司法制度改革審議会 各委員 殿
2001年(平成13年)2月5日
なかにし呉服店クレジット被害弁護団
団長 弁護士 国 府 泰 道
弁護士費用の敗訴者負担に関する意見書
1 当弁護団について
クレジットの名義借事件などクレジットの不正利用事件は、最近10年間で500件、170億円,被害契約件数4万件であり、通産省による信販会社に対する再三の指導にも関わらず減少しません。 当弁護団は、1998年、大阪府下の地方都市茨木市の主婦ら100名あまりが、集団クレジット被害に遭い茨木市消費生活センターなどに相談が殺到したことから、苦情相談の受け皿として大阪弁護士会消費者委員会の有志12名が弁護団を結成したものです。
2 事件の概要
事件の手口は、呉服店「なかにし」が資金繰りに窮したことから、顧客に対して「○○の奥さんが外孫に成人式の振袖を買ってやりたいが、クレジットを組むと同居している長男の嫁に知れてしまうので、あなたの名前でクレジットを組んでやってほしい。」といったトークで、顧客に対してクレジットの名義貸しを慫慂したものです。しかし、「○○の奥さん」というのは架空の話で、実際は呉服店の資金繰りのためにクレジットを不正利用しており、呉服店の倒産により問題が顕在化しました。
信販会社は、これら被害者に対してクレジット代金全額を請求し、消費生活センターの斡旋に対しても、クレジット代金の50%で示談するといった提案をしてきたため、これに不服の被害者が弁護団に依頼してきました。クレジットの名義借の事件では、信義則により過失相殺の類推適用により、請求が減額されて認容額が決められるため、具体的な事案ごとに認容率はさまざまです。被害者は、負担額ゼロをめざしつつも最終的には裁判所に金額を決めてもらおう、とりあえず信販会社の言いなりの金額では納得がいかないということで、訴訟などの法的手続きを利用することになります。
なかにし呉服店の事件でも、信販会社は加盟店管理責任を尽くせばなかにし呉服店のクレジット不正利用を知り得たとして、クレジット利用の危険は信販会社が全面的に負担すべきであると主張し、大阪府消費生活苦情審査会の調停手続きを利用して紛争の妥当な解決を図ろうとしました。約100名の被害者のうち弁護団に委任しなかったのは10名余りで、残りの人たちは弁護団に着手金を支払って委任しました。
3 消費者被害事件における弁護士費用の位置づけと原則敗訴者負担の問題点
この委任手続きの過程で、被害者は弁護士に着手金を支払ってまで委任するかという点で迷っていました。これは,単に弁護士費用を負担するのが困難だとか、嫌だというのではなく、弁護士に費用を払って法的手続きをとったとしても信販会社と交渉している示談案よりも有利になるかどうか分からないから、費用をかけてまで弁護士に委任するメリットがあるかといった点での迷いでした。裁判の見通しが立たないゆえの迷いです。もし、このような事案において、顧客が敗訴した場合に信販会社の弁護士費用まで顧客側が負担しなければならないということになれば、被害者の負担する弁護士費用のリスクは2倍になるので、さらには訴訟や弁護士への委任を回避しようとすることは明らかです。その結果、裁判になれば信義則を活用して過失相殺の類推により裁判所がそれなりの合理的な認容額を定めることができたたのが、敗訴者負担の導入により、裁判前の示談でほとんど泣き寝入り同然に信販会社のいうままの金額で示談せざるを得ないことになるのは明らかです。
信販会社は、クレジット申込書を加盟店に予め備え付けさせ、消費者のクレジット契約手続き一切を加盟店に任せています。のみならず、信販会社は加盟店が消費者に実際に商品の引渡しや役務の提供をしたかどうかを確認することなく、商品の引渡しないし役務提供の有無とは全く無関係に、立替払金を加盟店に支払っています。そこで、資金繰りに窮した加盟店が、備え付けているクレジット申込書を悪用し、形式的に整ったクレジット申込書をクレジット会社に送付することにより、いとも簡単に信販会社から多額の立替払金を受け取ることが可能となっているのです。
このようにクレジットの名義借事件はクレジットのシステムのもつ不完全性から生じるという構造的な被害です。このような紛争についても,原則として敗訴者が負担するとなると、加盟店管理の実態について立証の予測がつかない被害者は,裁判にまで至らず泣き寝入り示談する事例がほとんどとなってしまいます。
このような事態は、司法改革の理念である法の支配する社会とは逆行した社会を招来することになってしまいます。よって、司法制度改革審議会には原則として弁護士費用を敗訴者に負担させるという提案を撤回していただきますよう、クレジット不正利用被害の被害者4万人に代わって1クレジット被害弁護団として以上のとおり要望します。