司法制度改革審議会

 御中

 

      「弁護士費用の敗訴者負担制度」導入に反対する声明

 私達「欠陥住宅京都ネット」は、京都府及び滋賀県で欠陥住宅問題に取り組む建築士、学者、弁護士、学生、一般市民、被害者のネットワーク組織です。平成10年4月に結成され、現在約90名の会員がいる任意団体であり、電話110番による被害相談、建築士、弁護士の紹介、調査、行政等への提言など、一貫して欠陥住宅被害の予防と救済のための諸活動を行ってきました。京都府、京都市、滋賀県各消費生活センター、住宅相談所、建築指導課、日刊新聞などにより広く活動が紹介されている結果、これら諸機関を通じても数多くの相談が寄せられ、ここ2年ほどは年間100件以上の相談を受けるに至っています。その内、訴訟に至った件数も約20件程度あり、今後、訴訟提起に踏み切る事案は増加してゆく見込みです。

 欠陥住宅京都ネットの諸活動を通じて、欠陥住宅被害に悩む市民がこれほどまでに多数いることに会員皆日々驚いているところです。

 今般の司法制度改革審議会による中間報告は、「弁護士費用を原則的に敗訴者の負担とする制度」を新たに導入することを提言しています。しかし、私達欠陥住宅京都ネットが日々取り組んでいる欠陥住宅被害根絶の立場からすると、このような制度が導入されることになれば、欠陥住宅被害者の裁判による救済の道を閉ざす危険性が明白かつ甚大ですので、断固反対を表明するものです。

 以下、主な理由を述べます。

 反対理由の第一は、現行制度でも十分であって、敢えて、敗訴者負担制度を導入する必要性は全くないという点です。

 欠陥住宅訴訟事件において、被害者側が勝訴した場合、昨今の判例の流れは、損害額の中に弁護士費用も算入するのが通例です。他方で、被害者が敗訴した場合、訴訟提起自体が悪質で明らかに濫訴だと言えるようなときには、相手側から不当訴訟に基づく損害賠償の反訴が提起され、その判断の中で、弁護士費用も算定されるようになっていますので、敗訴者負担制度を導入する必要性など全くありません。

 

 反対理由の第二は、敗訴者負担制度の導入によって、かえって大きな弊害が生じるという点です。

 欠陥住宅訴訟は専門的知見を要する訴訟であり、建築については素人である裁判官の恣意的判断によって適正な判決が得られないという現実がまま見受けられます。たとえば、建築物が最低限の安全基準であるはずの建築基準法令所定の技術基準さえも満たしておらず(例えば、地耐力不足や配筋量不足、溶接不良)、建築基準法令の基準を充足するように修補するには、建て替える以外に方法がないようなケースであっても、建築基準法令の趣旨や意味を全く理解せず、ただ、現に建っていることだけを理由に安全だとして建替の必要性を認めない裁判官がおり、建築専門家の目から見ておよそ理解しがたい判決が言い渡されることがあります。このように建築基準法令に対する裁判官の無理解・不勉強によって、被害者の敗訴する危険性が高いという現実があるのです。こうした状況のもと、これまで多くの欠陥住宅被害者が、裁判所に対する信頼を裏切られ、泣き寝入りを余儀なくされた例も多くありました。このような現状にあっても、なお立ち上がった一部の被害者らは、欠陥立証のための私的鑑定費用や代理人弁護士への費用といった重い負担を抱えながら、まさに自らが敗訴判決という屍を積み重ねる覚悟で、必死の想いで訴訟提起を行い、重い裁判所の扉をこじ開けようとしてきたのです。今日の判例上において認容されるようになってきた建替(費用)請求も、まさしく、このようなリスクを背負いつつ被害者らが訴訟提起した結果として生まれてきたものであり、その結実として今日の判例の積み重ねがあるのです。これらの判例理論の誕生・確立は、死屍累々と積み上げられた過去の不当な被害者敗訴判決を乗り越え、敗訴のリスクを敢えて甘受して訴訟提起してきた被害者の決意・努力の賜だと言えます。ところが、そのリスクのうえに更に、敗訴の場合には相手方の弁護士費用までも負担しなければならないことになるとすれば、訴訟自体をあきらめて泣き寝入りせざるを得ない被害者が増大することは火を見るより明らかであって、欠陥住宅被害の救済を図ることがますますもって難しくなります。

 反対理由の第三は、新しい権利獲得のための新しい種類のいわば「パイオニア型訴訟」がなくなってしまう点です。

 欠陥住宅被害に関する訴訟がこれほどまでに増大し、私達のようなネットワーク組織が出来るということは、10年、20年前にはおよそ予想さえできませんでした 。欠陥住宅に苦しむ被害者が泣き寝入りすることなく救済を受けるためには、裁判所における判例が積み重ねられ、訴訟の見通しが立つことがなにより必要です。しかし、多くの欠陥住宅訴訟は、判決の見通しが前記の理由から今もって確固としておらず、パイオニア型裁判になっています。敗訴者負担制度が導入されると欠陥住宅裁判のようなパイオニア型裁判が激減し、被害者の泣き寝入りが進むばかりとなってしまいます。この点、確かに、消費者訴訟などの特定の訴訟類型においては、敗訴者負担の適用除外とする案も検討されているようですが、欠陥住宅訴訟にも様々な形態が生成してきており、消費者被害訴訟として必ず適用除外とされるか疑義が残る場合が考えられます。例えば、欠陥住宅被害が社会問題としてクローズアップされるにつれて、実質的に欠陥住宅を供給している主体が単なる仲介業者などを仮装して潜在化する事案等も登場してきており、また、欠陥住宅被害を生み出す構造として住宅ローンの与信を行う金融機関の責任も叫ばれておりますが、これらは従来責任主体として想定されていた住宅供給者とは様相を異にするため、新しい類型の訴訟にならざるを得ません。結局、真に被害者救済を図るためには、絶えずパイオニア型訴訟が生成してくることになり、このようなパイオニア型訴訟について、特別の類型化を図って特別に保護することは土台無理なことと言わざるを得ません。

 反対理由の第四は、欠陥住宅被害の救済は訴訟によらざるを得ないことが多いにもかかわらず、敗訴者負担制度はこれを妨げることになる点です。

 例えば、数戸の建売住宅の販売のように、欠陥住宅の供給者は同種の欠陥住宅を他にも供給しているケースが多く、一戸について示談解決しようとしても、供給者側が、他の住宅取得者から同様の被害回復の要求のなされることを畏れて、訴訟前の和解に応じようとはせず、訴訟提起しなければ解決が望めないのが実情です。そのため、欠陥住宅被害者は訴訟提起という大変な決断を迫られることになりますが、多額の住宅ローンを抱える多く被害者にとって、この訴訟に対する心理的・経済的圧迫が被害救済の大きな障壁となっています。このように、ただでさえ障害の大きな訴訟提起に際して、さらに敗訴者負担の制度があるということになれば、実際問題として訴訟提起を断念せざるを得なくなり、およそ被害救済の道が閉ざされることになってしまいます。これは、憲法上保障されている「国民の裁判を受ける権利」の侵害にほかなりません。

 弁護士費用敗訴者負担の制度については、弁護士会や消費者団体等から様々な反対意見が出されているところですので、敢えて、これらの反対理由について重複して触れることをしませんが、私達も同感するものばかりです。私達欠陥住宅京都ネットとしては、欠陥住宅の被害者が泣き寝入りをすることなく、裁判による迅速な被害救済を期待する立場から、弁護士費用の一般的な敗訴者負担制度の導入に断固として反対するものです。          以   上

  2001年1月22日

 

  欠陥住宅京都ネット

    代表幹事   安保嘉博(弁護士)

    幹  事   蔵田  力(建築士)、國分妙子(弁護士)、寺嶋繁久(建築士)、    吹上晴彦(建築士)、三重利典(弁護士)、山本正道(建築士)

    事務局長   木内哲郎(弁護士)

    事務局次長 石川泰久(弁護士)、神ア  哲(弁護士)、北村純子(弁護士)、   草地邦晴(弁護士)、長岡満朗

    事務局員   小原健司(弁護士)、松本隆宏(建築士)、山根直生

    その他会員一同