クロアティアの総督
P. Mérimée
クロアティアに,右の目がめくらで,左の耳がつんぼの総督がいた.
その右目で彼は,人民の悲惨さを見,左の耳で太守達の嘆きを聞いていた.
そして,多額の財宝を所有する者は咎められ,彼に咎められた者は死なねばならなかった.
このようにして彼は,ユマネイ=ベイとザンボリッチ太守を斬首せしめ,彼らの財宝を奪った.
遂に神は,彼の罪過を憤りめされ,亡霊どもをして彼の眠りを悩ましめることを許した.
そこで毎夜,彼の臥所の足元にユマネイとザンボリッチの亡霊が立ち,どんよりした陰気な眼差しで,じいっと彼に見入った.
星星の光が薄らぎ,東の空が薔薇色に染まる頃,語るも恐ろしいことながら,2人の亡霊は嘲弄して挨拶するかのように,彼に深深と頭をたれた.
そうすると,支えを失った彼らの頭は転がり落ちて,敷物の上を転げ回り,そのときようやく総督は,眠りに入ることができた.
ある夜,冬の寒い晩のこと,ユマネイは彼に話しかけた.
「私達はずっと以前から,貴方に挨拶しております.それなのに何故貴方は,私達に挨拶を返そうとはなさらないのですか?」
そのとき総督は,身を震わせて立ち上がった.そして彼らに挨拶しようとして頭を下げると,彼の頭がひとりでに転がり落ちて,敷物の上をコロコロと転がった.
("La Guzla" from 『メリメ全集』1,河出書房新社,'77)