秋田県第三セクター欠陥住宅被害者の立場から

糸 賀 長 子


 秋田県木造住宅事件の原告団長を務めました糸賀です。弁護士費用の敗訴者負担という制度ができると聞き、いても立っても居られなくなり千葉から仙台まで駆けつけました。もしも、私たちの事件の時にこの制度があったら、私たちは裁判はできませんでした。そして、一人約1000万円の和解金を勝ち取ることもなかったでしょう。以下に私達のことをお話しさせていただきます。

 秋田県の第三セクターである県木住から購入した家が欠陥住宅でした。それなのに秋田県は私達に謝罪をしないばかりか、県木住を破産させてしまったのです。そこで、被害者が集まりを持ちました。ある人は「裁判はできない、第三セクターに勝ったという判例がない」また、ある人は、「裁判に莫大な金が掛かる、千葉県が秋田県に補償させるようにした方がいい」別の人は「建築許可を出した千葉県に責任をとらした方がいい」といい、私は「商法23条の名板貸し責任で秋田県を訴えたい、それには集団訴訟しか方法がない」と考えて被害者の会の結成を打診したところ、35戸が賛成してくれました。そこで「訴訟準備に入ろう、それには先ず一戸10万円の入会金と1ヶ月5千円の会費を集めよう」と呼びかけましたら、会員は17戸に減ってしまいました。理由は、「お金の都合がつかない」「旦那が、ローン地獄で今でさえ生活がやっとなのに」とか「勝訴する保証があれば金を借りてくる」と奥さんは泣きながら裁判に参加できない悔しさを訴えていました。それでも私達は、弁護士を頼もうと3軒の弁護士事務所を訪ね相談しましたが、どの方も体よく断りました。やっとの思いで探した私達の弁護士さんに着手金の一部を支払い、最終的には17戸24名で訴訟を起こしました。秋田の裁判所で裁判が始まりました。

 初めは千葉から秋田まで、マイクロバスを30万円でチャーターしたのですが高速代などで一回につき42万円も掛かりました。前夜に山武を発ち早朝つくのですが、皆バスの中では眠れません。私達は一番安い公共の宿で朝食をとりそのまま駅頭でビラを撒きました。公判はたったの5分で終わりです。ぐったりした体のまま夜行で帰ることを、何度か繰り返しましたが、乗り物酔いや睡眠不足で年配の人や腰痛持ちの原告らが根を上げました。その上、瞬く間に資金も底をつきました。公判の度に秋田駅周辺や県庁前で県民に訴えるビラも、印刷だけで、2万円も掛かりましたので、次回から一回2000円で輪転機を借り自分らで印刷しました。それでも資金が不足したので私達は、出廷人数を5〜6名に絞り一人あたりの費用が17500円ですむ夜行バスに切り換え交代で法廷に行くようにしました。身体に負担がある人は新幹線や飛行機を利用しましたが不足分は自己負担となり可哀想でとても辛い思いをしました。

 私達は秋田県と県木住の一体性を立証するため破産管財人に、会社の書類を開示するようねばり強く求めたところ、秋田県郊外の河辺町にある倉庫で開示すると言われました。私達6名の原告は朝4時起きして朝食のおにぎりをつくり早朝割引の飛行機を利用して秋田空港に着いたのですが、なんと倉庫までのバスがないのです。でもタクシーに乗るお金もないため、やむなく皆で歩きましたが、2時間かかりました。帰りは、疲れ果て歯が猛烈に痛みました。私達は資金不足の原告団ですから極力お金を使わない工夫をしました。私達の弁護士の先生方が千葉の現地に来ても宿は取らず欠陥で危険な私の家に泊まってもらい、申し訳ないが夕食はうどんで我慢していただきました。なのに、秋田県についた東京の弁護士は公判の度、グリーン車やスーパーシートで東京〜秋田間を往復していました。あのお金も全部秋田県が払っているのだと思うと、はらわたが煮えくり返る思いでした。足かけ3年目を迎えた頃から、もう裁判を降りたいという人が何人もでました。私はそのたびに「ここで降りたら今まで使ったお金や苦労が水の泡になる。もう少しの辛抱だから頑張ろうよ!」と励まし続けました。私も生活が苦しくバナナ一本しか食べられない日もあり、毎日が血を吐くような闘いでした。裁判になる前は、体重が50キロあったのに体をこわして入院したときは、34.3キロしかなく栄養不良状態になっていました。文字どおり精神力だけでの闘いでした。

 裁判では、県と2つの銀行、12人の取締役、3人の監査役を被告にしました。その結果被告18名についた代理人の数は24名になりました。私達も少なくとも7〜8名位の代理人を立てたかったのです。でも住宅ローンをかかえた私達は最初からそんな資金もなくあきらめました。裁判に加わらなかった人は私達よりも大変だったかもしれません。現に競売になった家も沢山あります。もしも敗訴者負担になると、行政が税金で雇った弁護士の費用を私達が負担しなくてはなりません。公判の都度、グリーン車やスーパーシートで通う弁護士の費用を負担させられることになります。とんでもない話ではないでしょうか、そんなのは絶対にイヤです。払いたくありません。行政に対する裁判は弱い立場にある者がいつも負ける仕組みになっているのではないでしょうか。その上、相手方の弁護士費用までになったら私達は裁判を起こすことはできません。そして原告一人一人が約1000万を獲得することができないまま、泣き寝入りするしかなかったと、思っただけでもゾッとします。私は、私達のような貧乏人が苦しい闘いの中から生きる望みを切り開いていくことに助力する裁判制度であってほしいと心から思います。みなさま頑張ってください。


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