私たちは、「合意による敗訴者負担制度」に反対します

弁護士報酬の敗訴者負担に反対する全国連絡会


 「合意による敗訴者負担制度」とは、当事者双方に代理人がついた裁判において、双方が共同で「敗訴者負担にする」との申し立てをした場合に、その裁判では代理人報酬を敗訴者負担とする制度です。
司法制度改革推進本部・司法アクセス検討会は、当初は、司法制度改革審議会の意見書を曲解して、敗訴者負担(裁判で負けた側が、勝訴した側の代理人の報酬の一部を負担する制度)を原則とし、きわめて限られた訴訟類型だけを例外として現行の各自負担(裁判で勝っても負けても、自分が依頼した弁護士の費用は自分が負担する制度)とする制度の導入をもくろんでいました。これでは、裁判は恐くて起こしにくいものとなり、事実上市民から裁判を奪うものという大きな反対運動が巻き起こりました。そのため、敗訴者負担制度の原則導入は断念されましたが、今度は、各自負担を原則としたうえで、「合意による敗訴者負担制度」の導入がはかられています。
 しかし、この「合意による敗訴者負担制度」には、以下のように重大な問題点があり、市民の側からはこれに反対の声を上げざるを得ません。

(1) 「尻抜け」により、重大な弊害が生じます

 チョット見ると、「合意による敗訴者負担制度」は、『敗訴者負担がよろしくないのなら、合意しなければ良いじゃないか』とか、『双方に弁護士等代理人がついた場合で、しかも双方の共同申立だから、合意を強制される不安もない。問題ないじゃないか』と思えそうです。しかし、大きな落とし穴があります。
司法制度改革推進本部のいう「合意による制約」「合意の方式」は、あくまでも「裁判における合意」を意味します。裁判前の契約(例えば、売買契約、労働契約、下請け契約等々)には関知しません。例えば「この売買契約に関し、将来、裁判となった場合、敗訴した側は勝訴した側に対して、勝訴した側が負担した弁護士報酬を負担する。その金額は、裁判で認められた金額の20%とする。(例えば、裁判所が1000万円の支払いを命じたときは200万円)」などという条項が盛り込まれると、勝訴した側は、裁判が始まってから『合意による敗訴者負担』の申立をしなくても、その契約条項に基づいて、敗訴した側に対して、契約で決まった金額を請求することができます。このことは、司法制度改革推進本部が認めているところです。「裁判の場での合意が有効なのだから、当事者間の事前の契約での取り決めを無効とする理由はない」という形で、「お墨付き」を与えることになりかねません。こうした弊害が存することは、司法アクセス検討会(第22回)でも多数の委員により指摘されています。
 私たち市民が事業者と契約する場合、中小零細業者が大企業と契約を締結する場合に、その内容を対等に交渉することなど不可能です。示された内容に不満だからとして契約締結を拒否する自由すら事実上ないと言わざるを得ません(例えば、銀行等の金融機関と預金契約をしないで生活することは、ほとんど不可能です。)。強者の側が作る契約書や約款の書式に上記のような規定が盛り込まれるようになれば、結局、私たちは敗訴者負担制度を強制されることになります。これでは、「合意による敗訴者負担制度」の「尻抜け」となり、私たちが弁護士報酬の敗訴者負担に反対してきた意味が全くなくなります。
 「合意による敗訴者負担制度」の導入により、契約や約款にこのような敗訴者負担条項が普及することは間違いありません。結局、私たち市民、労働者・消費者・中小零細業者は契約条項による敗訴者負担をおそれて裁判を起こすことも、裁判を受けて立つことも躊躇することになり、泣き寝入りを強いられることになってしまいます。

(2) 「合意による敗訴者負担制度」には、導入の理念がありません

 司法制度改革審議会意見書では、「勝訴しても弁護士報酬を相手方から回収できないため訴訟を回避せざるを得なかった当事者にも、その負担の公平化を図って訴訟を利用しやすくする見地から、一定の要件の下に弁護士報酬の一部を訴訟に必要な費用と認めて敗訴者に負担させることができる制度を導入すべきである」としていました。
私たちが批判してきた部分ではありますが、「負担の公平化を図って訴訟を利用しやすくする」と、原告側が勝訴確実な場合の司法アクセス促進という理念は語られています。ところが、「合意による敗訴者負担」は、この理念とはまったく無縁なものとなっています。
勝訴確実な側が敗訴者負担を求めるときは、敗訴確実な相手方がこの求めに応じるはずのないことは明白ですから、「合意による敗訴者負担」の実現はありえません。これでは、意見書が語っていた敗訴者負担制度導入の根拠としていた司法アクセス促進に資するものとはなりえません。また、「合意による敗訴者負担」は、意見書がいう「負担の公平化」とも無縁です。
 「合意による敗訴者負担制度」導入には、何の理念もありません。世界中を見渡しても、このような制度はなく、「大きくなった市民の反対の声をかわして、どのような形ででも敗訴者負担制度を導入すること」がこの案の目的と考えざるをえません。

(3)事故被害者からの損害賠償請求裁判に不安が生じます

 現在、交通事故、取引事故、医療過誤、公害などの損害賠償請求訴訟では、被害者側の弁護士報酬の一部が当然に損害として認められ、加害者に対し支払いが命じられています。しかし、「合意による敗訴者負担制度」が導入されると、以下の不安が生じます。
 加害者側から「弁護士報酬を回収したいのなら敗訴者負担の合意をせよ」「合意をすれば敗訴者負担制度により弁護士報酬を回収できるではないか。その合意を拒否するのなら、その分を損害として認める必要はない」との主張が提出されることが予想されます。裁判所がこのような主張を採用して、従来損害として認められていた弁護士報酬が認められなくなる、あるいは認められてもその金額が切り下げられる恐れが生じます。この不安は、現実の判例の推移を見るまで解消されません。
 この事態をおそれて敗訴者負担の合意をした場合には、被害者側にとって、たいへん面倒なことになります。全面敗訴の場合に加害者の弁護士報酬を払わなければならなくなるリスクを負担することはもちろんです。請求額の一部認容の場合にも、認められなかった部分に相当する加害者側の弁護士報酬の一部を負担させられてしまいます。
さらに、請求どおりに全額認容された場合、被害者は、訴訟費用としての弁護士報酬と、判決で認められた損害としての弁護士報酬との2つを請求しなければならなくなり、手続きとしてはとても煩わしくなります。
 要するに、この制度は、被害者側によいことは一つもなく、損害賠償請求訴訟を起こしにくくするだけなのです。

 「敗訴者負担」反対の国民の声は、110万筆を超えた反対署名と圧倒的多数の反対意見が寄せられた5,000件超のパブリック・コメントに既に示されています。こうした声を真摯に受け止めるならば、きっぱりと敗訴者負担制度導入を取りやめることこそ採るべき正しい選択です。
 私たちは「合意による敗訴者負担制度」導入に反対します。


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