インフレーションと金融政策


 正直、インフレ・ターゲッティングの理論はあまりよく知らないが、その理論には疑問が多くみられる。

 まず問題なのは、クルーグマンの議論が代表的だが、こういった議論の仮定には「貨幣数量説」が多く存在することである。

 貨幣数量説は、マネーサプライと一定である貨幣の流通速度の積が名目GDPに等しくなるというものである。なぜこれが問題化というと、インフレ・ターゲッティングではマネーサプライの変化率の期待値と物価の変化率の期待値が比例するという議論があるが、貨幣数量説が成り立たない、具体的には貨幣の流通速度がマネーサプライの変化や他の要因によって不安定な場合など、には成り立たないからである。特に、現状のように債券利子率が低く貨幣と債券が区別できない、計量経済学的には「貨幣需要関数が非定常になる(共和分していない)」流動性のわながあると思われる状態では貨幣数量説の成立は疑わしいだろう。

 さらに悪いことには、たとえ貨幣数量説が成立しているからといって実質GDPが貨幣数量説の式において内生ならば、具体的には実質GDPがマネーサプライに影響を受けるならばその影響は単純には計れない。まあ、マネーサプライが外生変数として用いられるAD-ASモデルでは、流動性のわながなければマネーサプライの上昇は総需要曲線の右シフトを通じて価格を上昇させるので、この点はさほど問題ではないかもしれない。


 また、中央銀行にプリンシパル-エージェント理論を適用してインフレ-ターゲッティングを行おえという意見もきかれるが、これにも問題がある。第一に日本銀行は物価の安定と主に金融システムの安定も担っているので物価の上昇を第一の目標として無差別な量的緩和政策を行うと金融市場に多大な影響を及ぼしてしまうし「物価の安定」は維持できるのかという問題。第二にマネーサプライの拡大が伸びないのが果たして中央銀行だけの責任なのか、信用創造を担う銀行の財務は金融庁の管轄であり、現在はそこで多大な問題が生じているのだから金融庁にも多大な責任がある、という問題。第三に一般には物価指標だけが損失関数に入れられるべきでなくGDPも同時に入れられるが、GDPの成長率は政府の政策にも大いに依存するという問題。第四に資産バブルにおいてもCPI上昇率はそれほど高くなかった80年代をふまえると、CPIなどを単純に指標として利用していいのか、というそもそも物価を計る指標の問題。他にもあげられるだろうが様々な問題がある。


 そもそも、いまは「デフレ不況」であり、価格とGDPが共に低いのが問題なのだから価格だけ上げればよいみたいな話はおかしい。価格だけあがってもGDPが低ければ意味が無いのだから。政府の債務残高が数百兆円にも上るといっても、それはGDP成長率が伸びれば物価上昇をともなわなくとも可能だし、物価上昇により債務を解決をするという方法は価格改定コストや貸し出しや債権を多数抱える銀行にも債権の実質価値の低下をもたらすという点で望ましくない。


ということで、とりあえず思いつくまま批判してみました。
私にとっては、インフレ・ターゲッティングは思考実験、あるいは中央銀行の説明責任を明確にする、程度しか意味が無いと思う。万能であるとか最善の策とか平気でいうエコノミストがいたら、それは嘘つきとしか思えない。



 言い訳: 私の専門はミクロ計量経済学。しかも、官僚嫌い。


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2003年2月16日