「日本の生命保険業において誰が勝者なのか」


 

九州大学 経済学部
経済工学科3年 杉田 知栄子
1、 はじめに

 日本の生命保険業において誰が勝者で、また誰が敗者なのかを明らかにするために、生保の総資産、生保各社のソルベンシー・マージン比率、生保全体および各社の経常利益、株式含み益についてみる。
 総資産額は会社の規模を測る尺度であり、勝者を判断するうえでの重要な判断指標となろう。しかし、これだけでは会社の経営状態は見えてこない。そこでイギリスの生保業界の健全性をみるときにも、一つの指標となったソルベンシー}ージン比率をみてみる。そして、会社の経営状態が最もわかると考えられる各社の経常利益についてみてみる。最後に、広い意味での自己資本の一部である、株式含み益についてみてみることにしたい。
 最後に、分析で得られた結論をまとめることとする。

2、総資産について
 
 まず、企業規模をみるため生保の総資産を見てみよう。
 最も総資産額が多いのは40兆382億円で日本生命である。次いで28兆324億円で第一生命、そして住友生命、明治生命となっている。もちろん総資産額が多いということは、企業体力に優っているという点で一つの大きな競争力となりうる。とくに、規模のメリットが存在する場合には、規模が大きければ大きいほど費用を節約できることになる。
 しかし、企業の規模が単に大きいからといってその会社の経営が安泰であるとはいえないであろう。健全性や効率性をみてみる必要がある。

3、ソルベンシー}ージン比率について
 
 ソルベンシー}ージン率は責任準備金を越えたリスクに対する支払い余力を示すものである。その数字は会社の健全性を計るひとつの指標となる。これはイギリスの生保会社の成功・衰退をみるうえでも参考とされていた。98年に公表された既存生保19社のソルベンシー}ージン比率は、大同の1016%から東邦の154%までとかなりばらつきがある。また中堅生保を中心に300%前後の会社が5社(協栄、千代田、日本団体、第百、大正)もならんでいる。
 株式含み益を控除した修正比率は、株式含み益の依存度が小さく、外部調達も少なければ、もとの比率とほとんど変わらない結果となる。そういう観点からみると、他に比べて安田、大同はもとの比率と修正した比率はあまり差がない。日本、太陽、富国は比率は下がるが、相対的には良好である。
 もっとも、ここで問題なのは、ソルベンシー}ージン比率の計算式の係数の定め方によって、その数値は100%程度は簡単にかわってしまうのではないかという疑念があることである。確かに健全性を示す一つの指標であり、各生保の健全性を相対的に評価するうえでの一つの基準とはなるが、絶対的な評価の基準としての信頼性に欠ける面がある。したがって、生保の経営に不信感と不安感を契約者が抱いているこのようなときにこの比率を公表してしまうと、それを真に受けた契約者は指標の良くない生保から良い生保に逃げ出し、経営を更に悪化させる結果になるのではないだろうか。算出方法を明定しないことには曖昧な指標となる危険性が大きいと思う。しかし、とりあえず会社の健全性を計る目安ではあるので、1.大同、2.日本、3.太陽と順位をつけてみた。

4、 生保の全体および各社の経常利益について

 各大手生保の平成8年度の経常利益を見ると、前年より回復している。しかし、経常利益から有価証券売却益を引いたものを実質の経常利益として見ると、日本生命が他の生保と比べて大きな黒字を出している。また保険料収入をみると、平成7年度までには保険金等の支出を収入が上回っている生保は多いが、平成8年度になると支出と収入は同じ位かもしくは支出が上回っている生保がほとんどである。大手の生保といえどもこの不況の影響を強く受けていて、堅調な日本生命にしても保険金等の支払いに事業費を加えると、保険料収入を上回っており、現在、3000人のリストラに取り組んでいるという。
 また大手の一角であった千代田生命は、総資産と経常利益で太陽生命に抜かれており、この差は解約率の多さからして広がる可能性が大きいといえる。太陽生命の後には、富国生命も追い上げており、経常利益はすでに千代田生命、三井生命を抜き去っている。この不況が長引き、株価も回復しなければ、富国生命、太陽生命が比較的順調に成長し、実質的に大手の仲間入りをするのもそう遠いことではないようだ。
 平成8年度までの経常利益の推移を見る限り、千代田生命の赤字の減少はあまりみられない。同様のことが協栄生命、東邦生命、第百生命にもいえる。かなり厳しい状況にあるのは一目瞭然である。安泰なのは日本生命、大同生命で、外資系・カタカナ生保ではアメリカンファミリーだといえそうである。

5、 株式含み益について
 
 生保の広い意味での自己資本となるものの一つに、株式含み益がある。保有資産の含み益は戦後ほぼ一貫して上昇し続け、大手生保の株式含み益は88年度末には36兆円に達していた。しかしバブルの崩壊とともに急激に減少し、97年度末には4兆円を割り込むまでに縮小した。日経平均株価が89年12月の39000円から98年には13000円台を割り込む水準にまで落ちたように株式相場の下落の影響が大きいのは確かである。株式含み益に余裕がなくなると、決算対策も苦しくなる。 
 少しデータが古くなるが、98年9月末時点で株式含み益がゼロになる日経平均株価の水準をみると、住友生命が15800円、三井生命が15200円、千代田生命が17800円であった。98年9月末の日経平均株価は13406円と97年度末に比べさらに3000円も下がったため、この時点では既存生保の16社のなかで13社もが株式含み損となったという。含み益がなくなれれば経営環境が一段と厳しくなることは、当然に予想される。
 また、中堅生保に着目してみると、平成9年度も総資産を増やした中堅生保の3社である太陽生命、富国生命、大同生命の3社は、他の中堅生保に比べて株式含み益がゼロになる水準が相対的に低い。顧客が株式含み益などを考慮して、保険に加入していることが想像される。特に大同生命は株価の含み益がゼロとなるポイントも11700円と低く、日経平均株価が相当下落しても含み益を維持できる経営体力を持っている。もっとも、太陽生命の場合には13100円をマークしてはいるが、経常利益をみると228億円と小さく、大同生命の4分の1、富国生命の半分程度であり、この不況のなかこれが改善するという見込みはあまりないようである。しかも金銭的に支援している太陽火災の問題もあり、支援額がさらに増えることにでもなれば、経常利益の額からして経営の足を引っ張る可能性もあるという。太陽生命が立てなおし出来るかは太陽火災にかかっているとも言える。
 
6、 まとめ
 
 以上のような観点で日本の生命保険業界をみて、私なりに勝ち組と負け組に入る会社を判断してみると
 勝ち組…大同生命   負け組…千代田生命・協栄生命・第百生命
となった。
 ここに挙げただけでなく、現在経営の危機にある生命保険会社は数多くあると思う。特に解約も急増しており、負け組に属する会社の中には外資系など有力な提携先を見つけるなどの対策を講じているのは当然であるといえよう。そうしなければ解約に歯止めがかからず第二の日産生命および東邦生命の出現となってしまうであろう。
 これから生保業界では経常利益を重視していくのはもちろんであるが、営業的にも課題が残されている。通販の採用、セールスレディの効率の問題など販売チャネルの見なおしや、稼働率の悪い職員のリストラなどへの対処が会社を運営していくうえで重要になってくると考えられる。

戻る