2000年6月22日

 

日本弁護士連合会

 会長 久 保 井 一 匡 様

 

                   同消費者問題対策委員会

                    委員長  浅  岡  美  恵

 

「弁護士費用の敗訴者負担」をめぐる司法制度改革審議会の

      動きと日弁連の今後の対応について(要望)

 

第1 要望の趣旨

 弁護士費用の負担のあり方に関して、日本弁護士連合会としては、訴訟に敗訴した当事者に負担させることを原則とする制度を導入すべきではないことを確認し、その趣旨を明確にした書面を速やかに司法制度改革審議会に提出するとともに、かかる制度が新たに導入されることがないよう十分なる取り組みをされたく要望します。

 

第2 要望の理由

 司法制度改革審議会議事録によれば、本年5月30日に開かれた審議会で、弁護士費用の敗訴者負担制度を基本的に導入することで一致し、その上で例外扱いを認めるべき訴訟類型、負担させるべき弁護士費用の定め方について引き続き検討することとなったとされています。

 かかる動きは、1950年代に田中耕太郎最高裁長官が訴訟抑止策として敗訴者負担制導入を主張したのを皮切りとして、1964年の臨時司法制度調査会意見書に盛り込まれ、1997年12月の法務省民訴費用制度等研究会報告書で弁護士費用の一部敗訴者負担制度が望ましいとするなど、主に官側からその導入に向けてはたらきかけられてきたもので、訴訟提起を抑止し、「国民が利用しやすい司法の実現」からほど遠いものです。

 原則として弁護士費用は訴訟の勝敗にかかわらず各自の負担とする現行の制度は、明治以来わが国の民事裁判の原則であるとともに、アメリカなど多くの国で支持されている制度です。これに対し、弁護士費用を原則敗訴者負担とすることは、訴訟の提起そのものや判決に至る事案を大幅に抑制することとなる等の理由から、1999年11月にまとめた日弁連民訴費用制度等検討協議会報告書でも、「一般的な弁護士費用の敗訴者負担制度を設けることは問題があることについては、意見は一致した」とされているところです。ここから、原則的に敗訴者負担制度を導入して一部の例外をもうけるとの制度設計は到底導かれません。

 ところが、本年6月13日の司法改革審議会ヒアリングにおいて、日弁連として提出した「『国民が利用しやすい司法の実現』及び『国民の期待に応える民事司法のあり方について』」と題する書面は、まず、「敗訴者負担制度は訴訟提起を支援する作用を果たす側面がある」とした上で問題点を指摘し、原則敗訴者負担制度の導入を容認したものと受け取られる表現になっており、日弁連の立場について誤解を招くものといわざるをえません。

 また、同書面では一部の訴訟類型については「片面的敗訴者負担制度」を導入されるべきと記述されていますが、そこに例示されている訴訟類型の大半では既に判例上片面的弁護士費用の敗訴者負担が容認されており、弁護士費用の(敗訴者)負担のあり方についての制度改革の是非を論じる際の例示としてふさわしくないだけでなく、訴訟の実務に詳しくない人々に現行の制度に問題があるとの誤認を与えるおそれのあるものです。片面的敗訴者負担を拡大することは、原則敗訴者負担制度の導入とは別異に検討すべき問題です。

 当委員会では、1997年10月30日付回答書(別紙)でも述べていますように、これまでの経緯にてらし、広く片面的敗訴者負担を導入することは極めて難しい状況にあると思われますところ、上記日弁連書面のように原則敗訴者負担として一部訴訟類型に実現可能性の乏しい片面的敗訴者負担制度の導入を主張することは、日弁連が原則敗訴者負担制度の導入に賛成との面のみを利用されることを危惧するものです。

 既に新聞報道で、「弁護士費用、敗訴側が負担 制度導入で一致」とされていますが、今回の日弁連の対応は、まさにこのような懸念を現実のものとしているといえましょう。

 長い年月、幾多の敗訴判決を重ねた末に、事業者の法的責任を認める判決がようやく、わずかではありますが生み出され、製造物責任法や消費者契約法等、不十分ながらも消費者の権利保護を高める法令の制定や改正がなされてきていることは、顕著な事実であります。公害被害や女性差別による被害救済でも同様です。更に申せば、たとえば仮登記担保法の制定の経緯等をみても、このような裁判の役割の重要性は一般民事事件においても通常見られるところであります。社会正義の実現を求める市民が生活感覚に基づいて訴訟を提起して初めて、敗訴判決を乗り越えつつ勝訴判決を得て、諸般の制度の改善をもたらすのです。もし、原則敗訴者負担の制度が導入されるならば、大半の事件において、勝訴による弁護士費用の回収の可能性が訴訟提起を促進するより、敗訴による相手方弁護士費用の負担のリスクによる提訴抑制効果がはるかに大きいことは火を見るよりも明らかです。原則的に敗訴者負担とする制度が導入されるなら、国民の司法に対する期待は大きく損なわれ、国民の権利保護のための諸制度の改善も望めなくなるでしょう。それでも、新たに敗訴者負担制度をとるべき訴訟類型があるなら、それを検討するとの対応をとるべきです。

 本問題についての司法改革審議会の審議は最終段階に入っているとうかがわれ、今後の動きが大変危惧されるところです。よって、日弁連として、緊急に、本要望の趣旨記載のとおり、要望いたしますとともに、全国の弁護士の基本的活動に大きく影響を与える問題でありますので、本要望書を日弁連理事の皆様にご送付いただきたく、あわせて要請いたします。

 

添付資料

  資料1 2000年5月31日  朝日新聞記事

  資料2 同   年5月30日  司法制度改革審議会議事概要

  資料3 同   年6月13日  同審議会議事概要

  資料4 同   日       日弁連の説明資料

  資料5 1999年11月    日弁連民訴費用制度等検討協議会報告書

  資料6 2000年6月13日  東弁消費者問題特別委員会意見書

  資料7 1997年10月30日  日弁連消費者問題対策委員会回答書