商品取り込みのピークで一昨日から5000アイテムを超える物量が入荷しているのに加え、本日は棚卸でもある。

 まったくもって憂鬱な要因が重なったここ2日間というもの、寝るためにだけ家に帰っていた。ま、いつものことではあるけど。

 日中、外の喫煙所で一服していたぐうさんも含めたセンター社員達。あとから社長らにくっついてきた課長連中がやってくる。

 「辞めろって言ってくれたら即刻辞めるよなあ」

 誰ともなく放言するのを聞いてギョっとした顔をセンター社員に向ける課長連中…。

 「明日から会社来なくていいと思うと嬉しいよなあ」

誰かが続ける。

「しかも失業保険すぐ降りるしね。ホント辞めろって言ってくれないかなあ」

「でもさあ、お前んとこ今日は早く帰れるんだろ?」

「だって明日日曜出勤だぜ。今日深夜残業するか明日休日出勤するかの違いでどっちもいいことないって

 課長連中はセンター社員を睨み付けると去っていった。どうせ作業員ぐらいにしか思っていないから睨まれてもどうってことない。

 昼過ぎ、会社を辞めた「ど○えもん」がひょっこり現れた。「ダンボール箱を貰いにきた」という。それにしちゃあ以前彼女がやっていた売上端末をいじくって場内放送までして楽しんでいたようだ。

 あのT副所長までが、
「あいつ何しに来たんだ?」
といぶかる程。

 遊びに来たんだろう

 午後から棚卸に入る。「らいおん丸」とのトークタイムを夕方に挟んで午後7時半、シゲ所長の差し入れの牛丼と、仕入れのパートさんホリイが作ってわざわざ持ってきてくれた豚汁で夜食。豚汁は具沢山で熱くて美味しかった。誠に有難いことで、これから夜遅くまで冷え切ったセンターで商品のカウントを続行する社員達には励みになる。

 こういったセンター社員がやる気を起こす対策を、深夜残業が常態化しているのだから本社も考えればいいのに。無理か、事務的になって面白くもなく、もっともそういうことを考える社風でもない。

 でもねえ、お客をわくわくさせることも商売の基本なんだから内部的にはそういった工夫も考えられないはずはないのだが。棚卸をイベントにしたら楽しく差異解消になると思う。が、社風がねえ…。

 午後10時半、業務終了で速攻で帰宅。途中「らいおん丸」にメールで励まされながら。


12月24日

 今日はクリスマスイブなのであるが、残念ながら何も手立てをとらなければ極悪ベンダーにイブなどと言う言葉はない。確実に深夜まで冷え切ったセンターで残業だ。

 通院にかこつけてセンターを脱出、バス停で「らいおん丸」と待ち合わせる。当初の目標は平塚のビヤホール。が、待てど暮らせどバスが来ない。普段は10分に1台は来るのになぜかイブのこの日に限ってもう40分以上も寒空の下で待ちぼうけ。

「寒いよ〜〜〜」

 「らいおん丸」が鼻を鳴らす。バス待ちの列も数十人にまで膨れ上がり、寒さを我慢するのも限度に達した頃、反対方向の厚木行きのバスが到着した。2人は発作的に道路を反対側に渡って、来たバスに乗り込んだ。

「もう居酒屋でもいいよ〜〜」

 厚木行きのバスに乗り込んだ途端に平塚行きのバスが来たら頭に来るなあと車窓から反対車線を眺めていたものの、一向に平塚行きのバスとすれ違わない。

 「らいおん丸」は厚木ということで弟子にメールを送って誘っている。

 結局平塚駅行きのバスは厚木駅に近づいてから8台も繋がって走って行った。何やってたんだ? あのまま待ってたら凍死してるところだった。

 ところが今度は厚木駅直前で大渋滞。相模大橋方面の車が詰まって動かなくなってしまった。もういい加減にしてくれと、途中下車して歩くことにした。

 降りた途端に何とバスはするすると動き出したではないか!つくづくツイてない。

 やっとのことで厚木駅に着いた。
 イルミネーションが輝く駅前で弟子を待とうとするも、冷え切っていて外にはいられない。弟子には悪いが一足早く居酒屋へ入っていることにする。

 今回入ったのは厚木駅ビル南館2階のうまいもの屋 あじかぐら

 なかなかオシャレな店だった。ビールが中瓶はいただけないものの、とにかく今夜はイブ。後からきた弟子と盛り上がった。あ、盛り上がったのは「らいおん丸」と弟子だった。

12月23日

 パートさんの出勤人数が少ない。事前の流通加工と棚入れが進まないので、通常12時45分には出荷作業を開始するところ、1時間15分遅れの午後2時過ぎにようやく開始となった。

 でもって作業終了は7時30分。午後から出勤のパートさん達は1時間半の残業であった。社員は残務整理などで21時終了。

 今でこそこの時間で終わるが、パートさんが極端に休む晦日から三箇日はどうなるのか考えただけでもゾっとする。その対策は何も取られていないように見受けられるからだ。

 21日に作業管理の話をしたが、、きちんとしたデータの裏付けがあれば年末年始などの繁忙期に役立つことは確実だ。極悪ベンダーでは勘頼みだがセンターの実力を普段から把握することで、作業員や機械設備の能力の過剰、不足を明確に判断できるようになる。

 これは製造業では「余力管理」と言って繁忙期に合わせた投資をしないための重要な管理手法ではあるのだけれども、極悪ベンダーにはその片鱗は未だない。

 終礼直後、「らいおん丸」からメールが届いた。
「渡したいものがあるから今から行くよ」

 4日ぶりに会った「らいおん丸」。片手にぐうさんへのクリスマスプレゼントと、もう一方に姉さんのの2才の姪「タマちゃん」を抱きかかえていた。

 いやどちらもぐうさんにとっては分不相応な……、

 ぐうさんが先日贈った「らいおん丸」のクリスマスプレゼントの赤いフリースは彼女よく着てくれている。しかし今回ぐうさんがもらったのはお盆と旅館でよく見る一人用の鍋と炉に「ブーさんマグ」。

 「らいおん丸」、これではぐうさんへの倍返しだよ。しかも選ぶのに丸一日かけたというんだから頭が上がらない。日頃ウインドウショッピングしていてぐうさんが「いいなあ」と言っていたモノをちゃんと覚えていた「らいおん丸」だったのだ。

 「プーさん」は「らいおん丸」の分身だと思って大事に使わせてもらうよ。

 プレゼントありがとう、「らいおん丸」

12月21日

 土曜日である。週末は早く帰りたい。自ずと疲れ切った身体に鞭を振るって一刻でも早く仕事を終わらせようと社員達は歯を食いしばる。

 しかし午前中のパートの出勤が圧倒的に少なくて流通加工と棚入れが間に合わず、週のうちでも受注が最も少ないはずの土曜日なのに午後1時半を過ぎてもまだ出荷作業は始められない。

 入荷も検品スペースにはかさばる「キティの抱き枕」がぎっしり高々と積み上げられ、このままでは荷受が出来ない状態から開始された。しかも「取り込み」の真っ最中で入荷する商品の数量も格段に多い。

 「キティの抱き枕」の積み込みが始まり、空いたスペースを使って納品される商品を検品してはすぐに格納する。能率は非常に悪いがこの方法しかない。

 それでも何とか業務を終わらせることができたと安堵していたところ、弟子の「きち君」から「今夜飲みませんか?」とメールが入った。

 こっちも目星がついていたのでOKの返事を返したが、何と終礼を期待して事務所へ戻ってきた男子社員たちを仰天させたのは、机の上に山と積まれた金券の束だった。

 店から回収された金券を10枚ずつの束にくくって、更に100枚ごとにくくる。そうして何種類かある金券の総数を帳簿と照合して差異が発生していないか確認するのだ。

 その作業を行えと暗黙の指示らしい。いかにもコミュニケーションを行いたがらないT副所長のやり方だ。

 おかげでその作業を全うしてセンターを飛び出したものの、厚木駅で弟子を各十分待たせてしまった。飲みも必死である。

 いったいどうしてこんなに先も見えず慌てて過ごしているのだろうか。それはセンターの作業管理が適切になされていないからである。仕事とは会社が儲かるためにやっている。

 会社が儲かるための管理だから、商品の流れと人の動きをバランス良く調整したり、在庫、納期(進度)、出荷状況(品質)、コスト(原価)などについて目配りすることで、簡単なことではない。

 所長は決められた予算の範囲内で社員やパートが安心して、自信を持って委託された共配センター業務が遂行出来る体制を作り上げることが仕事である。そのためには、

  作業者の数と質を調整する。

  機械設備の数と質を調整する。

  最適の作業者と機械設備の組合わせを選択する。

  商品を出荷方法や流通加工の程度応じてグループ化する。
 
  儲けを達成するために品質、納期、原価などについて最適の管理方法を選択する。

  作業者の労力軽減、生産能力の増大、品質の向上を図る。

といったことが適切になされていなければならない。

 ところが上記の全てについて不備があるために儲かるべきところを儲からない、全員が疲れ切ったセンターになってしまっているのだ。

 本来、作業管理とは個々の作業ごとの決められた工程を安く(原価の引き下げ)、早く(生産性の向上)、安全に(安全性の向上)、楽に(品質の向上)作業を行うにはどうしたらよいかを目的とする。極悪ベンダーでもA表、B表といったエクセルでのシートで集計したデータはあるが、ごく大まか過ぎる代物で、それが有効活用されているとはとても言い難いのが現状だ。

 もっと精密なデータをもとに作業管理を行うには本社がストップウォッチとリストを持ったスタッフを投入してそれぞれの作業について作業のやり方と作業時間について調査する必要がある。

1.現在の作業の状況を観測し、集計整理する。
 
2.不必要な作業(無駄)をなくして作業時間を短くする工夫をする。

3.ある程度のやり方が決まったら、そのやり方を会社の標準とし、標準の作業にかかった時間を会社の標準時間とする。

4.標準時間と実際の作業員のやり方(実績)で測った時間との時間差を測定し、時間差が大きいときは作業のやり方のどこが違ったのか検討する。

5.4の結果をもとに作業の改善、指導を行う。
定期的に3・4)を繰り返す。

 このようなデータ測定と分析を行うことで、全社的な標準作業管理の原型ができる。今までのようなA表B表は単なる数字の遊びのようなもので、得られる情報はさして多くない。 

 ここまで出来て初めて個々のセンターの改善が始められるのだ。これまで極悪ベンダーが行ってきた「改善」なるものの正体は極めてあやふやなものが土台になっているので、実効ははなはだ疑わしい。

 そして、全社的な作業管理標準が確立されたなら、個々のセンターの実力把握も可能となる。どの位の作業量でこのセンターは目一杯になるかを把握することが可能となるのだ。

 これは年末年始やゴールデン・ウィーク、盆などの繁忙期対策には欠かせない基礎資料をもたらしてくれるが、これについては後日述べようと思う。

 それにしても、やや遅く厚木駅前の居酒屋へ入ったぐうさんと弟子、仕事の話に終始したが、本当は歴史の話なんかもしたいのである。ともあれこの大不況の時勢に極悪ベンダーの有志は蛮勇を振るって業績を維持しているのだという。

野武士

これが極悪ベンダーのやり手に与えられた総称だと弟子は言う。

 時に孤立無援、プロセスよりも結果をとにかく出さなくてはならないのが今この厳しい時期だ。

12月20日

 年末年始は各メーカーしっかり休む。この間は発注しても商品は入って来ない。しかしコンビニは年中無休なので極悪ベンダーには発注する。

 このメーカーが休みの間の商品を確保することを「取り込み」と言っている。通常の場合、センターは常に6日分の在庫を持っている。これはベンダーがメーカーに商品を発注して3日後に納品されるとした時、いつもの倍の受注が続いても欠品しないだけの在庫量だ。

 これが年末年始ともなると年末は受注が急増し、年が明けるとガクっと受注が落ちる。つまり休みの間の受注の変動が激しい。

 そして極悪ベンダーの月末棚卸は28日で、27日以前に商品は入荷していることが建前となっているので、大概のメーカーが翌年5日まで休むとすれば、次回の発注は6日が最初で、入荷が9日ということだから来年の9日まで欠品させないように商品を確保する必要がある。ごく単純に考えて14日、2週間分の商品を一気に発注しなければならないのだ。

12月17日

 朝礼前からシゲ所長がお店に平謝りしっ放しだった。発端は渋滞で大幅に遅れたのに店にもセンターにも連絡もしないで配送に回ったドライバーがいたので、苦情の電話が殺到したのである。

 実はこのドライバーが所属する配送会社の別のドライバーが二日前にも同じことで所長に説教されているのだが、懲りずに同じことを繰り返している。さすがにシゲ所長、マジギレして配送会社の責任者K本を携帯電話で呼び出して、
「おととい同じミスしたばかりじゃないですかあ、おたくどういう指導してんの?」
と、罵っていた。

 シゲ所長に怒鳴りつけられたからといってへこたれるお人好しの会社ではないこのデリヘルいや、D・デリバリー。

 

12月16日 会議は踊る

 新規推奨商品が多くて出荷作業が大幅に遅れ、パートさんに2時間以上も残業してもらって、作業に社員も入って出荷を終わらせたが、その後シゲ所長ガ、
「軽くミーティングを行おう」

 この「軽く」がクセものだ。1時間以下で終わったためしがない。「ねこ」とぐうさん、顔を見合わせてため息をついた。

 テーマは「センターの清掃を見直す」

 何度も以前に述べているように、

人件費削減の折からパートを危険なほど減らした結果、出荷作業や流通加工作業に著しい支障をきたしたばかりか、疲労とあせりでミスを誘発して顧客たる店舗からの信用を失墜し、当然センターの清掃に人員を振り向ける余裕もなくなった結果、センターは薄汚れてしまった

 それで今回のミーティングなのだと。そんなこと人員削減の際にシミュレーションしてなかったのか? またしても無能なコンビニ部門本社に振り回されている現場である。

 こんなことは管理者たるタジイとシゲさんで清掃計画作って、「はいよ」と提示すれば済むことじゃないか。不具合があれば逐次改めていけばいいだけのことだ。

 それがだらだらと2時間以上の続いた。空腹と退屈で「ねこ」は気持ち悪くなってハンカチで口元を押さえていたが、シゲ所長はいっこうに無頓着。

 あまりに馬鹿らしくてぐうさんは一言も発言せず。

「朝のパートさん全員でまず10分間清掃させる」
などとまことしやかな意見が飛び交っていたが、30人に10分清掃させれば2400円のコストなんだぞ。しかも就業後にはまた現場は散らかっているから、また清掃しろということになる。1日4800円のコストがかかることになる。

 それに微妙な時間に作業が終了した場合、10分残業させるということは無理な話だ。10分だけの賃金を払う仕組みにはなっていないからだ。そうなると30分の仕事を余計に与えなくてはならず、意外な出費となる。

 それなら専属の清掃専任のパートさんを一人雇用した方がいい。業務用掃除機を1台購入して。この広大なセンターに掃除機すらないという情けない会社なのである。

 機械化できなくて人海戦術に頼らなくてはいけないローテク会社なんだから人件費はもっと血のにじむ思いで考え抜いてオペレーションしてほしいもんだよな。

 と、こんなことはぐうさんは発言しなかった。する気もないし。
センターにアドバイスする気もなくなったんだ♪

12月14日

 「病は気から」ということわざがある。今朝は喉が腫れて痛くて目が覚めた。呼吸するのもつらい。前回にひいた風邪がこじれて咳はずっとしたままだったが、本格的に痛い。

 連絡しようにも自宅の電話機がブっ壊れている。先日弟子と痛飲して帰宅した折、踏みつけて壊してしまった。

 携帯はすでに通話はできずメールしかできない。何時の間にか音声が鳴らなくなっている。修理に出すかとも思ったが、手続きが面倒なのと、来年早々には新機種に買い換えるつもりなのでそのままだったのだ。

 弟子にメールして会社を「休む」旨センターに伝えてくれるよう頼む。これはまた随分卑怯な休み方だと自責の念が起きたが背に腹は変えられない。外へ出て公衆電話から周囲の騒音が一緒に聞こえるなかで「休みます」ではいらん誤解を招く。

 思えば極悪ベンダーに入社してから随分風邪には弱くなった。以前は滅多に風邪など引かない身体だったのに。以前は風邪を引いてもあと何日出勤すれば休みだから今日は頑張ろうという気持ちも働いた。が、今はまるでない。

 体を壊して長期入院に追い込まれる社員の何と多いことか。連日深夜残業を強いられても会社は最後はフォローなどしてくれない。自分の身は自分で守るしかない。

 賢明な者ほどさっさと会社に見切りをつけて辞めていったものだ。残っているのは愚鈍な者と小ずるい者と無垢な者と言ったら極論だろうか。

 センター内の人間関係の悪さもストレス源だろう。一所懸命頑張っていたり優れたことをやった人を嫉妬して足を引っ張る人、人にけちを付けるのが好きな人、中にはすべての人に敵意を持って接する人。これらは人間の本能に根ざしていたり、乳幼児期に形成された性格傾向で根深い場合が少なくないのだろう。自分の欠点を自覚していれば案外問題は少ないのに自分を正直に見ることができない人との付き合いは疲れるし消耗する。

 実はこのセンターでの人間関係にぐうさんが参っているのが風邪発症の最大の原因ではないか。職場環境の悪さも一役買ってはいるが。

 働きがいのある職場ってのは組織としてのセンターの存続条件の強化と個人の満足水準の向上が同時成立しているて、しかも個人と組織との間に信頼関係がある場合に成り立つものだ。

 「顧客満足」と経営者は声高に吼えるが、その前に「社員満足」があってこそだ。「社員満足」が前提に初めて「顧客満足」が唱えられる。そうでなければ単なる奴隷・強制労働に成り下がって「顧客満足」など望むべくもない。

 「効率化」もよく吼えるが、人間性との両立を図らない効率化は従業員を疲弊させ、誰も働きに来なくなって経営者の首を自ら絞める。

 働きやすい職場とはどんな職場というより、働きにくい職場として極悪ベンダーのセンターの様子を述べると、その正反対が働きやすい職場である。

 当センターの働きにくいところとしては、
・従業員が定着しない。
・生き生きしていない。
・対応が良くない。
・向上心が持てない。
・笑えない。
・発言がない。
などの様相がある。

 その背景には
・法定の制度がない
・人間関係の快感が少ない
・待遇や処過に不満がある
・達成感や満足感が少ない
・仕事や組織に誇りがもてない
・自己実現が図りにくい

それが組織としてどんなことになるかと言うと、
・収益性が低い
・生産性が低い
ということに跳ね返る。

それは以下に述べるセンター自体や会社が抱えた問題に起因することが大きい。
・自己独自の製品や技術、サービスがない
・付加価値率が小さい(センターフィーが低い)
・諸制度やルールが整っていない
・コミュニケーションが悪い(手段、量、質)
・物理的仕事環境が悪い(仕事、空間、照明、設備等)

 ではなぜ極悪ベンダーは改善を怠っているのだろう?一言で言えば経営管理に失敗しているのだ。

 会社といえども個人の集合体だ。個人には選択力、決定能力、自由意志がある。これさえ経営者が認識していれば、個人には社会の一員であることの連帯意識、社会の役に立っているという意識、個人的な報酬や達成感による満足があることはまず理解できていなければならない。

 経営の失敗とは個人の自由意思に対して正確な認識を持とうとしないことがそもそもの原因である。人間洞察が薄いということか。

 それでは個人の人間性を踏まえて効率化も両立できる組織とはどのようなもなかと言えば、
・経営者がちゃんと経営者の仕事をしている。
・そしてその結果得られた知識を経営資源の配分、事業領域、組織の組み立て、付加価値の創出に 生かしている。
・社員とのコミュニケーションの手段、量が豊富で質も良い
・責任と権限が明確になっている
・評価と処過の明確化とフェアな運用を行っている
・個人を尊重する気風がある。

と、こういうことが出来ている組織である。集団とはいえ個人の内面の満足を満たさずに真の効率的集団など存在しないのである。

 極悪ベンダーはそのすべてにおいて全なのは言うまでもない。



12月11日

 職場の雰囲気、特に社員の人間関係が最高に悪い。わずか11名しかいない社員それぞれ仲がいい悪いがはっきりしていて協力しようともしない。

 これは普段つるんでいるグループ分けから容易に識別が可能だ。まずはトヨピー、マツ、ジョニーの群れ。荷受検品Gのメインメンバーだがぐうさんと番長は入っていない。彼らの敵は番長、haゲ、副次的にT副所長、シゲ所長、ぐうさんであろう。

 ただしマツの場合はぐうさんに対して強烈な対抗意識を持っているらしい。こっちは相手にもしたくないのだが…。常にぐうさんには抜き身の剣をブラブラさせたような言動で威嚇行動を取ってぐうさんをいらいらさせる。

 ぐうさんは無視しようとしているが、無視も我慢の限界を超えたら双方共に重症を負うということにマツは気付いていない。できれば「らいおん丸」がこの会社にいるうちはぐうさんは我慢するつもりだ。

 ただ、この群れの中ではジョニーはいっしょにいるというだけで、誰の悪口を言うということもない。それだけ大人なのである。ぐうさんにもマツのことを「情緒不安定」と評していた。表向きはマツと仲良くやっている。

 番長とhaゲ、カッスィ、T副所長がもう一方の群れだ。残念ながらぐうさんは彼らと敵対していたので彼らには疎い。だが、番長が静岡へレンタルされて、一ヶ月後には変わった姿で帰ってきたのを見て意識を変えた。

 今は徐々に番長と会話の再開を策しているところである。


12月3日

 起きれない。連日深夜残業で心身共にボロボロだ。当センターの始業は9時からだが、その20分前には掃除を終わって朝礼を行う。これって労基法上は微妙なとこなんだけど、朝礼までやるからには違法だろうな。

 ここんとこぐうさん、朝礼には出ていない。特に今朝は朝礼に出る社員が少なくてT副所長はおかんむりだったらしい。やはり遅れてきたトヨピーが、

「だったらクビにしてくれよ!」

 と毒づいた。本当だ。

 だが待て、シゲ所長は病院でドタキャン、普段は朝礼に遅れてくる番長やねこはたまたま今日は朝礼に出た。ぐうさんとトヨピーが遅れて激怒するTの感覚はまさに敵視そのもの。

 うーむ、ビッチ前所長以来の対立の構図が復活かもな。対立してる場合じゃないんだが、極悪ベンダーの場合……。

 そしてぐうさんとこに、月曜日の本社朝礼でジジイ会長がまくしたてた内容の文書が回ってきた。

「欲しがりません、勝つまでは」

 50年以上も前、日本がアメリカと戦争して木っ端負けした頃の貧しい日本の窮状に立ち戻れと言いたいらしい。人海戦術で負けた日本と機械化で勝ったアメリカとすれば、いまだ学んでないのは極悪ベンダーではないか。

 しかもだ。テレビで見た中国の工場に働く奥地から働きに出てきた中国女性の過酷極まる現状を、日本の明治時代の女工哀史に比肩させたのか、素晴らしいと絶賛してもいる。

 一方で今の若い日本の女性を「アルバイト感覚で身を入れて仕事していない」、「遊ぶことにばかり熱心だ」、「親に金を入れない」などと非難している。

 大きなお世話だ。

 敗戦で無から始まった頃と今の日本経済経済の凋落を同一視する意見は以外に多い。だからと言って昔のやりかたは通用しない。

 かつてはがむしゃらに働けばお金になったと言いたいらしいが、今はがむしゃらに働いてもお金になるとは限らない時代だ。まっとうに働いて年金を払って、自分が貰う頃には貰えないかも知れない。こんな世にしたのは誰なのか? 

 たとえ自分の勤めている会社のオーナー会長であっても、こんなジジイは願い下げだ。戦後50年間何やってきたんだろう。


12月2日

 日曜日はすっかり寝込んでまた月曜日がやってきた。月初めで
入荷もどっさり。しかも新規推奨商品の出荷、お年玉袋の出荷も
重なって弱体な午前中のパートさんの人員数では流通加工・出荷
準備もままならない。

 なぜ午前中のパートさんを少なくしたのかは最近になって分かっ
てきた。しかし、いかに料率(センターを通過した商品の金額に応
じてセンターが受け取る手数料。これがセンターの主要な収入)を
下げられたからといって、出荷準備のパートさんを危険なほど減
員したのは間違いだった。

 お店に対するサービスレベルを落とさずに人件費を削減する。
聞こえはいいが、元来機械化の全く進んでいないこういったセンタ
ーは、人海戦術に頼る他ない。結果は個々の社員・パートの負担
増加によるミスの続発である。

 社員もパートも息切れしている。
「辞めたいよ。他にいいとこあったら」

 これがセンター社員、パートの正直な気持ちだろう。負担増加に
見合った施策をコンビニ部門本社は全く行っていないからだ。
だ人減らししただけ。

 今のコンビニ部門本社は社長以下、顔が見えない。問題が起こ
ったときに下部を怒鳴りつけるだけで、本社として何をしているの
かさっぱり見えない。

 知った限りでは3流の人材が巣くっているだけだ。優秀なのは○
VDへ流れたか、GMS部門へ転出させられて潰されたかだ。不幸
な事に、コンビニ部門は解体が進んでいる。

 今日はいくら何でも早く帰りたいと思ったが、新店の商品出荷作
業があって終わったのは午後9時。もう帰りたいと皆思っていた
が、シゲ所長、サービスレベルが落ちたのはどういうことか、ミーテ
ィングせよとのことだった。モラル下がっているからため息やら怨
嗟の声が上がる。

 トヨピー、ぐうさん、ジョニー、マツ、カッスィ、番長とねこの6人で
いやいやミーティングを始める。答えは初めから解りきっている。
パートさんが少なすぎる。

 ろくな設備もない職場ではとにかく人海戦術に頼るしかないのは
皆思っていることだ。それを一気に減らしたのだからパートさんも
負担が増えてあせる、慌てる、ミスをする。

 「まず、出荷準備を先行できる体制を確立する」

 メインの意見としてこれを掲げて、あとは付け足しを箇条書きで
書いた文書をシゲ所長に提出した。これを機に午後10時過ぎに
終礼となったが、シゲ所長、

「もっとhaゲをフォローするように」

 とのたまった。

駄目だもう、こりゃあ…


12月1日

 先週から慌しい日々を送っている。棚卸のあった29日と翌30日は帰宅は午前0時を過ぎた。

 売上が減っているのに仕事がキツイのはなぜか?リストラのせいである。リストラはしないと強弁する会長の言葉とは裏腹に、しっかりとリストラは行われている。退職する社員の多さがそれを物語る。

 日本労働研究機構のホームページにはリストラの結果、「士気の低下」が問題になっていると書かれていたが全く極悪ベンダーもその通りだ。

 極悪ベンダーのリストラは現在の経営上の失敗に対処するためであって得意分野に絞って収益構造を改革するなどといった戦略的な意味での人員削減では全くない。

 こういった場合、会社を去る者の多くは優秀な社員であったがために残された社員にも抜けた穴を埋めるべく負担が重くのしかかる。それは人員減に見合った業務改革が全くなされていないからだ。

 改革しようにも忙しくてとても話し合っているヒマなどないというのが現実だ。その余裕のない現実に何の手も打たないまま中身の伴う改革をやろうとしても、思うようには進まないのは当たり前の話だ。

 そういう職場の改革を実際に統括して進めるのがセンターでは所長の役割だろう。役割とは、自分や部下の仕事に優先順位を付けることだ。大まかな部下の仕事に対して優先順位を付けてやり、あとは部下が自分で優先順位をつけられるように相談にのりながらサポートする。この場合、部下がそれぞれ一人ひとりでやるのでなく、お互いに協力し合って意見交換しながらやれるように、話し合いの場づくりを奨励するなどの働きかけをすることが大切になる。

 センターではこういった仕事の優先順位付けは「目標チャレンジ・シート」などで所長と部下との間で面接を行ってできるようになっている。いや、いるはずなのだ。実際にはそれがなかなか出来ない。お互いに協力し合って意見交換しながらやれる環境を副所長が阻害しているようでは改革など絵に描いた餅に過ぎない。


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