弁護士費用の敗訴者負担制度に反対する意見書
司法制度改革審議会 委員 各位
平成13年(2001年)5月2日
インターネット消費者被害対策弁護団
団 長 弁護士 紀 藤 正 樹
東京都千代田区二番町9番地8
中労基協ビル3階
紀尾井町法律事務所
TEL03−3265−6071
FAX03−3265−6076
licp@mm.neweb.ne.jp
意見書の趣旨
インターネット上の消費者被害の実情に鑑み、弁護士報酬の敗訴者負担制度の導入には断固反対します。
意見書の理由
一 はじめに
当弁護団は、1998年11月、ネット上の消費者被害を救済するために結成された弁護団であり、当弁護団の活動につきましては、当弁護団が作成しているホームページ(http://www1.neweb.ne.jp/wb/licp/)をご覧いただければ幸いです。
二 インターネット消費者被害の特殊性
近年、インターネット上で消費者被害が多発していますが、インターネット上の消費者被害につきましては、実社会で生じる消費者被害の解決と異なり、下記のような特殊性があります。
記
1 証拠収集の困難さ
実社会では契約書などの書面や立会人による証言などの証拠が残っている場合が通常であり、容易か否かはともかく、被害者が訴訟のための証拠を収集できる状況にあります。
しかしながら、インターネットは仮想空間を舞台にして、交渉や取引が行われます。インターネット上で行われた交渉や取引の経過は、データとして存在するだけであり、しかも加害者側はデータの消去がきわめて容易な状況にあります。
したがって、被害者が意識してデータを保存しない限り、むしろ証拠が残っていないことが通常であり、その結果、被害者は証拠収集が不十分なままに、解決に望むことになります。
このように、インターネット上の消費者問題では、証拠が不十分な場合が多く、弁護士報酬が敗訴者負担とされた場合、不十分な証拠しか持たない被害者は、訴訟を躊躇することになることは明らかです。2 判例実務が固まっていないこと
実社会においては、さまざまな判例の蓄積の結果、裁判の結果を予測することも、ある程度可能です。
ところが、インターネット上の消費者被害につきましては、取引関係や法律関係が実社会よりも複雑で、既存の判例ではあてはまらない事例も生まれており、インターネット上の法秩序は、これからの判例の蓄積に負うところが大きいと言えます。
そのため、インターネット上の消費者被害に関して、被害者が訴えを提起する場合、裁判の結果を予測できないことがほとんどです。
従って、現実のインターネットの消費者問題では、被害者は弁護士報酬の敗訴者負担を恐れる結果、訴訟を断念することとなる可能性が高いと思われます。3 結論
以上のことから、インターネット上の消費者問題においては、弁護士報酬の敗訴者負担により、訴訟提起を阻害される結果となることは明らかです。
三 当弁護団が受任しているインターネット上のトラブルについて
なお当弁護団が受任したからの経験からも、弁護士報酬の敗訴者負担制度の導入は訴訟提起を抑制する要因となることが明白です。
先年、当弁護団は、インターネットのSOHOビジネスを売り物にした消費者被害事件に関し、約70名の被害者から受任した経験があります。この事件では、被害者が多数に昇り、集団訴訟となる予定でした。集団訴訟の意義は、被害者一人あたりの紛争解決にかかる費用を安くするだけでなく、相手方の悪質性を明らかにするとともに、組織的な違法行為によって生じた被害者を包括的に救済するところにあります。
ところが、弁護士報酬の敗訴者負担制度が導入された場合、このような消費者被害の集団訴訟は困難となるおそれがあります。
集団訴訟の問題として、個別の被害者ごとに、詐欺業者の関与が異なるという問題があります。特にこの事件においては、官庁やマスコミがIT産業を煽った結果、インターネットビジネスの新規性に魅力を感じた消費者が、普段なら気づくはずの業者の手口に乗せられるケースも見受けられました。
こうした、集団的消費者被害事件では、業者の問題点は明らかであるものの、消費者の側でも、一定程度、落ち度がある被害者も存在する場合があり、当然勝訴の確率も、被害者の中には、ほぼ確実なケースから、そうでないケースまで様々います。
このような消費者被害の現実の実情において、弁護士報酬の敗訴者負担が導入されると、落ち度がない被害者にリスクを負わせないために、少しでも落ち度が見受けられる被害者、つまり敗訴リスクがある被害者を切り捨てていくこととなる可能性があります。
その結果、業者の問題点自体は、明白であるのにもかかわらず、全員の被害者からの受任が困難となる結果となり、集団被害についての抜本的救済が成り立たないおそれがあります。
以上のとおり、当弁護団の経験上も、弁護士報酬の敗訴者負担制度の導入は、訴訟提起を抑制する方向に働くことは明らかです。
四 結論
以上から、意見書の趣旨のとおり、当弁護団としては、一般の消費者被害の実情のみならず、特にインターネット上の消費者被害の実情に鑑みても、弁護士報酬の敗訴者負担制度の導入には、断固反対せざるを得ませんので、本書を提出させていただきます。
以 上