敗訴者負担制度−じん肺訴訟

文京協同法律事務所 山 下 登 司 夫


1 じん肺は、労働現場での粉じんの吸引によって起こる不可逆性、進行性の職業 病で、わが国における最も深刻悲惨な職業病として、1960年にじん肺法が制定された。しかし、その後もじん肺防止対策は二の次、三の次とされ、じん肺法が制定された以降も、療養を要する重症のじん肺患者(管理4及び管理2・3合併症)だけでも毎年新たに1200〜1400名の規模で発生し続けている。じん肺患者と遺族は、自らの権利救済とじん肺の根絶を目指して、1970年代後 半から企業や国のじん肺加害責任を追及するじん肺訴訟が次々と提起され、これ までにじん肺加害企業の責任を認める38件の判決が出されており、また、80 件以上の訴訟が和解で解決をしている。さらに、国の炭鉱夫じん肺の責任を認める判決も勝ち取ってきている。
  その意味で、今日においては、じん肺加害企業の責任は司法の場においても動かしがたいほど明確になっている。また、じん肺加害企業が責任を逃れるために もち出す、消滅時効についても、その救済の幅を拡大させており、少なくとも、和解においては、裁判所が時効差別のない和解案を提示し、この和解案で和解が成立する状況になっている。

2 しかし、じん肺訴訟を提起した当初においては、「果たして勝てるのか」、「時効問題を突破できるのか」という思いで、じん肺患者・遺族が闘いに立ち上がった。これまでを振り返ると、じん肺加害企業の責任は認めるものの、一審判決の 賠償額を大幅に切り下げ、かつ、多くの原告を時効で切り捨てる判決(北松じん肺訴訟・福岡高裁判決)などが出されるなかで、原告団・弁護団と支援団体は、 最高裁宛の100万名署名に釈迦力に取り組み、破棄差戻しの判決を勝ち取るなどして、今日の到達点を築き上げてきたものである。
  弁護団が、当初の原告たちに、「もし敗訴した場合、企業の弁護士費用まで皆さんが負担することになる」と説明したら、果たして、闘いに立ち上がったであろうか。
 否である。


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