2001年1月 日
司法制度改革審議会 御中
ダンシング被害姫路弁護団
団 長 弁護士 山 崎 省 吾
事務局長 弁護士 平 田 元 秀
事務局次長弁護士 中 野 二 郎
当弁護団は、寝具のモニター商法をマルチ商法のノウハウで全国展開して破綻したダンシングの消費者被害に対処するため、1999年5月に結成された弁護団です。
同年には当弁護団の取り組むダンシング被害事件や着物の愛染苑山久被害事件を始め、各種の「クレジット会社の販売与信を元手として、商品購入者への利益提供約束を繰り延べる」方法による悪徳モニター商法の横行が顕著になり、紛議も飛躍的に増大したため、被害の救済と再発防止を求める各所各人の活動の中で、産業構造審議会消費経済部会個人ビジネス勧誘取引小委員会、割賦販売審議会クレジット産業部会における審議を経て、かかるモニター商法を「業務提供誘引販売取引(個人契約)」と定義付けし、規制の網を被せる訪問販売法及び割賦販売法の改正が行われたところです(2000年11月可決成立)。
当弁護団は、現に担っている消費者契約紛議を解決するための実践的経験と責務から、貴審議会の「中間報告」のうち、4(1)ウの項に掲げられている「弁護士報酬の敗訴者負担制度」について、意見を述べうる立場にあると考え、別紙意見書をまとめたので、送付します。
審議会最終意見に至る過程で、右意見が生かされること、すなわち、「弁護士報酬の敗訴者負担制度を基本的に導入する」ことの実際的役割が、消費者法という広範な領域での民事紛争において、消費者側に致命的な訴訟提起または応訴追行の萎縮効果を生み出し、結局は、消費者が真に自立した取引主体となることを妨げる全く有害なものでしかない、という冷厳な事実を正当に認識されることを強く求めます。
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ダンシング被害姫路弁護団 事務局長 弁護士 平 田 元 秀
2001年1月 日
司法改革審議会「中間報告」における
「弁護士報酬の敗訴者負担制度」に対する意見書
ダンシング被害姫路弁護団
第1.ダンシング・モニター商法事件の概要と被害実態
貴審議会に表記意見を申し述べる前提として、当弁護団の取り組んでいる、悪質販売業者によるクレジット契約被害事件の一例であるダンシング・モニター商法事件の、具体的な概要と被害実態を明らかにしておく必要がある。
1.ダンシング・モニター商法事件の概要
(1)ダンシング・モニター商法事件
潟_ンシングの場合、それまで休眠会社であったものを、商号変更等を経て、1997年2月12日に本店を姫路市に移転させ、同年8月から、その寝具セット「テルマール」(現金価格Sサイズ378,000円、Wサイズ483,000円)を購入してモニター会員になれば、毎月500部程度のチラシ配りと簡単なレポートを提出するだけで、35,000円が24回に渡り受け取れるという約束で寝具セットを販売する、いわゆる「モニター商法」を開始している。
同社は、翌1998年2月に入ると、会員を獲得することによって多額の紹介手数料を受け取ることのできる「ビジネス会員制度」を導入したが、飛躍的に会員数(寝具販売数)を増大させていったのは、この制度導入後である。同社は、1999年2月になってモニター会員制度を廃止し、同種の「テルメイト会員」制度を開始したり、「いちご倶楽部」と称して無限連鎖講を企画したりしたが、同年6月30日に破産宣告を受けるに至った。この時点で、潟_ンシングのモニター会員累計は14,272人、ビジネス会員累計は2,137名(テルメイト会員累計は474人)に達していた。
ダンシングの被害は、同社の本店閉鎖(1999年5月20日)と、引き続く破産宣告申立(同年5月31日)によって顕在化し、その後、全国各地の消費者行政窓口や弁護士会を通じて被害対策弁護団が結成されて、被害回復の受け皿を形成していった。
(2)各地弁護団の状況
現在、被害対策弁護団の連合体である「ダンシング被害弁護団全国連絡会議」に代表を派遣した弁護団(〔〕内は受任者数)は、仙台〔107〕、東京〔60〕、静岡[55]、滋賀〔159〕、名古屋〔170〕、大阪〔590〕、奈良〔57〕、兵庫〔328〕、姫路〔833〕、岡山〔180〕、広島〔29〕、島根〔19〕、愛媛〔34〕、福岡[245。九州各地の被害者を受任]の14地域に及んでいる。さらに、極めて類似したモニター商法被害事件である「グリーンショップ」被害の弁護団である山口弁護団〔約30〕も代表を派遣している。
このうち、大阪、姫路、兵庫、岡山、広島、滋賀、名古屋、福岡、山口が信販会社3社を相手に訴訟を提起しており〔原告総数約2,400名〕、原告数でココ山岡事件[原告総数約9,000名。2000年7月6日付基本合意書調印と、引き続く同年11月10日付確認書調印により全国的解決をみた。]に次ぐ集団訴訟になっている。また、仙台〔107〕と奈良〔57〕は、調停を申立てている。
(3)刑事事件の状況
兵庫県警生活経済課・捜査2課・姫路署等は合同で2000年6月6日、詐欺と訪問販売法違反(不実告知)の嫌疑で潟_ンシング社長及び旧役員であった社長の長男・次男の3名を逮捕し、その後、神戸地検は同月29日、神戸地裁に同じ罪名で同社社長1名を起訴している。同年7月21日、前掲警察署等は社長ら6人について追書類送検を行い、捜査を終えた。
起訴されたのは、同社社長1名に関する、1999年2月からのテルメイト会員の被害に関する詐欺と訪問販売法違反の罪であり、2001年春頃には一審判決が下るものと予想される。
2.ダンシング・モニター商法事件における被害実態の分析結果
マルチ商法のノウハウを用いてモニター商法が展開されたダンシング被害の場合における被害実態のデータ分析の結果は、次の通りである。
ア モニター被害者総数と地域的分布状況(大量拡散型消費者被害事件性)
ダンシング破産管財人の第1回債権者集会における報告書によれば、平成9年8月ころから平成11年3月までの間に、モニター会員としてダンシングの寝具を購入した者は総計14,272人にのぼっている。また、破産宣告申立書添付債権者一覧表を謄写した結果得られた11,674人のダンシングの申告モニター会員債権者のデータを分析した結果、モニター会員は北は北海道から南は沖縄県まで山梨県を除く46都道府県に広く分布している。いわゆるダンシングの「モニター商法」被害は、まさに大量拡散型消費者被害事件である。
イ 被害の特徴・被害者の属性(被害者の多くは世代をとわず女性であり、極めて短期間の間に、友人知人・親戚から自宅で勧められ、信販会社のローンを組んでシングルサイズの布団のモニター会員になっている。)
潟_ンシング被害姫路弁護団(以下「姫路弁護団」)がモニター被害者と受任契約を締結するに際し、調査のため徴求した被害者台帳(合計830通)のデータを分析した結果によれば、姫路弁護団委任者の契約月別分布は、平成10年12月契約者をピークに、平成10年7月から平成11年2月の間(8ヶ月間)に分布している。
委任者の総数及び地域分布を、兵庫県内集計表と対比すると、神戸地方裁判所姫路支部・龍野支部・社支部管内の被害者総数1,530人中827名(54%)が姫路弁護団に被害届を行い、民事、破産及び刑事の各手続の事件処理を依頼したことが分かる。
そこで、委任者らから徴求した被害者台帳記載のデータを分析した結果は、今般の大量拡散型被害事件の特徴をほぼ正確に反映しているものと思われる。
(ア)被害者を勧誘したのはどのような者か。
委任者830名のうち、友人又は知人から勧誘を受けたと申告した者が605名(73%)、親族から勧誘を受けたと申告した者が126名(15%)であり、合計731名(88%)のものが友人知人又は親族から勧誘を受けてモニター会員となったことが分かる。
(イ)契約を行った場所はどこか。
また、契約を行った場所についても、ダンシングの本店又は営業所以外の場所で契約を行った者が730名(88%)を占め、そのうち紹介者又は被害者の自宅で契約を行った者も479名に及んでいる。
(ウ)寝具のシングルサイズとダブルサイズ購入者の比率
委任者830名のうちSサイズを購入した者は715名(86%)、Wサイズを購入した者は115名(14%)である。
(エ)寝具代金支払方法
この点のデータは、弁護団の受任対象者との兼ね合いがあるが、830名全員が信販会社又はカード会社のクレジットを組んで商品を購入している。このうち、信販会社のクレジット(個品割賦)を利用した者が821名であり、残りがカードクレジットを利用した者である。
(オ)被害者の年齢構成
委任者の年齢構成を見ると、世代に関係なく、均等に分布していることが特徴である。平成11年現在、
65歳から72歳に位置する昭和1桁世代が47人(6%)、
55歳から64歳に位置する昭和10年世代が166人(20%)、
45歳から54歳に位置する昭和20年世代が198人(24%)、
35歳から44歳に位置する昭和30年世代が191人(23%)、
25歳から34歳に位置する昭和40年世代が182名(22%)、
21歳から24歳に位置する昭和50年世代が44人(5%)、
その他不明が2名
となっている。
(カ)被害者の性別
委任者の性別は女性が圧倒的多数である。委任者830人中704名(85%)が女性、残り126名が男性である。
(キ)被害の特徴・被害者の属性小括
右データ分析結果からは、被害者の圧倒的多数は女性であり、世代には関係がないこと、被害者のほとんどは、友人知人又は親類縁者から勧められ、多くの者が、極めて短期間の間に、被害者の自宅かまたは勧める者の自宅で、信販会社のローンを組んでシングルサイズの布団のモニター会員となる契約をしていることが分かる。
3.ダンシング・モニター商法事件の消費者訴訟としての位置
司法改革との関連では、次の特徴を指摘することができる。
(1)事実上の日本型クラスアクションであること。
弁護団がその任務の一つとして取り組んでいる民事訴訟は、信販各社を相手として悪質販売店に対する加盟店管理責任を追求する集団訴訟であって、その原告数における規模(約2,400名)は、戦後最大であったココ山岡被害救済訴訟(約9,000名)に次ぐものである。
(2)クレジットシステムを市場自律的に改善するための運動と位置づけて取り組まれていること。
悪質販売店によるクレジット被害が、頻繁に改正される行政取締法規の網を次々にくぐり抜けて再発を繰り返すのは、クレジットシステムの管理者であるクレジット会社が、個々の加盟店に対して慎重な調査監督を行うことに多くの時間と費用をかけるよりも、形式的なチェックだけで加盟店数をどんどん拡大して莫大な利益を上げ、不正行為をする加盟店が現われたときには利益でその損失をカバーしていく方が利潤が大きいと判断して、これを実践しているからに外ならない。
クレジット会社は、いざ悪質販売店の行為を原因とする紛議が発生しても、抗弁を対抗する購入者は所詮圧倒的少数であり、一方かかる少数者には折り込み済みの法務部予算で対抗しつつ、他方圧倒的多数を占める被害者からさっさと回収を図って、全体として悪徳商法からも利益をあげるのである。
姫路弁護団は、このような構造にメスを入れるべく、自覚的に、多数の被害者を組織すること及び民事訴訟においては民事規範の定立のため判決を求めることを、柱として運動を進めてきた。
このようにして、弁護団の運動は、クレジットシステムを市場自律的に改善するための運動としても自覚的に取り組まれているものである。
第2.「弁護士報酬の敗訴者負担制度」についての意見
1.意見の要旨
「中間報告」が提案する弁護士報酬の敗訴者負担制度は、消費者法という広範な領域での民事紛争において、消費者側に訴訟提起または応訴追行の萎縮効果を生み出し、その結果、各種の消費者被害対策弁護団等が関与して行われてきた消費者運動そのものに致命的な萎縮効果を与える制度である。
そもそも、「中間報告」のいう「弁護士報酬敗訴者負担制度」は、基本的に、経済的な理由で事件を依頼できない者を救済する効果をなんら有しないだけでなく、一般に、既製の法秩序で優位に立つ既得権者に片面的に有利になる本質を持っている。「当事者に訴訟を利用しやすくするため」という理由付けはその結果の重大性に照らし余りに根拠薄弱であって、訴訟抑制をねらった「ごまかし」であるとの批判を免れない。
また、「中間報告」のいうように、不当な訴訟抑制とならぬよう、訴額や訴訟類型などによって適切な例外を設定することは所詮無理なのであって、「弁護士報酬敗訴者負担制度」は、消費者契約法をはじめ、消費者法分野の紛争を包括的な民事ルールにより、一層、司法的にあるいは市場自律的に解決する手段を確立しようとする近時の立法政策に抵触し、改革を後退させるものにならざるを得ない。
これらの理由から、当弁護団は、弁護士報酬の敗訴者負担制度の導入には明確に反対する。
2.理由
(1)消費者被害に取り組む弁護団が、弁護団への委任を決定的に萎縮させることになる弁護士報酬敗訴者負担制度に反対するのは、当然である。
仮にダンシング・モニター商法の被害が顕在化した時点で、「弁護士報酬の敗訴者負担制度」が法制化されており、かつ、本件被害の救済のための訴訟にも適用がありえた場合、現在の被害救済と再発防止のための運動は、立ち上げることが不可能または著しく困難になっていただろう。それが貴審議会の本意とするものではないことはいうまでもない。
このことを理解するためには、次のような。本件被害の救済のための活動の実情を通じ、我が国に具体的に存在する消費者被害救済のための運動や仕組みの実情を知る必要がある。
ア 2000年6月20日の説明会参加者の調査票による意向聴取結果
〜弁護団が激励しても「泣き寝入り」には歯止めがかけらない現状
「ダンシング被害姫路弁護団」は、兵庫県弁護士会姫路支部の弁護士有志7名で立ち上げられた。ダンシングの商法の問題性は、1999年5月に行われた兵庫県生活科学センターでの消費者問題研究会において取り上げられており、同年5月20日のダンシング倒産情報が参加弁護士に伝えられた後、同月25日、極めて迅速に県・市等の消費者センターとの対策協議がもたれ、弁護団結成のきっかけとなった。
弁護団は、消費者センターや関係各所から収集した情報をもとに、ダンシングのモニター商法を、最初からいずれ破綻することを分かっていながら行った詐欺商法であると捉え、直ちに広範に存在することが予想された商法被害者に対する「説明会」(事情調査会)を開催した。
同年6月20日に開催した被害者説明会には、約400名が参加し、360通の調査票を回収した。
この時点で、弁護団は、説明会参加者に対し、今般の「被害」の捉え方に関し、ダンシングのモニター商法を、最初からいずれ破綻することを分かっていながら行った詐欺商法であるとの見方を明らかにするとともに、今般ダンシングが行ったモニター会員契約と一体の布団販売は、取引上の公序に違反して無効であり、また、詐欺として取消が可能なものであるとの見方、従って、本件の被害は、経済的には、「代金等の負担総額」から「モニター料等の受取総額」を差し引いた残額が上限と考えている旨を明らかにした。
信販会社に対する支払停止の抗弁が裁判で通るのか、の疑問に対し、弁護団は、正確な事実関係の調査前の現時点で、確定的なことは言えない旨明示した上で、広範な被害者が、本件事件に怒りを感じ、正当な方法で自らの被害の救済のため積極的に行動するなら、信販会社に対する支払停止の抗弁は認められる可能性が十分にあるということができることなどを説明した。
当日説明会後に回収した調査票360通を分析した結果、「弁護士に着手金を支払って事件処理を依頼する用意があるか」の質問項目に対し、「はい」と回答したものは258名、「分からない」または空欄であったものが、98名、「いいえ」と回答したものが4名であり、わざわざ説明会に足を運んだ被害者の、実に28%もの者が、この時点で、泣き寝入りをする可能性を滲ませていたのである。
イ 「弁護士報酬敗訴者負担制度」が、消費者被害の泣き寝入り結果を生み出すことは、火を見るよりも明らかである。
ダンシング・モニター商法被害の場合、1人1人の経済的被害の実際は、10万円〜40万円程度であり、その多くは30万円前後の被害である。このような被害に対し、姫路弁護団は、着手金を、経済的被害の金額に応じ2万円〜4万円と、基準よりも相当程度低額に設定するとともに、報酬についても、クレジット代金の免責を受けられた金額の10%以内の金額を設定した。
それでも、合計被害金額30万円の例をとると、紛議が消費者側の完勝で終結した場合であっても、7万円程度の弁護士費用は負担しなければならない。経済的負担に加え、被害者には、少なくとも、裁判傍聴や陳述書作成等、訴訟を原告として遂行する上で当然行うべき事実上の時間と労力の負担が加わる。
もし仮に、かかる被害者らに対し、「もし敗訴した場合には、信販会社の雇う弁護士の報酬も負担しなければならないかもしれない。」と説明し、その覚悟を、受任の条件とした場合、被害者らは、どう判断するであろうか。
例えば、上例の被害者は、4万円の着手金を支払い、さらに裁判傍聴や陳述書作成に協力して費用と時間と労力を負担することを覚悟した上、仮に敗訴した場合にはクレジット代金の残元利金はもちろんであるが、なんと信販会社の雇う弁護士の費用まで負担しなければならないことになる。信販会社は、かかる紛議を予想して、既に相応の法務部予算を経営上織り込んでいるというのに、である。
集団訴訟において、弁護団が受任手続を行う段階では、弁護団として、決して確定的な訴訟結果等の見通しを述べることはしない。弁護団は、法律家の団体であって、正確かつ確実な資料に基づく情報を収集するまで裁判結果の概括的な見通しをも立てることが現にできないし、また、モニター商法のように、各種消費者保護法に規定もなく、直ちに適用することのできる判例も存在しない場合に、勝訴の高度の蓋然性等を口にすべきものでもないし、何よりも、弁護団は、営利を微塵も目的とせず、被害者の正当な怒りを正しく組織して事件解決の力の源泉を引きだそうと行動するものだからである。
当弁護団の委任者らは、勝てるという確実な見通しを告知されないまま、仮に負ければ「数年後のクレジット残元利金」を負担することを承知で、しかし、身に起こった事態が不正義である、消費者被害であると感じるがゆえに、弁護団に委任するのである。そこで行われる判断には、経済的要素だけでなく、正義の要素がある。
この場合、第1に、負ければ相手方弁護士報酬を負担しなければならないとのルール設定は、到底、被害者らに承服しうるものではない。先方は、かかる法務損失をシステム管理者として経営上織り込んでいる。しかるに消費者にとっては予想もできない全くの偶発的事態である。権利保護保険が強制加入の国民保険にでもなればともかく、かかるドリームを描くが如き方向性は示されていない。現時点では、弁護士費用(「報酬」ではない)は、「消費者訴訟・敗訴事業者負担主義」が正しい選択であるはずである。
第2に、いうまでもなく、経済的には勝つ蓋然性が告知されないのに、負ければ相手方弁護士報酬も支払わねばならないというルールは、確実に弁護士への委任を抑制する。本件訴訟では、上例30万円の被害者であれば、「手付損倍返し」ならぬ、「勝訴7万の損、敗訴14万の損」を想起させるのであって、そうであれば「取引せず」ならぬ「泣き寝入り」を選択するのが落ちである。勝っても「着手金4万円と時間と労力の負担」したことの対価は返戻されず、かえって、何もしなければ「クレジット残元金一括払」で問題は解決されることになる。
そもそも、クレジット会社は、悪徳商法・詐欺商法をめぐるトラブル案件で支払を停止した購入者に対し、現在でも、一斉電話掛けなどにより、「裁判に掛ける」等と威嚇して、次々に切り崩し、この種の被害がクラス・アクション化してゆくのを阻む組織的活動を展開しているのである。もし、敗訴者負担ルールが導入されれば、クレジット会社は、「裁判に掛ける。その場合、クレジット会社の弁護士報酬もあなたが負担しなければならなくなる。」と威嚇することができ、ますます容易に、泣き寝入り結果を勝ち取ることができるようになる。
「水は上から下に流れる」のであって、上記のような状況の元手は、被害者の圧倒的多数が、被害に正当な怒りを感じつつも、また、弁護団の懸命な激励にもかかわらず、委任を選択しないで泣き寝入りの選択をしたことは、火を見るよりも明らかである。
この場合、例えば本件事件では、モニター会員は、それを紹介したビジネス会員に被害の填補を要求し、そのビジネス会員は自分に当該ビジネスを紹介した上位のビジネス会員に被害の填補を要求して、深刻な人間不信と殺伐とした地域・職場の環境を醸成したのち、「もうけに走った人間が損をしたお話」という一時の三面記事的な事件として幕を閉じる結果となったであろう。
ウ 集団的処理を要する消費者被害が発生した場合に受け皿である弁護団に被害者が委任しなければ、実際上被害回復の途はない。
仮に、ダンシング・モニター商法事件において、姫路弁護団の行った受任手続会(1999年7月〜8月に実施)が、圧倒的被害者の泣き寝入りという結果に終わった場合、姫路弁護団・大阪弁護団・兵庫県弁護団などが立ち上げの段階で行った活動は、今日の精力的なものにはなり得なかった。その結果、全国各地の消費者センターへ相談が殺到することも、相次ぐ各地の弁護団の結成もなく、引き続く各種モニター商法事件に対する対応も遅れ、民事訴訟も未だ提訴されておらず、刑事立件すらなされず、その結果、信販会社は、ほとんどの被害者からクレジット代金を回収し終わってその利益に満足し、さらに、2000年11月という極めて早い段階でのこの種商法を規制する法律の制定もなかったものと想定できる。
もっとも、兵庫県にも他県と同じように、消費者被害の紛議調停に関する条例が存在するが、審査会は、弁護団が立ち上がっていることを理由にダンシング・モニター商法事件を調停に付さない(知事の付調停が要件とされている)こととしたし(1999年10月)、実際上、調停に付すべき場合が生じるのは、弁護団がその方針を選択した場合であろう。こうして、ADR的機関が機能を発揮するか否かもまた、弁護団に被害者の声が届くか否かに実際上は依存している。
このようにして、集団的処理を要する消費者被害が発生した場合に、受け皿である弁護団に被害者が委任しなければ、法治国家としてまともな、被害回復の途は、実際上は、閉ざされるのである。
この委任・受任関係を形成するについて、現状において「弁護士報酬敗訴者負担制度」を導入することは、被害回復の途を、立ち上げ段階の、運動が産声を上げようとするもっとも重要でかつ危険な段階で、法律によって安易に閉ざす結果を、一片の疑いもなく、招来することになる。これでは、現に頻発するはずの、「次の」消費者被害について、担い手である、私たちが直面する困難は、致命的なものとなる。
消費者被害に取り組む弁護団が「中間報告」の「弁護士報酬敗訴者負担制度」に反対するのは、当然のことである。
(2)「中間報告」のいう「弁護士費用敗訴者負担制度」は、基本的に、経済的な理由で事件を依頼できない者を救済する効果をなんら有しないだけでなく、一般に、既製の法秩序で優位に立つ既得権者に片面的に有利になる本質を持っている。
ア 「中間報告」は、弁護士報酬の敗訴者負担制度について、これは「弁護士報酬の高さから訴訟に踏み切れなかった当事者に訴訟を利用しやすくするものであることなどから、基本的に導入する方向で考えるべきである」と述べているが、着手金と異なり、現に勝訴した場合にそこで得られた経済的利益から支払う弁護士報酬は、そこに経済的利益を得られた現実の結果がある以上、依頼者の十分な納得に一定の感謝の気持ちすら添えて、支払われることが多いものである。
敗訴した場合に、勝訴した相手方の弁護士報酬の支払いを敗訴側弁護士が依頼者に指導するという場面、これこそ、最も納得が得がたい場面であろうことは、実務家であれば、余りにも明らかである。
イ そもそも、経済的な理由で依頼しない相談者は、現在、仮に勝訴した場合にその報酬が高いから依頼しないのではなく、当初に用意すべき着手金が用意できないから当面依頼できないのである。
そして、当初用意すべき着手金が用意できる依頼者でも、もし負ければ相手方の弁護士報酬も負担することになるのであれば、敗訴の可能性が存在すると告げられた場合に、訴訟委任を含む弁護士利用を控えるようになることは確実である(弁護士利用抑制効果)。
ところが逆に、もし勝てば自らの弁護士費用(着手金及び報酬を含む)の一部をも相手方に請求できることになれば、勝訴の可能性が高いと告げられた場合に訴訟委任を促進する結果をもたらすかといえば、そうでもない。
@ まず、当初用意すべき着手金が用意できない場合、やはり依頼できない。
A 次に、いうまでもなく、勝訴または敗訴に、弁護士報酬分の利得または損失を掛け合わせる制度を導入すれば、一般に、現在の法秩序において優位に立つ既得権者(当面の強者)に対する弁護士利用を促進し、当面の弱者に対する弁護士利用を阻害する結果を生み出すことになる。
B さらに、また、わが国の国民が、訴訟や弁護士利用を賭け事のように考えているという実情は全く存在しないから、勝訴または敗訴に、弁護士報酬分の利得または損失を掛け合わせても既得権者にとっても、必ずしも訴訟を促進することにはならないと思われる。
ウ このようにして、「弁護士報酬敗訴者負担制度」は、基本的に、経済的な理由で事件を依頼できない者を救済する効果をなんら有しないだけでなく、一般に、既製の法秩序(実定法・判例・条理)上優位に立つ既得権者に片面的に有利になる本質を持っている。
「中間報告」の立論は、基本的に誤っている。
エ 付言すれば、大体、弁護士報酬の性質は、委任契約の対価であって、委任契約の対価は委任者が支払うのが原則である。自らの費用は自らが支弁すべきだからである。不法行為訴訟や濫訴につき弁護士費用の支払いを命じうるのは、民法上、弁護士費用の出費を強いられたこと自体が相手方の違法行為と相当因果関係に立つ損害と認められるからであり、そこには民法論の基礎がある。
今般の「弁護士報酬敗訴者負担制度」は、大きな実定法上の私法原則(市場ルール・民事ルール)を、政策目的のために修正しようというものである以上、そこにいう政策目的は、十分に鍛えられ、民意に支持されたものでなければならない。例えば、消費者契約法では、消費者利益を措定する前に、「事業者と消費者との間の情報の質及び量の格差並びに交渉力の格差」という十分に鍛えられた認識がある。今般の制度提案の基礎には何があるというのだろうか。「弁護士報酬の高さから訴訟に踏み切れなかった当事者に訴訟を利用しやすくする」などというのは、にわか仕込みの「まやかし」でしかない。
(3)「中間報告」のいう、訴訟類型などによる例外設定は不可能である。
「中間報告」は、「労働訴訟、少額訴訟など敗訴者負担制度が不当に訴えの提起を萎縮させるおそれのある一定種類の訴訟は、その例外とすべきである」という方法で「弊害」を避けようというのである。
ア 訴額で例外設定することは無意味・無内容である。
訴額で例外設定を行う場合、確かに、ダンシング・モニター商法事件の場合には、1件毎の被害が、簡易裁判所の現行の事物管轄90万円よりも低額の訴額となるから、定め方により、この例外に該当するのかもしれない。では、1件毎の被害が、150万円〜300万円に及んだココ山岡買戻商法被害の場合はどうであろうか。被害が数百万円に及んでいたワラント証券被害の場合はどうであろうか。被害が数千万円に及ぶことの多い先物取引被害の場合はどうであろうか。
これらの消費者被害が、「中間報告」にいう「少額訴訟の上限額の見直し」等に伴う「少額訴訟」枠の引き上げで対応できるものでないことは明らかである。
これらの消費者被害事例では、確実に、訴訟提起を抑圧することになる。
それが、不当であることは言を待たない。
山のような敗訴判決の後に勝訴の途を勝ち取ってきた先物取引被害、ワラント証券被害を見れば、消費者法領域における民事的救済が問題となる訴訟類型で消費者側の提訴を抑制する結果を招来するが如き制度を導入すべきでないことは明らかである。
イ 消費者法領域における民事的救済が問題となる紛争はあらゆる財産法分野にわたっており、例外設定は不可能である。
消費者契約法が施行される2001年4月を目前に控え、現在「弁護士費用敗訴者負担制度」の議論枠組みで、早急に、導入が検討されなければならないのは、消費者が契約法の領域で勝訴した場合においても、不法行為法の領域で勝訴した場合と同様に、事業者側において消費者側に要した弁護士費用の全部または一部を負担するという制度である。
当弁護団が取り組んでいるクレジットシステムの問題を含む既製の経済システムは、そこに参加させられることになる消費者の利益を考慮せずに運用されてきた。この「市場の失敗」を埋めるために国は多数の行政取締法規を定立して対応し、それは一定の効果を上げてきた。しかし、それで市場の欠陥が治癒される、すなわちシステム管理者が「道義的」行動をとるということはなかった。市場の欠陥は市場的アプローチによっても是正されなければならない。
だから今消費者契約法を含む「消費者のための包括的民事ルール」なのであり、だから今、「クラスアクション」なのであり、だから今「懲罰的損害賠償」なのである。その同列に、消費者訴訟における事業者側に片面的な弁護士費用負担制度も位置づく。
少なくとも、今般制定された消費者契約法は、消費者の利益を擁護するためには、従来からの行政監督型・行為規制型立法だけでは不十分であり、民事ルールに基づく司法救済システムを機軸とする新たな消費者のための法秩序を整備することが必要であるとして生み出された、財産法に対する102年ぶりの包括的な修正立法である。
そこでは、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差の存在が明示され、この前提のもと、当面、新たな取消権と不当条項無効の法理等が定立され、今後更なる内容の充実が予定されている。
この立法からも推知できるように、消費者法領域における民事的救済が問題となる類型は、労働契約(労働訴訟類型)を除くあらゆる財産法類型をカバーしている。しかるに、「一定種類の訴訟をその例外とすべき」という「中間報告」の立場は、消費者救済が問題となる全ての訴訟類型における提訴を抑圧するか、または、財産法領域のあらゆる分野に及ぶ包括性を有するものと認められている消費者紛議に、恣意的な線引きをせざるを得ない結果を招来する。
従って、「中間報告」の立場は、本質的に、行政による保護的・措置的・監督的救済よりも、包括的民事ルールによる紛争の予防と解決を目指して定立された消費者契約法及びこれと思想・政策を一にする各種立法の動きと矛盾することにならざるを得ない。
このような結果が貴審議会の意欲するものでないことはいうまでもないであろう。
(4)結論
以上から、当弁護団は、「中間報告」における「弁護士費用敗訴者負担制度」には明確に反対するものである。