司法制度改革審議会委員 各位
異議あり!弁護士報酬敗訴者負担制度導入
平成13年1月26日
ダンシング被害兵庫県弁護団一同
私達は、平成11年5月ころ、兵庫県姫路市に本社がある寝具販売店「潟_ンシング」の寝具モニター商法により発生した集団クレジット被害事件に取り組む弁護団です。現在、大手信販会社3社を相手取り、神戸地方裁判所において取立禁止訴訟を提訴し現在も継続中です(原告数328名)。
さて司法制度改革審議会(以下、単に「貴審議会」といいます。)の中間報告によると市民の司法へのアクセスを容易にするために弁護士報酬敗訴者負担制度を導入すべきとのことであります。しかしながら、弁護士報酬敗訴者負担制度の導入は、市民の司法へのアクセスを現状よりも後退せしめることは明白であり、貴審議会の目指す司法像と明らかに矛盾し、ひいては貴審議会の存在意義・価値すら疑わしめる悪制度でありますから、「即刻導入を撤回されたく」モニター商法被害・集団クレジット被害に取り組む弁護団として「異議」を表明いたします。理由の詳細につきましては、既に多くの「異議」が貴審議会によせられており、そこに述べられているものと同旨でございますが、別紙の理由だけ述べさせていただきたいと思います。
神戸市中央区東川崎町1−3−3神戸ハーバーランドセンタービル10階 神戸合同法律事務所内
電話078−371−0171 FAX078−371−0175
ダンシング被害兵庫県弁護団
団 長 弁護士 小林 廣夫
事務局 弁護士 辰巳 裕規
理 由
@ どっちにしてもとりあえず「着手金・訴訟費用」は自己負担であることに変わり有りません。
いきなりお金の話となりますが、ダンシング被害兵庫県弁護団では、各原告に対し、1件3万円ないし5万円(実費込み)という、弁護士会報酬基準に比し極めて低廉な着手金にて事件を受任しております。その理由は、モニター商法に加担した信販会社の加盟店管理責任懈怠を追求するという社会的正義の実現のために多くの弁護士が採算を度外視して事件を受任したためです(消費者事件・公害事件・薬害事件等社会的意義ある訴訟のほとんどは、社会的正義の実現という弁護士の職責に忠実な弁護士が採算度外視・手弁当で訴訟を行ってきました。)。しかしながら、極めて低廉にした着手金であっても一般消費者においては少なからず抵抗感を感ずる金額であり、着手金の負担にとまどいを感じ、また、訴訟の結果が見えにくいことから、当弁護団への依頼を見送られ、未だに信販会社に対するクレジット代金を支払い続けている被害者も少なからずおります。貴審議会がまとめられた中間報告書によりますと司法へのアクセス拡充のために弁護士費用の敗訴者負担制度の導入が必要である旨の報告がなされております。しかしながら、市民の司法へのアクセスを妨げているものは、その前提として訴訟を提起する際に求められる「出費」そのものです。このことは、仮に弁護士費用敗訴者負担制度が導入されたとしても、訴訟提起時の「出費」が免れない以上、何ら司法へのアクセスを容易にするものではありません。司法へのアクセスを容易にするためには、訴訟提起時の「出費」に対する公的扶助制度の拡充・訴訟救助制度の活性化こそ必要であります。まして、訴訟提起時の「出費」すら負担と感ずる市民が、もし敗訴になった場合には相手方の弁護士費用をも負担しなければならないとなれば、ますます司法の利用を躊躇することは自明なことであり、かかる結論を想定できない方が貴審議会の委員の中に万が一にもおられるならば、その方の想像力の欠如を感じざるを得ません。しかも、おそらくダンシング被害訴訟における被告ら信販会社代理人弁護士が収受するであろう着手金・報酬は、弁護士報酬基準にかなう「正規」の金額であろうと容易に想像され、かかる費用を社会正義を求めて訴えた一般市民に負担せしめることは、市民の司法へのアクセスを躊躇せしめるものにすぎず、ひいては司法の役割の低下をもたらすことは自明です。弁護士費用敗訴者負担制度は市民の司法へのアクセスを萎縮せしめるものです。
A「勝つべきものが負けている」ー正義が勝つ訳ではないー
敗訴者に当該訴訟の経済的負担を負わせるという「思想」の背景には、「敗訴者」は「勝訴者」に対し不正義な者であったとの価値判断があると思われます。しかしながら、我が国の裁判制度のもとでは、社会的・市民的正義を有する者が常に「勝訴」する保証はありません。その根拠としては、市民感覚と乖離したキャリア裁判官制度等の問題点もありますが、ここでは我が国の民事訴訟制度下における貧弱な証拠開示制度の問題を指摘したいと思います。我々弁護団では、信販会社こそモニター商法を展開した悪質加盟店への加担者であると考え、その責任追及を求める訴訟を行っておりますが、信販会社は、一様にモニター商法を行っていることは「知らなかった」旨の答弁を行い、自分こそが被害者であるかのような主張を行っております。しかし、訴訟提起後、徐々にではありますが、ダンシング関係者の供述・刑事事件の進行により信販会社がダンシングのモニター商法の存在を知りながらも加盟店契約を継続していたことが分かってきております。もっとも信販会社とダンシングとの加盟店契約の経緯についての資料は専ら信販会社のもとにあり、新民事訴訟法制定後にもかかわらず信販会社は加盟店との関係に関する書類については内部文書であり開示の必要はないと証拠開示を拒んでおります。一般に、我が国社会の証拠隠蔽体質と貧弱な証拠開示制度のもとでは、行政・企業・医師等のもとに証拠が偏在し、これを一般市民が入手することは困難な状況にあります。かかる証拠の偏在を是正せずに訴訟が進行し、立証なきが故に一般市民が敗訴したとしても、社会的正義・公平の観点からは「敗訴者」を責めることはできません。社会的正義を有するものが常に「勝訴者」となる訳ではなく、むしろ司法改革の世論が高まってきた背景には社会的正義が司法を通じて実現していないことという司法の現実に対する国民の強い憤りにあることに鑑みれば「敗訴者」にこそ社会的正義があると言っても過言ではありません。かかる訴訟の実態に思いを馳せない「敗訴者負担制度」には到底賛成できません。
B「敗訴」判決の法創造的意義ー敗訴の積み重ねの上に勝利があるー
我々弁護団は、信販会社の理不尽な立替金の取立行為に対抗すべく、割賦販売法30条の4に基づく抗弁対抗規定を基礎に、取立禁止訴訟という法的構成を採用し訴訟提起しています。もっとも、割賦販売法30条の4は専ら抗弁規定であり取立禁止の訴を起こすことはできないという下級審判例もあります。しかしかかる判例によれば日々の信販会社の架電・訪問による裁判外の取立行為を一般市民がくい止める手段はなく割賦販売法30条の4は絵に描いた餅となってしまいます。そこで我々は割賦販売法30条の4に基づく取立禁止命令を獲得すべく訴訟に「挑戦」しております。また、モニター商法被害はここ数年の間に頻発しはじめた新しい悪質商法であり、我々弁護団の取り組みも試行錯誤を繰り返しながらの新たな消費者被害分野への「挑戦」です。これまで、こうした「挑戦」は数多くの敗訴判決を生みながらも新たな裁判例を築き、また、国民的運動、立法的解決をもたらし社会の発展に寄与してきました。司法の活性化を目指す貴審議会ならばかかる先駆的な訴訟の意義は十二分に御認識いただいていると思います。我が弁護団が取り組むモニター商法被害につきましても訴訟の帰趨はともかく、昨年末には、内職・モニター商法を規制する訪問販売法・割賦販売法の改正につながりました。全国各地のモニター商法被害弁護団が訴訟を提起し続けたことを受けた立法です。司法への問題提起は、「勝訴」「敗訴」といった単なる「裁判の結論」とは別に立法等により新たな社会的秩序を創造する契機となるという大きな機能があります。弁護士費用敗訴者負担は、司法を通じての法創造活動を損なわしめるものであり、貴審議会の目指すところの「国民のための司法」と明らかに相反します。
C例外規定では、消費者訴訟は適用除外できない
クレジット被害事件は、当弁護団の行う取立禁止訴訟の外、ココ山岡事件における既払金返還請求訴訟(和解により勝訴的解決)、全国各地で多発し続ける名義借用事件における信販会社からの立替金請求訴訟、損害賠償請求訴訟の様に形態は様々です。また、必ずしも集団的被害として顕れるだけでなく、個々の消費者が個別に企業と紛争になり、消費者事件としての社会的意義を有しながら、見かけ上は一般的な取立訴訟として遂行され終結する事件も少なくないはずです。貴審議会は、企業に対しては企業内弁護士を幅広く認める途を開きながら(武富士・アコムの従業員弁護士が近い将来現れるのでしょうか。)、他方で法的防御力の遙かに劣る一般市民に、かような営利目的の企業内弁護士費用を押しつけようとしております。貴審議会は、これまでの他の各種審議会のような国民不在・業界団体の利益調整の場であってはならず、司法という崇高かつ清廉なシステムを論ずる場であると信じております。企業と一市民が対峙する一般的民事事件の中には必ず、消費者事件としての側面が存し、社会的意義が存することに思いを馳せてください。
D実現すべきは「片面的敗訴者負担」「懲罰的慰謝料」ーこっちの方が国民は喜ぶ!ー
最後になりますが、貴審議会は一般市民が法的紛争に直面した際に司法による法に基づく解決を選択することを今以上に発展せしめることを目指しているはずです。司法へのアクセス疎外が、市民の泣き寝入りやアウトローによる解決をもたらし、ひいては社会の閉塞状況を招いているとの認識であるはずです。21世紀の我が国に必要なことは行政・企業の証拠隠蔽体質を打破し、ルールに対し健全・公正なる企業が自由競争市場において、ルールを守らない企業を駆逐する成熟した自由競争社会を実現するために、悪質な行為を行った行政・企業等に対しては、個々の被害者に対してもたらした被害を弁償する責任だけでなく、公正な社会秩序を害した責任を「慰謝」し健全なる市場から不正行為を駆逐すべく「懲罰的賠償」を負わしめることが必要です。行政による事前規制型社会から司法による事後救済型社会へ転換する中で違法企業と真っ先に相対峙するのは一般市民です。一般市民が容易に司法にアクセスし、司法の場を通じて自らの紛争を解決するとともに違法企業を駆逐する社会を貴審議会は意図しているはずです。市民が利用しやすい司法を求めるならば、原則として弁護士費用当事者双方負担制度を維持しつつ、対行政、対企業等の「例外的」な訴訟において(企業等は弁護士費用・訴訟費用を「経費」として税務処理が可能です。)、懲罰的慰謝料制度・片面的弁護士費用負担制度の導入を目指すことこそ貴審議会の目指すところと信じてやみません。
E裁判やったことありますか?
なお、貴審議会委員においては、「個人的負担」のもとに「訴訟沙汰」を行ったことがある方はどれほどおられるのでしょうか。訴訟の実際をよくわからないで賛成されておられる方がいるように見受けられます。御自身が離婚訴訟を提起する(される)場合を例に今一度自らの問題として想像してください。
以上の理由に加え、既に全国各地各方面より弁護士費用敗訴者負担制度に対しては反対を表明する意見が寄せられていると思います。賢明なる貴審議会においては、弁護士費用敗訴者負担制度の導入については早々に撤回されたいと思います。
以 上