私と婦人は外へ出た。
「では、改めまして、宜しくお願いします。」
私は挨拶とともに頭を下げた。礼儀のある所を見せておこう、後々役にたつ。
「い、いえ、こちらこそ。よろしくね。」
「さて、これで一応バンドは成立しましたね。練習できますね。」
「え・・・?このバンド、ボーカルとドラムしかいないんですか?・・」
婦人(子持ち)はヒクッと眉を動かし言った。
「いやぁ、最初はギターとかベースとか入れようと思ったんですが、ここまできたらも<
ういいかな、と思いまして。」
「い、いれましょうよ。ボーカルとドラムだけなんて、売れませんよ。」
子持ち婦人はバンドについて知ったような事をいう。これだから・・・子持ち婦人なんて家に帰って夕食の準備でもしていればいいのだ。
しかし、まあ長いものには巻かれろというので、ここは巻かれといた。
「そうですね、やっぱりいれましょう。」
こうして私は、太鼓の鉄人をこなす少年の母をメンバーとして加えた。
多分素質はかなりのモノを持っていると思われる。
ちなみに私がドラム経験を聞いてみたところ『こう見えても私、昔は文学少女でしたのよ、フフッ』と、笑みをこぼした。
正直、呆れた。「でしたのよ」も無いだろうに。
しかし、私とてこう見えてもカラオケで七十五点以上を取ったことが無い身。
とやかく言える筋合いは無い。
そういえば余談だが、カラオケで、ステージが鏡張りの部屋は勘弁してもらいたい。
熱唱している自分の姿を鏡を通じて見るのは気恥ずかしい、し、何よりその姿を様々に多角度から他人に見られるのはどうにもこうにも耐え難い。
特に天井の鏡、私の頭皮など映し出して何を楽しめと言うのか。
「あなた、つむじが右回りね」「そういうあなたは左回りねっ」「あははっ」「ウフフッ」「こーいつーぅ」などという会話で盛り上がれとでも言うのだろうか。
という訳なので、私はカラオケにはあまり行かない、断じて歌が下手くそだから嫌いなのではない、鏡が気にくわないのである。
婦人にカラオケは好きですかと問うと、「好きだが、それ以上に夫と息子を愛している」という、よく意味の分からない比較をやってのけた。
ここまでくると太鼓の息子がそれからどうなったか?という疑問はこの婦人には通用しないだろう。『愛している』その答えだけで少年は生きていける、多分。
さて、次の目標である「ギタリスト」を探しに、キャラ作りか天然か良く判らない子持ち婦人(エプロン着用)と、美しく気高い私(少々謙遜気味)は、駅前へ向かった。
婦人が言うには『駅前にはギターを持ったお兄ちゃん達がたくさんいて怖い』という息子さんの話だそうだ。
成る程、怖いお兄ちゃんが怖いとは、中々説得力のある文法である、『怖くないお兄ちゃんが怖い』等とぬかしていたのなら私は多分、太鼓のバチで息子を殴り飛ばし、更に頭をドラムに見立てて16ビートを刻むだろう。
そんなトンチンカンな日本語を唱えるガキはさっさと塾へ行って「あいうえお」のお勉強でも習ったほうがいい、そして帰りに冷たいコンビニ弁当を店員からチンしてもらいモソモソと食せばいいのだ。
駅前には都合よく、柄が悪く、ギターを持って突っ立っている青年がいた。
「そこの青年、そこの青年。」
ギターの男はアアン?!といった顔で私を睨み、言った。
「アアン?!」
「お前、私たちのバンドのギタリストになってくれないか。」
素直に頼んでみた。
「断る。」
むぅ、こいつ、どうやらNOと言える日本人らしい。まあ、この程度の男、私の色気にかかれば何の問題も無いのだ。
「君、お姉さん達とイイコトしない?(ハート)」
「な・・・なに・・・?」
男は多少たじろいだ。
所詮男と言うのは性欲で生きているようなものなのだ、『趣味は読書です!』と言って置きながらその9割方を占めるのがいやらしい本で、『ま、これも一応本だから』と自分を納得させて生きているようなものなのだ。
さて、何にせよもう一押しだ・・・
「君、私とイイコトしない?(ハート)」
「く・・・くっ・・・し、しますっ!」
傍らに居た婦人は少々ショックを受けていたようだった。理由は分からない。
「イイコト・・・とはどんなことでしょう」
男は問う。私は答える。
「バンド」
二人目。ゲット
「んでもよぉ、おれぁ持ってんのベースだげっちょも、ええのがい?」
加わった途端東北弁を発しだした性欲男は聞いた。
「いいのよ、ベースでもギターでも、あなたはギター。言って見れば、『ベースだけどギター役』っていうコンセプトで」
我ながら素晴らしいアイデアだ。婦人もウンウンと頷いている、『よく分からないけどうなづいときゃ間違いねぇや』的な考えだろう。見上げた根性だ。
「そんなもんだがなぁ」
しぶしぶながら田舎者も納得したようだ。
ここまで来ると私の知ったかぶりっぷりも見上げたものだ。知ったかぶりっぷり、なんか可愛い。
ま、なんにせよこれで三人だ。
太鼓の鉄人をこよなく愛する息子を持つドラマーの婦人。
柄が悪いが性欲は一丁前、ベースだけどギター役の田舎男。
そして才色兼備な私。いい感じだ。
「とごろでよぉ」
良い気分なところの私に田舎男は口を出した。
「バンドの名前決めねぐでいいのがい?」
確かに・・こいつ、東北出身なくせに良い所に気がつく。そもそも決まってないことを良く知っていたもんだ。
「そうね、・・・じゃあ、モー○ング娘に対抗して・・・モーニング息子なんてどう?」
二人は結構嫌そうな顔をした。なにもそんな露骨に顔に出さなくてもいいだろうに。
「じゃ、・・・じゃあ、ちょっと変えて グッドモーニング!息子」
二人は・〈以下同文〉
「よ、よし、じゃあ日本人ぽく。『朝の息子』」
「なんが、嫌だべさ・・・それ。」
田舎君の顔は相当嫌そうだった、私の力作にケチをつけるとは・・・
言って見れば、普段まるでやる気がないがスーパーファミコンが起動しづらい時だけいきり立ち、ソフトの裏を思いっきりフーフーし、画面起動に成功すると妙に得意げな奴を見るようなものだ!!・・・長い。
おまけに自分で言っておいてよく意味が分からない。落ち着け、私。
「ちょっとあなた。ちょっとあなた」
私が振り返ると、なんと婦人警官が立っていた。私は少々驚いた。
どうやら先程のゲームセンターで、婦人がちゃっかり呼んでいたらしいのだ。「あはは、ゴメン、ゴメン・・・メンゴ!」
婦人がおちゃらけてごまかす。何がメンゴだ、馬鹿にしてる。じゃあ何か、パソコンはコパンソでパンツはツンパと呼べばいいのか、冗談じゃない。
私は婦人警官に事情を話す全く手のかかるバンドである。
「そういうことですかぁ、そのハゲだめね。」
「ええ、てんでダメです。」