「日本の生命保険業において誰が勝者なのか」 

        

九州大学 経済学部
経営学科 関 俊亮


 
  はじめに、会社が勝つことの意味を考え、そこから何を見ればいいのかを導き出したい。今日の会社の一般形態として主に株式会社が上げられる。株式会社は、企業の財務内容を明らかにし、企業の状況に関する利害関係者の判断を誤らせないようにすることを目的として財務諸表を作成する。
 財務諸表は、主に損益計算書と貸借対照表で構成される。損益計算書からは費用(努力)に対する収益(成果)、すなわち利益(企業の経営成績)が分かり、貸借対照表からは企業の財政状態が分かる。もし仮に、総資産一億円のA社と総資産十億円のB社が同じ利益を上げているとすれば効率はA社の方がよい。しかし、底力があるのは両者の資産に占める負債の割合が同じならばB社になる。また、A社のその割合が10%、B社が99%ならば、A社の方が良い会社と言える。負債は将来、資産をもって返済すべきものである。資産の額の方が負債の額よりも小さくなれば、債務超過となり企業は倒産する。これは非常に単純なケ?スを想定したが、実際の現実の企業を測る指標は他にもたくさんある。さらに、それらの指標は業種業態によって重要視する度合いは違う。
 日本の生命保険会社は、相互会社であるが株式会社と同様に企業であるので、利潤の獲得を最大の目的としていることにかわりはない。そこで、企業形態は違うが、利益と、資産と負債のバランスは企業を見る上でかかせないと思うのでこれについてまず見ていきたい。
 次に、生命保険会社の経営の健全性を測る物差しとして良く使われるソルベンシーマージン比率。これは生命保険会社を襲いうるリスクに対する支払い余力を表したものであり重要である。それから、先程の利益、一般に経常利益はこれに深い関連のある指標をいくつか取り出して細かく見る必要があると思う。冒頭で述べたように、利益は収益と費用の差であり、生命保険会社の主な収益は保険料等収入(74.1%)、資産運用収益(21.0%)で、費用は保険金等支払金(53.7%)、責任準備金等
繰入(23.5%)、事業費(10.6%)、資産運用費用(6.8%)である。{( )内の数字は95年度生命保険会社全体の収支状況}。各社のそれぞれ項目の推移を分析するとより正確に分析できるが、ここではこの中で特に重要な、保険料等収入、資産運用収益、事業費を考えたい。残ったものはデータがなかったのと、その項目の性格上各社でそれ程差が出にくいのではないかなと思ったので取り上げなかった。責任準備金等繰入は、責任準備金の積立方法をチルメル式にするか純保険料式にするかで違いがあるが、大半の収益性の高い優良な企業は純保険料式を採用しているので考慮しない。

1.経常利益
 これは、各社ごとの数値を比較し、多い少ないで優劣を単純にはつけられないと考えられる。規模の大きな企業の方が数値が大きくなるのは必然であるので、ここでは総資産に対する経常利益の割合で考え効率の良さを見たい。また、経常利益は、経常収益から有価証券売却益、為替差益などを、経常費用から有価証券売却損、為替差損などを除いた一般企業の営業利益に近い修正経常利益の98年3月期の数値を、総資産は劣後ローンなどを控除した同年数値を使い計算した。修正経常利益は本業の利益を反映しているので非常に有効である。劣後ローンとは、保険会社が破産した場合に保険契約より返済順位が劣るローンのことである。
 評価は、安田生命の2.3%と大同生命の1.9%は、日本生命、第一生命、住友生命を中心とした他の企業を圧倒しており、規模(総資産)が大きくない方が効率が良いという傾向がみられる。

2.資産と負債のバランス
 98年度3月期の数値を使用するが、この数値の大小で、企業の優劣を決めるのは規模の大きな企業の方が若干有利であると考えたので、資産に対する負債の割合で比較することにした。この割合が100を超えれば債務超過になり、0に近い企業ほど良い事になる。
 評価は実際数字を出してみたら各社ともそれ程差がなかったことから、一般に総資産の順位の上の企業の方が体力はあることが分かり、大同生命の98.1%はどれ程評価できるかは分からないと思った。でも、この数値が低い方が一般に良いので、3位として大同も評価した。

3.ソルベンシーマージン比率
 計算の仕方によって数値が変わり、東邦生命のように200%を上回っていたのに破綻したということもあり、数値の操作が若干可能であるのでどこまで信用できるか分からないが、企業の優劣を決める一つの指標にはなるのでこれをもとに比較する。
 評価は、大同生命の1016.8%、日本生命の939.9%、太陽の873.0%が他社を圧倒しており、ピンチになった時の支払い余力がある事が分かった。

4.保険料等収入
 これは、ストックとしてとらえるよりフローとしてとらえ、各社の増減率で比較した方が企業の成長性をより反映できる。ただ、増減率を比較するのにいつの年度といつの年度の数値を使うかで、各社の数値は年々変化するため公平にはならないがデータの都合もあり、95年度3月期の数値に対する98年度3月期の数値の割合で比較する。ある年度の数値の大小比較は、規模の大きな企業の方が大きいのは必然であり、ここでは考えない。また、保険料等収入の増加やつぎに説明する資産運用の好環境は、生命保険会社の経常利益の増加につながりそして総資産の増加へとつながっていく。
 生命保険会社に対する不安が現在広がっている中で顕著に増加している日本生命は,その背景に今後の金融の自由化の流れを考えて体力のある日本生命を選ぶ購買者の選好が働いているのではないかなと感じた。2位の富国生命は、規模を考えると下から3番目、日本生命の約9%の規模しかないのに健闘している。平均予定利率も業界2位で無理をしているわけでもないので、非常に評価できる。

5.資産運用収益
 これは、各社ごとに随分ばらつきがあるものである。その理由は、生命保険会社全社が共通して苦しんでいる資産運用の逆ざやの為に、苦しい会社ほど有価証券の含み益の益出しや評価益を使ってそれを補っているからである。資産運用収益はそれも含んでいるから、この数値が多い方が良いと一概には言えない。逆ざやは、政府の銀行救済のための低金利政策によって予定利率と運用利回りに差が生じて発生しているので、むしろこの二つに焦点をあてた方が良い。
 まず予定利率については契約時に決まる利率であるので、その後の運用環境が変わっても原則として変更できない。予定利率を高く設定すれば、その分保険料は安くなるのでその商品はたくさん売れ保険料収入は増加するが、運用利回りが下回れば一時しのぎですぐに逆ざやが発生する。したがって、予定利率の低い商品をたくさん売った方が良い事になる。
 また運用利回りについては、有価証券の益出しや評価益を含んでいるので、各社の運用力をより反映する実質運用利回りで考える。現在、各社は予定利率の低い商品を売ることで平均予定利率を下げ運用利回りを上げることで逆ざやの根源を解消しようとしているので、平均予定利率と実質運用利回りは非常に重要である。これも、98年3月期の数値を使った。
 実質運用利回り3%台の安田生命、大同生命、富国生命は他社と比べ非常に高い。平均予定利率で見ると、大同生命の3.57%は他社を圧倒し、明治生命、安田生命、富国生命の3.8%も業界平均の4.04%より良く、評価できると思う。両方の項目に名前を連ねた3社、大同生命、安田生命、富国生命は、生命保険会社の経営を考えたときとても優良な企業だと思う。

6.事業費
 これは、一般企業の損益計算書の販売費及び一般管理費にあたり、新契約費(営業職員等への報酬、健康検査など新契約に伴う必要費)、契約の維持管理費用、保険料の集金業務経費で構成される。生命保険会社の支出の中で最も圧縮、効率化できるところなのでとても大事な数値だと考えられる。
 各社の収入保険料に対する事業費の割合の数値をみると、他の製造業のように金融にも規模の経済があるとすれば、規模の大きな企業の方が有利でより低い数値になり、前述の資産と負債のバランスの補足ができる。
 各社ばらつきがあるが順番に見ていくと、予想に反し業界の中で中堅規模の太陽生命6.5%、大同生命9.7%が他社と比べ圧倒的によいことが分かる。生命保険会社は1の経常利益の項目と総合的に考えて、規模の経済は働かないのではないか。この2社は非常に効率の良い企業であると言える。         
      
7.総資産の成長率
 最後に、イギリスの生命保険会社の比較にも使用されていたTotal asset growthを7番目の項目として取り上げたい。生命保険会社は、事業費の項目の結果から分かるようにスケールメリット、一般に規模の経済が他の業界に比べどれだけ働いているかは分かりにくい。しかし、規模が大きくなることは資産と負債のバランスを一定に保っている限り、その企業の体力が増すということを意味する。
 これについては英国の数値が1990ー5年度のものであるので、日本の各社も同じように1990年度3月期の数値に対する1995年度3月期の数値の割合で比較してみた。ただし、勝者を決める指標としては年度が他の指標と違うので使わないことにする。
 イギリスの生命保険会社のトップスリーは、Equitable Lifeの172%、ScottishEquitable Lifeの169%、Sun Lifeの137%である。この3社は、日本の大同生命の172.5%、協栄生命の164.5%、富国生命の157.9%と似たような数字を示している。しかし、イギリスのその3社はMacmillan&Christophers "Strategic Issuues in the Life Assurane Industry"にあったように、様々な面から評価した4段階のグループのなかで上位2段階グループに属するが、日本の2位の協栄生命は、平均予定利率を筆頭に他の項目もほとんど最下位に近い。98年度3月期の数値がこうなっているということは、無理をしての成長だったといえる。 

 最後に、以上の項目の統計を総合的に見て勝者を考えるにあたり、各社の数値を比べるのに基数的数値を評価するのは難しいので、次表の各項目ベストスリーに入っている企業を見て勝者を決めたいと思う。それぞれの項目ごとに重要性も違うので、厳密な評価をするのは難しいがタイトル数でみて、保険料等収入の増減率100%を超え、それ以外すべてベストスリーに入った大同生命を勝者としたい。

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