敗訴者負担制度の問題点と圏央道・高尾山天狗裁判

八王子合同法律事務所 関島保雄


 圏央道・高尾山天狗裁判は圏央道工事差止請求訴訟と事業認定取消請求訴訟です。
 原告は前者が約1300名、後者が約900名ですが、中央自動車道と圏央道の交差するジャンクションが予定される裏高尾町住民は30名前後で、それ以外の原告は八王子市内を中心に都内や全国から集まっています。
 これらの原告が裁判を提起した目的は、自分の財産や権利を護ろうとするだけではなく、むしろ、自分のことよりも、年間260万人が訪れる高尾山という貴重な自然環境を護り、多くの市民や将来の人々のために豊かな自然環境を残そうとするものです。

 これらの原告は自分のことよりも寧ろ他人のために裁判にかかる弁護士費用や印紙代、コピーや切手代などの費用をカンパで出し合って裁判を提起し維持しているのです。
 それでも原告数が多いので印紙代だけでも数百万円かかりますし、弁護士費用や裁判を維持する費用だけでも数百万円と大変です。
 このような裁判の訴訟代理人になるのは自然保護運動に共鳴して一緒に裁判を闘おうという気持ちの弁護士が参加してくれますので弁護士費用が少なくても代理人になってくれています。

 ところがこのような裁判に弁護士費用の敗訴者負担制度が出来たら裁判を提起すること自体困難になります。
 元々自然保護のために高速道路等の公共工事の差止が裁判で認められる可能性は従来の判例を基準にすると困難です。
 高尾山天狗裁判は道路建設による大気汚染や騒音による人格権侵害だけでなく自然環境権や景観権、自然享有権などを根拠に差止請求をしています。
 道路の自動車排気ガス差止に関して尼崎公害裁判や名古屋公害裁判では差し止め請求を認める画期的な判決が出ましたが、それは深刻な喘息患者が発生している場合です。圏央道のようにこれから作られようとしている場合で豊かな自然環境を自動車専用道路の圏央道ジャンクションやトンネル工事から護ろうとする場合は深刻な身体的被害がまだ発生していませんし予測も困難です。まして自然環境に対する環境権・自然享有権・景観権で差し止めを認めた判例はありません。
 このような差止請求訴訟は従来の判例から見れば敗訴の可能性が高い裁判ですから、敗訴者負担で原告側で被告の弁護士費用を負担するとなると、被告には日本道路公団や国に弁護士が付きますから、これらの高額な弁護士費用を負担する危険性を覚悟して提訴せざるを得なくなります。敗訴した場合に相手方弁護士の高額な弁護士費用を負担する覚悟が無ければ訴訟は提起できませんので、敗訴者負担制度が出来るとこの種の訴訟の提起が困難になります。
 また事業認定取消請求訴訟も勝訴するには困難が伴います。土地収用の手続きが進み、収用が執行されて工事が完了すれば事業認定取消請求訴訟自体、訴訟をする利益がないとして訴えが棄却される危険性があります。最近の土地収用委員会の審理は早くて、収用手続きが執行されて工事が完成される危険性が高いのです。そうすると取消請求訴訟も敗訴の可能性の高い裁判と言うことになり、敗訴者負担によって被告の弁護士費用まで負担すると言うことになれば、この種の訴訟を提起することも困難になります。

 元々、新しい時代の価値の転換を求める裁判は過去にも多数あります。その当時はとても勝ち目がないと思われた訴訟も時代の流れ、被害救済の要請の前に新しい理論の発展が裁判所を動かし勝利判決を獲得してきたのです。公害裁判の勝利判決は全てそのような困難な闘いの中から勝ち取られてきました。裁判提起の初めから勝利を確信して提訴した裁判は一つもありません。
圏央道高尾山天狗裁判は現在の高速道路・自動車専用道路の不必要性を前面に出し、年間260万人が訪れると言われる豊かな自然環境の高尾山を護ろうとする裁判です。
 裁判提訴以来、道路公団の巨額な赤字問題、日本国家の巨額な財政赤字が国民に明らかになり、これ以上高速道路など自動車専用道路を建設することは中止しようとする世論が高まっています。圏央道は1984年に計画が明らかになりましたが、全長300キロの内現在は30キロ弱しか開通しておらず、全面開通の見通しさえ立っていません。しかもその建設費には10兆円が掛かるといわれていて、もはや不要な道路であるばかりか巨額な赤字を国民に押しつけるものであることが明らかになってきました。
 このようなことから圏央道工事阻止の裁判は明るい局面を迎えています。
 また裁判提起で私達は圏央道トンネル工事により高尾山の地下水脈破壊による環境破壊の危険性を指摘してきました。ところが現実に昨年10月頃から高尾山トンネルの一つ手前の八王子城跡トンネル工事で42軒の井戸涸れ被害が発生し、今年2月には地下水位が13メートルも低下する事態が発生し、今年3月以降トンネル工事は地下水位低下の防止が出来るまで止まっています。 
 我々が指摘した自然破壊の危険性が現実に起き始めているのです。
 圏央道高尾山天狗裁判も勝利の展望が開けつつあります。
 このように事態や時代は変わっています。訴訟提起の初めは勝ち目がないと思われた裁判も訴訟提起後の運動体や弁護団の努力によって勝利を獲得することも可能です。
 そのような裁判を、敗訴者負担制度は初めからあきらめさせるもので、時代の新しい流れを作る裁判や運動を阻害する危険な制度で絶対に認めるわけには行きません。


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