パチンコ店営業許可取消訴訟

三多摩法律事務所 小林克信


1 事案の概要

 本件は、パチンコ店の営業が許されない第1種住居専用地域に、パチンコ店の専用駐車場がはみ出しているにもかかわらず、都公安委員会により営業許可がなされた事案です。地域住民が、静穏な地域環境を守るために、違法な営業許可を争いました。 
 本件パチンコ店の建設計画が持ち上がったのは、平成5年です。パチンコ店の建設・営業を計画していたA社は、近隣住民に対し、本件パチンコ店の建物は、1階部分が本件パチンコ店、2階及び3階部分が駐車場であると説明していました。パチンコ店自体は、近隣商業地域に存在するものの、2階、3階の専用駐車場への誘導路の一部がパチンコ店の営業が許されない第1種住居専用設置されている構造でした。
 その後、近隣住民の反対運動に直面したA社は、パチンコ店の営業と駐車場を切り離すために、ビルを建設するにとどめ、ビル内のパチンコ店の営業、駐車場の経営はそれぞれ同族会社のB社及びC社が行うことにしました。A社、B社及びC社は、法人格こそ異なるものの、当初はいずれも同一人物が代表取締役を兼ねていました。
 東京都公安委員会は、本件駐車場をパチンコ店の専用駐車場にしないことなどの誓約書を形式的に提出させ、さらにA社が、駐車場の営業を表向きA社とは関係のないD社が行うよう変更した後に営業許可処分を出しました。
 これに対し、近隣住民は、公安委員会とパチンコ店との密接な関係から脱法行為が行われたのではないかとの疑いを強め、平成6年2月に、行政不服審査法に基づき、異議申立をしましたが、行政不服審査法第4条の「行政庁の処分に不服がある者」に該当しないとして、却下されてしまいました。

2 行政訴訟の提起

 このように、残念ながら行政不服審査手続きはほとんど機能していません。
そのため近隣住民は、パチンコ店の営業許可処分が違法であるとして、東京地裁に取消訴訟を提起しました。本案の争点は、第一種住居専用地域にはみ出して設置されたパチンコ店の駐車場が風営法の「営業所」に該当するかであり、駐車場が「営業所」の一部であるとされれば、本件営業許可処分は違法となるのです。しかし、取消訴訟の常として、そもそも近隣住民に原告適格が認められるかが最大の争点となりました。風営法の営業許可処分では、風俗営業施設から一定の距離に存在する保護対象施設の設置者には原告適格が認められており、近隣住民もパチンコ店の営業許可の取消を求める法律上の利益を有すると私達は主張し、最高裁まで争いました。しかし、地裁、高裁、最高裁のいずれも、近隣住民らの原告適格を否定するものでした。本件営業許可処分が適法か否かは全く審理されないまま、取消訴訟は私達住民側の全面敗訴で終了し、違法な行政処分は放置されたままとなりました。

3 損害賠償請求訴訟の提起

 近隣住民は、最高裁への取消訴訟の上告中に行政訴訟の限界を感じ、営業許可処分の違法性を明らかにするために、本件パチンコ店の営業によって、平穏に生活し、営業する権利を侵害されとことを理由に、東京都とパチンコ店(B社)、ビル所有者(A社)に対し、損害賠償請求訴訟を提起しました。
 東京地裁八王子支部は、原告らの訴えについて丁寧な審理を行い、平成13年5月に判決が出されました。判決主文では、原告の損害が認められないとして請求棄却でしたが、理由中で、本件駐車場はパチンコ店と同一の建物に存在し、その管理・運営がパチンコ店と同一の経営主体によってなされているなど、社会通念上両者が一体であると認められると判示したのち、本件営業許可に至る経緯、本件営業許可後の本件駐車場の営業状況を詳細に認定し、A社お及びB社が脱法的な方法によって営業許可を取得したと判断しました。さらに、本件営業許可が「偽りその他不正の手段により当該許可又は承認を受けた」(風営法8条1号)ものであることをも認め、都公安委員会が、その事実の存在を認識してから相当長期間が経過するもなお何らの措置を講じない(不作為)ために、公安委員会の裁量権を逸脱していると評価できるような場合には国家賠償法上違法となりうるとも判断しました。
原告ら住民は、本件国賠訴訟の判決を受けて、同年6月14日に都公安委員会に違法な営業許可処分の取消を行うように要請しました。都公安委員会は、本件国賠訴訟判決後約2か月を経過した7月31日に右判決の理由中の判断の趣旨に従って、第1種住居専用地域にはみ出している駐車場部分の使用を禁止する措置をとりました。本来は、営業許可が違法と判断されたのですから、営業許可の取消をすべきですが、それをせずに、はみ出し部分の使用を禁止するに止めたのです。しかし住民側は、敗訴した国賠訴訟により、違法な駐車場の使用を禁止させることができ、原告(近隣住民)の目的はほぼ達成され、実質的には住民勝訴の判決と評価してよい結果となりました。

4 弁護士報酬の敗訴者負担制度について

 本件では、行政訴訟は地裁、高裁、最高裁でいずれも敗訴し、国家賠償訴訟でも結論的には損害賠償は認められず敗訴となりましたが、その判決内容を契機に行政により違法状態が解消されました。住民は、敗訴をしても、その目的をほぼ達成することができました。違法状態を解消できた結果は、社会的にも好ましいことです。この場合に、行政訴訟で敗訴した地裁、高裁、最高裁の相手方の費用、及び国家賠償請求訴訟での相手方(国、パチンコ店等)の弁護士費用を負担しなければならないとしたならば、到底、住民は裁判の提起をすることが不可能です。我々住民側弁護士も行政訴訟の提起や国家賠償訴訟の提起を住民に勧めることができません。また、裁判で判決主文では勝訴した行政や企業が、客観的には違法な行為を自らしていながら、その是正を求めるにすぎない住民に、行政・企業が自らの弁護士費用を負担させるというのは、いかにも不合理です。
 本件事案は、弁護士報酬の敗訴者負担の不合理性を端的に示すものです。

(なお、詳細は、自由と正義の2002年4月号をご参照下さい。)


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