大青司会発第 5 号
2003年 4月15日
司法制度改革推進本部
本部長 小 泉 純一郎 殿
大阪青年司法書士会
会 長 前 川 一 彦
訴訟代理人報酬の敗訴者負担制度導入に反対する意見書
大阪青年司法書士会は、訴訟代理人報酬を敗訴者の負担とする一般的な敗訴者負担制度の導入に強く反対する。
理 由
我々司法書士は、本年4月1日に施行された改正司法書士法により、簡易裁判所において訴訟代理権を付与されるに至っているが、司法書士は、弁護士強制主義を採用せず本人訴訟を原則とする我が国において、永年に渡り、裁判所に提出する書類の作成を通じて本人訴訟を支援し、もって本人の裁判を受ける権利を実効性のあるものとしてきた。この本人訴訟を支援する姿勢は、我々にとっては、簡易裁判所に限定されることなくあらゆる裁判所を通じて普遍的なものであり、訴訟代理権が付与されるに至った現在も、また今後も変わることは一切ない。そして、その永年に渡る実績が認められ、より一層、市民の裁判を受ける権利を実効あらしめるために、訴訟代理権が司法書士に付託されたのである。従って、我々司法書士は、市民の司法アクセスの向上を推進し、また市民の裁判を受ける権利をさらに実効性のあるものにするという義務をも負うものである。
以上のような立場から、我々司法書士は、訴訟には必ず弁護士が必要であるとの認識を前提とした司法アクセス検討会での敗訴者負担制度導入の議論については決して看過できず、本人訴訟を原則とする我が国においては弁護士が関与しない訴訟形態があること及びその場合の敗訴者負担を導入しない訴訟の範囲及びその取扱いの在り方などをも強く念頭においた上での議論が必要不可欠であることを主張するものであり、訴訟代理人報酬を敗訴者の負担とする一般的な敗訴者負担制度の導入には強く反対するものである。
1.政策形成型、判例形成型訴訟への萎縮効果が著しい。
公害、医療、消費者、過労死など政策形成型、判例形成型訴訟を提起するのが困難になり、社会的弱者、あるいは市民の権利保護のための法創造や問題提起ができなくなる。例えば、高度成長期において、公害事件が多発したが、この時期には国や企業の責任を問うための法理論や規制がなく、被害者側は泣き寝入りを余儀なくされてきた。しかし、長い年月をかけ、幾多の敗訴判決を通じて被害者救済の判例理論等が成熟し、ついに勝訴判決を得られるようになってきた。また、提訴や判決が報道されることにより、世間に問題を提起し、結果としては敗訴しても、世論の後押しによって被害者保護立法や環境立法、環境基準の設定がなされる、などの成果を生んできた。このように、提訴の段階では勝訴が非常に困難と思われる事案であっても、提訴によって新たな政策を実現・形成していく必要のある事件類型がある。ところが、敗訴者負担制度が導入されるならば、相手方の訴訟代理人報酬まで払わされることが予想されるため、このような類型における訴訟提起がほとんど不可能になってしまう。このような制度が導入されれば、数十年後の我が国は、弱者を切り捨てる国になってしまう。
2.一般事件でも萎縮効果を生じる
我々司法書士が、簡裁代理権取得を契機として、これまで以上に「街の法律家」として市民の受け皿になることが増加するであろうと思われる一般民事事件(家屋明渡、貸金請求、敷金返還請求等)においても、双方に言い分があるという場合が多く、また、例えば賃貸借契約の解除における正当事由や労働事件での解雇権の判断、不法行為の過失の認定や損害の算定などのように、裁判官による法的評価に幅があること、あるいは証拠の偏在などから訴訟提起時に勝訴の見通しが立たない場合が少なくない。このような場合に、敗訴者負担制度が導入されたならば、一般市民は訴訟提起を躊躇し、市民の「裁判を受ける権利」が保障されないことになる。
3.経済力のあるものしか訴訟を利用できなくなる
資金力の豊富な社会的・経済的強者にとっては、相手方の訴訟代理人報酬の支払は容易であるから、敗訴者負担制度の導入は、訴訟提起に歯止めをかけることはない。しかし、資金力のない社会的・経済的弱者は、相手方の訴訟代理人報酬までもを負担しなければならないリスクを憂慮し、訴訟提起を躊躇することになる。敗訴者負担制度は、弱者に対しては訴訟アクセスを促進するどころか断念させ、憲法が保障する「裁判を受ける権利」を侵害することになりかねない。
4.訴訟救助・法律扶助等の環境の整備不完全
イギリス、ドイツでは弁護士費用は敗訴者が負担する制度を採用している。しかし、これらの国では訴訟救助や法律扶助、訴訟保険の制度が我が国に比べれば格段に普及し、消費者団体が訴訟を提起できる団体訴権制度の充実など、市民からの訴訟アクセスを抑制しないようにする制度的配慮がなされている。これらの制度基盤が脆弱な我が国において、現段階での一般的導入は早計にすぎる。
以 上