(福岡)

弁護士費用の敗訴者負担制度導入に反対する声明

 

  司法制度改革審議会は、本年1120日の中間報告において、弁護士費用の敗訴者負担制度を基本的に導入することで一致し、その上で例外扱いを認めるべき、訴訟類型、負担させるべき弁護士費用の定め方について引き続き検討することとした。

  しかしながら、弁護士費用を原則的に敗訴者の負担とすることは、市民の側からの訴訟提起を抑制することになるのは明らかであって、このことは、司法制度改革審議会の目的である「国民の利用しやすい司法の実現」に反する結果となる。なぜなら、多くの訴訟において訴訟の結果は不透明であり必ずしも一義的ではない。訴訟の途中に至っても不透明であり、ましてや訴訟資料が不十分な訴訟提起前では、訴訟結果の予測は極めて困難である。判決の行方は裁判官によって言い渡されるまで分からないのである。このことは一般事件においても言えることであるが、特に裁判官の価値判断に大きく依存する規範的構成要件に関する争いでは顕著である。また、医療過誤事件や製造物責任事件などの現代型訴訟に顕著に見られる証拠の偏在は、裁判結果の不透明性を更に増幅している。このように、「裁判をしなければ分からない」状況に置かれている市民にさらに敗訴者負担のリスクを追わせることは、大半の事件において、市民に訴訟提起を断念させ、泣き寝入りを強いる結果となくことは明らかであり、ひいては国民の裁判を受ける権利を害することになる。

 また、公害環境訴訟、消費者保護に関する訴訟、男女差別撤廃訴訟などのいわゆる「政策形成訴訟」と呼ばれる分野においては、これまでに長い年月、幾多の敗訴判決を重ねた末に、事業者の法的責任を認める判決がいくつか生み出され、その結果製造物責任法や消費者契約法等の法令が制定されたり、法改正がなされたりしてきていることは周知の事実である。すなわち、社会正義の実現を求める市民が生活感覚に基づいて訴訟を提起して始めて、敗訴判決を乗り越えつつ勝訴判決を得て、諸般の制度の改善をもたらしてきたのである。弁護士費用敗訴者負担の制度のもとでは、このような訴訟の提起は極めて困難になり、裁判を通じて政策を形成する機能は失われてしまう。このように弁護士費用を原則的に敗訴者負担とする制度が導入されるなら、国民の司法に対する期待は大きく損なわれ、国民の権利保護のための諸制度の改善も望めなくなるのは必至である。

 国民に広く利用されてこと、裁判所に対する信頼が生まれる。そのために裁判所は広く国民に門戸を開いていなければならない。司法制度改革審議会の基本理念もそこにあるはずである。

 よって当会は、真に国民が利用しやすい司法の実現を目指す立場から、弁護士費用の一般的な敗訴者負担制度の導入に反対するものである。

  平成1212月6日

   福岡県弁護士会

    会長 春山九州男