司法制度改革推進本部、司法アクセス検討会及び各委員 殿
司法アクセスの検討には
市民にとって使い易い司法とはどのようなものか
という視点に立ってください
−弁護士報酬敗訴者負担制度について−
1.私たちは、司法制度改革に関する諸問題を研究・討議し、必要に応じて市民や各界の意見を表明するため連携して活動している団体です。
2.司法アクセス検討会におかれては、司法制度改革審議会の意見書の趣旨にのっとり、市民に使い易い司法、司法アクセスの向上の為に取り組んでおられることと存じます。
現在、司法アクセス検討会では、弁護士報酬の敗訴者負担制度導入の可否について論議しておられます。
社会的に力の強い者は、裁判に訴えなくても、政治の力やそれ以外のいろいろな方法で紛争を解決することができます。しかし、力の弱い私たち庶民は、政治力もなく社会的な影響力もありませんから、紛争の解決を裁判にしか期待できないことが多いのです。深刻な公害訴訟や薬害訴訟はすべてそうでした。いま提訴が準備されている中国残留孤児の国賠訴訟も、政治の世界でも社会運動によっても解決できず、本当に最後の手段として裁判を起そうとしているのが実情です。
ところが、弁護士報酬敗訴者負担制度が導入されれば、敗訴したときに相手の弁護士の報酬の相当部分を負担しなければならないことになりますので、市民は提訴を躊躇させられます。またサラ金や家屋明渡の訴訟、隣人とのトラブルにおいて被告とされた時に、言い分が通るかどうかわからないものの、裁判所で自分の立場や言い分を聞いてもらいたいという時でも、応訴するには大きな不安を感じ、相手方の主張通りの和解を余儀なくされることにもなります。
私達は、手軽に裁判ができ、裁判所に判断してもらって事を解決するのが良いことだし、今後の社会の進むべき方向と考えています。そのため敗訴者負担については、私達市民はその導入に反対しているのですが、司法アクセス検討会の委員の皆さんには、私共の意見に理解がないように思われます。
3.例えば、藤原委員は、司法が世の中を正しい方向に導くとは考えていない、社会問題を解決するためのチャンネルは司法以外にもある、何でも訴訟で解決するという社会が良い社会とは思えない、そういうことになれば失うものが多い、司法に全ての問題の解決を期待すべきではないと言われています。
何も司法万能というつもりはありませんが、義理人情や泣き寝入りによる不合理な解決を防ぐためにも、2割司法から脱却して裁判の活用により法の支配を広めてゆくことが現在の課題であり、司法改革の目的にそうのではないでしょうか。
この点に関しては、司法制度改革審議会の最終意見書でも、「21世紀の我が国社会にあっては、司法の役割の重要性が飛躍的に増大する。国民が、容易に自らの権利・利益を確保、実現できるよう、そして、事前規制の廃止・緩和等に伴って、弱い立場の人が不当な不利益を受けることのないよう、国民の間で起きる様々な紛争が公正かつ透明な法的ルールの下で適正かつ迅速に解決される仕組みが整備されなければならない。21世紀社会の司法は、紛争の解決を通じて、予測可能で透明性が高く公正なルールを設定し、ルール違反を的確にチェックするとともに、権利・自由を侵害された者に対し適切かつ迅速な救済をもたらすものでなければならない(6ページ)」と述べられています。
藤原委員のように司法に期待しない人が、どうして市民の使い易い司法作りに参加されるのでしょうか。私共は、藤原委員の司法アクセス検討会委員としての適格性には疑問を持たざるを得ません。もし藤原委員が司法アクセス検討会の委員を続けられるのであれば、藤原委員に対して、根本的に司法の機能を考え直してもらうことを要求します。
4.長谷部委員は、裁判を起す人はリスキーなことを好む人だと言われています。
裁判は結果がどうなるか判らないので、一面ではリスキーだと言えるかもしれません。しかし、庶民は自分の権利・利益を守るためにやむを得ず裁判を起すのです。リスキーなことが好きだからではありません。弱い立場の人は、裁判にしか権利救済を求められないという社会の実情を、長谷部委員は全く理解されていないのではないでしょうか。
5.西川委員は、正義こそ敗訴者負担を決める最重要基準であるとか、生命や身体を侵襲する公害訴訟においても敗訴者負担が当然だと言われています。更には、公害被害者は裁判で勝っているから敗訴者負担の方がアクセス促進になるのではないかとまで言われています。
このような西川委員の発言には驚きと怒りを感じます。
公害訴訟などは、被害者の要求がなかなか通らず、幾多の敗訴や苦労を重ねた末に、ようやく勝訴する場合があるというのが実情なのです。カネミ油症被害事件では敗訴していますし、東京都の大気汚染訴訟も1審では敗訴部分が多かったし、東京水俣訴訟も相当数の原告は敗訴しています。C型肝炎訴訟も予断を許しません。空港騒音などの差止も敗訴しているのです。
なお、公害訴訟やPL事件等の消費者訴訟、その他交通事故等の不法行為訴訟では、判例上被害者が勝訴した時は、自己の弁護士報酬が損害として加算されて請求できることになっており、今さら敗訴者負担を導入する必要はないのです。
このような事を知ってか知らずか、西川委員は、勝ったものが正義だ、として強い者の論理を強硬に主張しておられます。私たちは、西川委員の適格性にも多いに疑問を持っています。西川委員におかれては、弱い立場の者が置かれている状況にも想像力を働かせて、市民や消費者、弱者をいじめることをやめてほしいのです。
6.山本委員は、片面的敗訴者負担に反発したり、敗訴者負担が本来司法アクセスを抑えこむ制度であることをわかりつつ、敗訴者負担の導入を目減り論にすり替えようとされていますが、これは司法アクセスの拡大を求める意見書の趣旨に反する反市民的行為だと考えます。ごくまれな不当訴訟での被告の便益と引き換えに、多くの原告の提訴を制約し、応訴して少しの言い分でも主張したいという被告のアクセスを制約することになるのです。一部の病理的な現象に対処するために敗訴者負担を導入して、多くの普通の事件で市民の司法アクセスを抑制することは、角を矯めて牛を殺すことになります。不当訴訟に対しては、実態に即した対策が検討されるべきで、それが民訴法学者の役割ではないでしょうか。山本委員についても委員としての適格性は極めて疑問です。
7.高橋座長は、市民の利用し易い司法の構築が検討会の役目であるのに、敗訴者負担導入が司法アクセスの抑制であることを無視して、導入の除外例を個別に検討しておられますが、このような議論の進め方には納得がゆきません。市民の生の声を聞こうとせず、日弁連のアンケート調査結果を不当と決め付けられるのも、最初から結論を決められているようで、座長はもちろん委員としても、適格性には多いに疑問があります。
8.委員の方々は、市民からの距離が遠いため、一般の市民の生活や感覚がわからないのだと思います。これら、司法アクセス検討会の委員としての適格性に多いに疑問のある委員を選任した司法制度改革推進本部の責任は重大です。推進本部は、直ちに委員の変更を検討すべきです。また、私共、普通の市民の声を聞いていただくためにも、ヒアリングや公聴会を開催されることを求めます。
各委員におかれては、市民の為の司法の重要性を理解され、机上の空論や力の強い人の論理を出発点とはせず、くれぐれも力の弱い市民の立場で検討されることを強く求めます。
2003年(平成15年)7月11日
司法改革大阪各界懇談会(別紙55団体)
〒530-0047 大阪市北区西天満2−1−2
大阪弁護士会 気付