新横田基地公害訴訟と敗訴者負担問題

八王子合同法律事務所 吉田栄士


1 新横田基地公害訴訟は、国とアメリカ合衆国(以下「アメリカ」という)に対して、損害賠償と夜間早朝の飛行差止を求めている裁判である。提訴は1996 年、1997年、1998年と3次にわたり、国に対する裁判の原告は、約60 00人という大型訴訟である。

2 国に対する訴訟は併合され一本化したが、アメリカに対する訴訟(対米訴訟)はいずれも分離され三本となった。対米訴訟は、外国国家の民事裁判権が争点であったが、この問題については最高裁判決はまだなかった。第1次対米訴訟(9 6年提訴分)は、2002年4月、最高裁において初めて判決が下され、「米軍の 飛行行為はアメリカの主権的行為であるから、民事裁判権は免除される」と判断 された。1審、2審に続く原告敗訴であった。
  国に対する訴訟と対米2次、3次訴訟は、2002年5月に東京地裁八王子支部で、1審の判決が出された。旧横田基地訴訟と同様、損害賠償は認められたが差止は認められなかった。2次、3次対米訴訟も直前に出された1次最高裁判決 と同じ理由で敗訴した。いずれの裁判も控訴している。

3 横田基地の騒音訴訟は、旧訴訟、新訴訟を通じ30年近い歴史がある。これらの訴訟で貫かれている原告らの悲願は「せめて夜だけは静かに眠らせてほしい。」 というものである。しかしこれまで差止は認められたことはなかった。
  新訴訟は差止実現のため、アメリカを直接相手とし、また、原告数をこれまでとは違う大量のものとしようとすることで始められた。「1万人訴訟」と銘打ち、旧訴訟が終了した1994年から2年間の訴訟団勧誘運動を続け、1万人には達しなかったものの、約6000人という大訴訟団が実現できた。
  これだけの人数の原告を集められた原動力は、損害賠償だけでなく、夜間早朝の飛行差止を改めて求めたこと、初めてアメリカを直接訴訟の相手としたことに対する真摯な共鳴であった。
  6000人の原告を集める事は実際は大変なことであった。旧訴訟の原告団の幹事らと弁護団とが、それこそはいつくばるようにして各地域で原告集めの活動に専念した。大変厳しい活動であったが、6000人の原告が立ち上がったとい う事は、それだけ差止の要望が強かったからだと言える。
  差止はこれまで認められたことはなかった。新訴訟においても認定は極めて困 難である。さらに、アメリカを相手とする対米訴訟は初めての事であり、これまた展望は厳しいものであった。それを説得し、納得してもらった上で、それ以上 に差止は認められるべきだという確信によって、この大きな訴訟を立ち上げるこ とができた。

4 今回の判決でも差止請求と対米訴訟は認められなかった。また、損害賠償につ いては約24億円という多額の賠償金は認められたが、すべての原告らの請求が認容されたわけでなく、種々の理由で1000人以上の損害賠償は否定された。

5 新横田基地訴訟の相手方は、国及びアメリカである。国の代理人は弁護士ではなく訟務検事と事務官である。また対米訴訟は応訴すら拒否されたのでアメリカの代理人はついていない。
  そうすると、「弁護士報酬の敗訴者負担」制度が取られても、この訴訟については影響がないのではという指摘もあり得よう。
  しかし、原告団の結成と組織の維持、厳しい訴訟活動に苦心してきた立場からすれば、この制度が採用されたならば、もはや、このように大規模な訴訟団の結成、大規模訴訟はできないのではないかと思う。
  敗訴者負担制度は、「敗訴」というものに一定のペナルティを加えるものである。「敗訴」の意味が大きくのしかかる制度である。つまり、負けを覚悟の訴訟はできないというものである。
  「差止請求」と「対米訴訟」、これはある種、負けを覚悟の意見表明的側面を持つ訴訟である。被害住民は、一般の市民であるので、国とアメリカ国を相手にする事自体で、普通、なかなか訴訟に踏み切れるものではない。さらに、敗訴に負担があるという宣伝がなされるとどうなるだろうか。まずは、多くの住民は裁判する事を後込みするであろう。今回の訴訟で、国は様々な嫌がらせ的な訴訟進行を繰り返してきた。裁判所に協力もせず訴訟を遅延させてきた。国は大規模訴訟を阻止するためには、これからも手段を選ばないと思われる。
  実際に、大勢の弁護士を訴訟に加えることもあり得よう。またアメリカも、最高裁判決が出た以上、内外国人をまじえた大弁護団を組織して、応訴し、費用負担をさせる事によって、今後このような訴訟を起こさせないように方針を変更す ることも十分考えられる。

6 以上のように考えると、今回の「弁護士報酬の敗訴者負担」制度は、まさに、私たちがやってきた、国や外国政府を相手とする困難な裁判を根底から崩す制度と言わざるを得ない。このようなことで、「せめて夜だけは静かに眠らせてほしい。」 という当たり前の要求を、多くの住民が声にすら出せなくなることは許しがたい事である。
  私たちは、「敗訴者負担制度」を絶対に認めない、全力で反対するものである。


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