弁護士報酬敗訴者負担選択合意制に反対する弁護団声明
2003年11月18日
ハンセン病国家賠償訴訟瀬戸内弁護団
団長 平井昭夫
意見の要旨
弁護士報酬敗訴者負担制度に関し、司法制度改革推進本部司法アクセス検討会において、いわゆる選択的合意による弁護士費用の両面的敗訴者負担制度(以下「選択的合意制」という)が検討されているところ、当弁護団は、下記の理由により、選択的合意制に反対するものである。
意見の理由
1 萎縮効果という弁護士報酬敗訴者負担制度の弊害は除去されていない
当弁護団は、かねてより弁護士報酬敗訴者負担制度の導入に反対してきたところであるが、その理由は、相手方の弁護士報酬を負担させられるかもしれないというリスクを回避できない国民に、提訴・応訴を控えさせる効果(萎縮効果)をもたらすものであり、国民の裁判を受ける権利を著しく侵害するという点にあった。「らい予防法違憲国家賠償請求訴訟」は、国の90年にわたる隔離政策という行政の誤りを追求するとともに、隔離政策の基礎となる「らい予防法」を改正・廃止しなかった立法の責任という新たな司法判断を求めるたたかいであったところ、もし、敗訴者側に相手方の弁護士報酬を負担させる制度が存在していたならば、多数の原告が、この未曾有のたたかいに参加しなかったであろうことは、容易に想像できる。
選択合意制は、こうした訴訟抑制という敗訴者負担制度の弊害をまったく除去していない。かかる制度下では、弁護士報酬について敗訴社負担を求めずに訴訟を提起した場合に、裁判所から、請求について根拠が薄弱なのではないかと疑われる恐れがあり、また、原告が弁護士報酬を敗訴者負担とする意思を示して提起された訴訟において、被告が敗訴者負担の合意に応じない場合も、同様に応訴に合理性がないのではないかとの疑いを抱かせることになる。このように、選択的合意制でも、事実上敗訴者負担の合意を強制される恐れが大きく、弁護士報酬の負担を懸念して提訴・応訴をためらう効果を及ぼすことに変わりはない。
さらに、提訴後も、敗訴者負担制度を選択するかどうかにつき、きわめてシビアな判断を求められ、そのことが原因で心ならずも訴訟から脱退する原告も出るであろう。相手方の弁護士報酬の負担を覚悟するか否かが原告になるか否かの「踏み絵」になってしまうのである。このように、選択合意制は、集団訴訟において、原告らの団結にくさびを打ち、分裂をもたらす可能性すら有しているというべきである。
2 選択合意制は被害者救済の理念に反する
「らい予防法違憲国家賠償請求訴訟」においては、熊本地裁判決で原告側が勝訴した結果、一定の範囲の弁護士報酬が、原告らの損害として認容された。そのため、かかる損害としての弁護士報酬を、原告らが弁護団に支払うべき弁護士費用の一部に充当することができた。
しかるに、選択合意制の下では、不法行為の被害者も、自らの選択責任において、自身の弁護士費用につき、自らが負担するか、相手方に負担させるかを決めることになってしまい、これでは、相当因果関係を有する弁護士費用を損害として認容することにより被害者の救済を図ってきた不法行為法の趣旨が、著しく損なわれる。選択合意制は、自己責任原理を司法に持ち込み、不法行為の被害者救済を交替させるものでしかない。
3 選択合意制は、全く市民的批判にさらされていない
当弁護団も含め、多数の個人・団体が、弁護士報酬敗訴者負担制度のパブリックコメントに反対意見を寄せてきた。しかしながら、選択合意制は、このパブリックコメントの対象にすらなっていない、一委員が気まぐれに持ち出した私案であり、これまで検討会での討議にも付されていないし、市民的批判を受ける場にも出されていない。検討会において、パブリックコメントの結果につき、まともな検討もなされていない現状でもあり、このような、運営上きわめて重大な問題性を有しており、充分な議論も経られていない選択合意制の導入を強行することは、許されない。
4 結論
以上の理由により、当弁護団は、当事者選択制の導入に強く反対する。かつ、パブリックコメントの結果からみても、司法アクセスを阻害し、提訴・応訴を抑制する弁護士報酬敗訴者負担制度については、いかなる条件の下であっても、導入しないことを求める次第である。