訴訟代理人報酬の敗訴者負担制度導入に反対する決議
大阪司法書士会は、弁護士・司法書士等の訴訟代理人報酬を敗訴者負担とする制度の一般的な導入に強く反対する。
理由
2001年(平成13年)6月12日、司法制度改革審議会は最終意見書の中で「訴訟を利用しやすくする見地から、一定の要件の下に弁護士報酬の一部を訴訟に必要な費用と認めて敗訴者に負担させることができる制度を導入すべきである」との意見を表明した。
この意見を受けて、現在、司法アクセス検討会において、同制度の導入につき本格的な検討がなされている。
今回の司法書士法改正により、我々司法書士は簡易裁判所の事物管轄内において訴訟代理権を付与されるに至っており、この問題は「弁護士報酬」に限定されるものではなく、我々司法書士を包含した「弁護士・司法書士報酬」についての問題に他ならないことも認識した上で、同制度が全面的に導入された場合には、下記の理由によって多くの国民が不利益を受けることが懸念されるため、ここに反対の意思を表明する。
そして、その意思に則り、平成15年度事業計画に基づく、同制度に関する研究・提言・シンポジウムの開催等の事業を進めるものとする。
1.政策形成型、判例形成型訴訟への萎縮効果が著しい。
公害、医療、消費者、過労死など政策形成型、判例形成型訴訟を提起するのが困難になり、社会的弱者、あるいは市民の権利保護のための法創造や問題提起ができなくなる。例えば、高度成長期において、公害事件が多発したが、この時期には国や企業の責任を問うための法理論や規制がなく、被害者側は泣き寝入りを余儀なくされてきた。しかし、長い年月をかけ、幾多の敗訴判決を通じて被害者救済の判例理論等が成熟し、ついに勝訴判決を得られるようになってきた。また、提訴や判決が報道されることにより、世間に問題を提起し、結果としては敗訴しても、世論の後押しによって被害者保護立法や環境立法、環境基準の設定がなされる、などの成果を生んできた。このように、提訴の段階では勝訴が非常に困難と思われる事案であっても、提訴によって新たな政策を実現・形成していく必要のある事件類型がある。ところが、敗訴者負担制度が導入されるならば、相手方の訴訟代理人報酬まで払わされることが予想されるため、このような類型における訴訟提起がほとんど不可能になってしまう。このような制度が導入されれば、数十年後の我が国は、弱者を切り捨てる国になってしまう懸念がある。
2.一般事件でも萎縮効果を生じる
我々司法書士が、簡裁代理権取得を契機として、これまで以上に「街の法律家」として市民の受け皿になることが増加するであろうと思われる一般民事事件(家屋明渡、貸金請求、敷金返還請求等)においても、双方に言い分があるという場合が多く、また、例えば賃貸借契約の解除における正当事由や労働事件での解雇権の判断、不法行為の過失の認定や損害の算定などのように、裁判官による法的評価に幅があること、あるいは証拠の偏在などから訴訟提起時に勝訴の見通しが立たない場合が少なくない。このような場合に、敗訴者負担制度が導入されたならば、一般市民は訴訟提起を躊躇し、市民の「裁判を受ける権利」が保障されないことになる。
3.経済力のあるものしか訴訟を利用できなくなる
資金力の豊富な社会的・経済的強者にとっては、相手方の訴訟代理人報酬の支払は容易であるから、敗訴者負担制度の導入は、訴訟提起に歯止めをかけることはない。しかし、資金力のない社会的・経済的弱者は、相手方の訴訟代理人報酬までもを負担しなければならないリスクを憂慮し、訴訟提起を躊躇することになる。
敗訴者負担制度は、弱者に対しては訴訟アクセスを促進するどころか断念させ、憲法が保障する「裁判を受ける権利」を侵害することになりかねない。
4.訴訟救助・法律扶助等の環境の整備不完全
イギリス、ドイツでは弁護士費用は敗訴者が負担する制度を採用している。しかし、これらの国では訴訟救助や法律扶助、訴訟保険の制度が我が国に比べれば格段に普及し、消費者団体が訴訟を提起できる団体訴権制度の充実など、市民からの訴訟アクセスを抑制しないようにする制度的配慮がなされている。これらの制度基盤が脆弱な我が国において、現段階での一般的導入は早計にすぎる。