VDT作業者の衛生管理

(1998年作成)

  

労働科学研究所 健康管理研究グループ 特別研究員  阿部眞雄

 

●はじめに

 

  コンピューターを利用する人々の健康障害については、約30数年前より報告されており、過去には「キ―パンチャー病」とも呼ばれ、主に職業性頸肩腕障害や腱鞘炎対策として衛生管理が行われていた。労働科学研究所の小木は、当時から、コンピューター作業者の健康障害は視覚疲労、筋疲労、神経疲労であると記述していた。確かに、その当時のコンピューター機器は明らかに非人間的な構造であり、作業設計も人間の生理的な限界を考慮しておらず、キーは硬く、作業量は多く、作業者の健康に配慮する事業者は少なかった。

 

  さて、現在はどうであろうか。過去のグリーンディスプレーに比較し、現在のCRTや液晶表示装置は格段の進歩を遂げ、見やすくなった。キーボードもキータッチは軽くなり、マウスなどのポインティングデバイスが用意され、頻回にキーボードを打つこともなくなりつつある。CPUの処理速度もめざましく速くなり、ダム端末時代の反応の遅さにいらいらしていた頃が嘘のようになってきた。ソフトウェアも直感的に理解できるようなGIFが主流となり、操作性は格段に向上した。

 

  これらのコンピューターの使い勝手のすばらしい向上の結果、「VDT症状群」は減少し、過去のものとなったのであろうか。

 

  衛生管理を行う場合、職場や労働者の健康状態を評価し、安全衛生計画を立案し、実行することが基本である。今回は、VDT作業者の健康管理が必要なのか、必要とすれば何を実施したらよいかについて、私見を述べたい。

 

●VDT症状群

 

  「VDT症状群」という疾病分類はないが、コンピュ―ター作業者に比較的多く集積傾向の見られる非特異的症状群の総称としてご理解いただきたい。このVDT症状群には、従来から視覚負担症状、筋骨格系負担症状、精神神経系負担症状の3症状群が含まれると信じられている。これらの原因は、視覚負担の強いディスプレーの注視、機械操作のため不自然な同一姿勢、機械ペースで進む仕事によるストレスなどであるとされている。

 

●VDT症状群の労働関連性

 

  VDT症状群の労働関連性を検討する目的で、VDT健康診断の問診票データを分析した。

 

  まずは、視覚負担症状と作業時間の関連について、図1に示した。縦軸は訴え率である。訴え率とは、症状の強さに重み付けを行い、症状群の重み得点の合計点数を最大重み得点に対する割合で示したものである。すなわち、5個の症状があり、症状得点の項目あたりの最高点が5とすれば、最大重み得点は5項目×5点=25点となる。ここで、ある作業者が2つの症状を訴え、その強さが3と2であった場合、その症状群の得点は3+2=5となり、訴え率は25点中5点となり、20%と計算される。

 

図1 視覚負担症状

 

  VDT健診の問診票のデータから、個人ごとにこの3症状群別に訴え率を計算し、作業時間との関連を検討した。作業時間は、一連続作業時間と一日総作業時間との組み合わせで4段階に分類した。一連続作業時間が1時間を超えず、一日総作業時間が4時間を超えることがない群を「ほとんど作業のない群」に、一連続作業時間は1時間を超えるが総作業時間は4時間を超えない群を「軽作業群」、一連続作業時間は1時間を超えないが、一日総作業時間が4時間を超える群を「中等度作業群」、一連続作業時間は1時間を超え、一日総作業時間は4時間を超える群を「高密度作業群」に分類した。

 

  確かに、図1では、作業の増加とともに訴え率が上がり、VDT作業と視覚負担症状の間に量反応関係、すなわち、何らかの関連があると判断される。

 

  同じように、図2に拘束姿勢負担症状群とVDT作業量との関連を示した。

 

  拘束姿勢負担症状群とは、肩こり、背中や腰のだるさなど、姿勢が拘束されることにより起こる症状群であり、VDT作業では多く見られる症状であるといわれている。男女の差はあるが、ここでも拘束姿勢負担症状群とVDT作業量との関連が推測される。 

 

全身疲労症状群は、頭痛、めまい、疲れがとれないなどの、特定の臓器障害を推定し得ない非特異的な症状群で、いわゆるストレス症状とも推測される症状群である。これもVDT作業量の増加とともに症状が増加する傾向がうかがわれる。

 

図2 拘束姿勢負担症状群

 

  以上のように、以前から指摘されているVDT症状群である、視覚系負担症状、筋骨格系負担症状、精神神経系負担症状は、現在でもVDTと関連があることが推測される。

 

●VDT症状群の原因と対策

 

  VDT症状群の原因には、VDT機器の人間工学的な不備、非生理的な作業設計、職場室内環境などがある。職場室内環境の問題点としては、スペースやグレアなどがあるが、それが原因というよりは、VDT機器自体が今の職場環境に適応するように作られていないことが大きな原因であると思う。おそらく、VDT機器に合わせた執務環境をつくることは、作業者にとっては居心地の悪い場合が出てくる可能性はある。例えば、従来の事務作業であった机上のスペースも大きなディスプレーが机の上を占領し、狭隘感を強く感じることになる。現在ではFPD(フラットパネルディスプレー)が安くしかも高性能になったため、室内環境を大きく変更せずに使用できるようになると思われる。

 

  VDT機器の人間工学上の不備には、「キーボードが小さい」「画面が見にくい」「マウスが使いにくい」「ソフトウェアがわかりにくい」などさまざまある。最近は、それらが原因となって起こるさまざまなストレスを改善するための道具が販売されている。例えば、アームレスト、パームレスト付きマウスパット、ティーチングアシスト用ソフトウェア、拡張テンキーパッドなどさまざまあり、VDT機器の使用方法に合わせて、このような小道具を用意すると快適な作業環境に近づけることができる。機器の操作不良感のあるなし別の全身疲労症状とVDT作業量との関連では、操作不良感を感じている作業者がそうでない人に比較し、疲労症状が多い傾向にある。

 

  東京都予防医学協会では、VDT健康診断を受託している企業・自治体などを中心に、職場巡視、健康診断事後措置、衛生教育などのお手伝いをさせていただいているが、職場巡視や面談から感ずることは、多くの作業者の方々が機械に使われ、一つ一つのストレスは小さいが、その小さいストレスがたくさんあり、その中でもがきながら仕事をしているようにも見える点である。少しでも作業環境を改善し、よりよい作業環境の中で仕事ができるような配慮が望まれる。そのお手伝いの道具の一つとして、「新VDT健康診断問診票」裏面をご利用いただければ幸いである。作業者自身が、今の使い方を点検し、機械に使われるのではなく、少しでも作業者自身が自律的に環境改善に関与するための道具として使っていただきたい。

 

  紙面の関係でVDT症状群に対するすべてのチェック項目を載せることは不可能であるが、その入り口として利用していただきたいと考えている。