弁護士報酬敗訴者負担問題に関する意見書
2003年12月12日
意 見 の 趣 旨
私たちは、弁護士報酬の敗訴者負担制度についての合意選択制について反対します。
意 見 の 理 由
現在、司法アクセス検討会においては、敗訴者負担を導入する訴訟類型、導入しない訴訟類型の分類を止め、訴訟手続きの中で敗訴者負担の合意がある場合には、敗訴者負担とするとの制度(以下、「合意選択制」と仮称します。)の検討がされていますが、私たちは、以下の理由から、合意選択制の導入に反対します。
1 司法アクセスという視点の欠如
弁護士報酬の敗訴者負担制度の導入の可否は、この制度が司法アクセスを促進するか、萎縮効果をもたらすかが判断基準であるはずである。
しかしながら、司法アクセス検討会の議論を検証すると、合意選択制が司法アクセスにどのように影響するかについての検討がされているとは思われない。
このことは、合意選択制を導入する合理的な理由そのものがないことを物語っており、合理的な導入理由のない制度の導入は、すべきではない。
2 訴訟前の合意の有効性に関し強い懸念があり、訴訟前の合意が萎縮効果をもたらす。
司法アクセス検討会では、敗訴者負担の合意が有効である要件として@訴訟上の合意に限ること、A双方申立によるべきこと、B双方に弁護士(代理人)が付いている場合に限ることなどをあげている。
しかし、訴訟以前の契約段階で当事者が裁判となった場合の弁護士費用の負担についての合意をしている場合、その契約段階における合意の効力が否定されなければ、本訴又は別訴において、その契約に基づき、敗訴した側が勝訴した相手の弁護士費用の負担を強いられることになるから、敗訴の場合に負担する相手方の弁護士報酬を考え、提訴を萎縮し、或いは、応訴を萎縮してしまう。
この萎縮効果のために裁判を利用できなくなることが問題であるとして、多くの国民が、被害者が、弁護団が、また、弁護士会が弁護士報酬の敗訴者負担に反対してきたところである。しかも、この萎縮効果は、経済的負担能力の小さいものにより大きく作用することが明らかである。
このような格差は、労働事件、消費者事件に限らず、事業者間にも現に存在する。私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(いわゆる独占禁止法)には、優越的地位の濫用を不公正な取引方法と例示、下請代金支払遅延防止法は、現実の社会における当事者間に存在する格差を前提としている。商工ローン事件やフランチャイズ事件などは、その例である。このような社会に現実に存在する格差は、もちろん、市民間にも存在する。
また、弁護士報酬の敗訴者負担制度の導入に反対する理由の一つである裁判結果の見通しの困難性は、全ての裁判に共通である。
これまで、司法アクセス検討会は、事件類型や当事者の属性によって敗訴者負担制度を導入する訴訟の範囲を画そうとしてきたが、その考え方では、司法制度改革推進本部に寄せられた多くの国民の声、すなわち司法に寄せる国民の期待に応じることができないと判断して、萎縮効果を排除できる訴訟の範囲を画することを放棄したものと思われる。
従って、ここでも、裁判以前の契約による弁護士報酬の敗訴者負担の合意を無効とされる手当がなされない以上、合意選択制に反対である。
なお、裁判前の敗訴者負担の合意が有効であるとしても、別訴によるとすれば、そのような面倒な手続きをすることは通常ありえないから、萎縮効果はほとんどない、等という考えも有るかも知れない。しかし、その考え方は、現実的ではない。実際、韓国においては、見せしめ的に敗訴者に対して勝訴企業が弁護士報酬の取り立てをしていることが明らかとなっている。
3 不法行為における現在の水準の確保についての懸念
現在、不法行為訴訟(債務不履行を理由とする場合においても、一部訴訟)においては、弁護士報酬を損害の一部として、敗訴加害者に負担させている。
この現在の裁判水準との関係において、合意選択制には以下の問題がある。
第1に、「不法行為訴訟においては訴訟前の合意がない」という理解は、取引型不法行為に当てはまらないことに注意しなければならない。
第2に、敗訴者負担の合意をしないことが、弁護士報酬を加害者に請求しない趣旨であるとして、権利を放棄したと理解される懸念がある。
第3に、勝訴して裁判所が損害として認める弁護士費用の総額を加害者から回収するには、訴訟費用確定手続きを経て別途請求する必要が生じ、被害回復のための手続き上の煩わしさを被害者に負わせることになる。しかし、2つの手続きを行わないと、現在認められている程度の額に達しないとすれば、実質的には、現時点の被害救済のレベルからの後退である。
4 合意選択制は、手続上の問題がある
司法改革推進本部は、本年7月末から9月1日までの間、弁護士報酬の敗訴者負担問題について国民に意見を求めたが、その際には、合意選択制については、全く触れられていなかった。
国民に意見を求めながら、国民に全く知らせていない制度の導入を検討し、図ろうとすることこは、司法制度改革審議会の意見書に反するし、民主的とは言えない。
合意選択制については、司法アクセスという国民の裁判の利用に直接かかわる極めて重大な問題であるのだから、拙速は避け、改めて、国民に意見を問うべきである。
5 司法アクセスの観点からの再検討の必要性〜片面的敗訴者負担の導入について〜
司法アクセス促進の観点からは、特定の訴訟分野における片面的敗訴者負担制度の導入を積極的に検討すべきである。
行政訴訟、住民訴訟、国家賠償訴訟などはその典型と思われるが、そのほかにも検討されるべきである。
6 まとめ
当連絡会は、司法制度改革審議会で弁護士報酬の敗訴者負担問題が検討された当初から、この問題については、国民の裁判を利用する権利の著しい障害となることから、その導入に反対する意見を堅持してきた。この立場は、現時点においても全く揺るぎないものであって、多くの国民、諸団体の理解を得てきている。
合意選択制なる制度は、司法アクセス検討会において突然浮上し、司法アクセスの観点からの議論がされていない。しかも、上記のように、司法アクセスを萎縮させ、また現状の裁判の運用より被害救済が遠のくなどの重大な懸念がある。
私たちは、これらの懸念が払拭されないままでは、従前どおり、この合意選択制なるものの導入に反対せざるを得ない。
司法制度改革推進本部及び司法アクセス検討会においては、司法アクセスの観点から、裁判を利用する国民の声に耳を傾け、慎重な議論と検討をお願いしたい。
以上