[第2版の後書き]


 第2版では表紙を作り替えた外、ディスカスイメージの差し替えやそのコメントの加筆訂正などを行いました。(詳細は更新履歴のページをご覧ください)。 尚今後も小規模な更新は随時行っていきますので、内容変更に付きましては履歴の項をチェックして下さい。

 この間飼育技術に関わるいろいろな質問があり、又「飼育ノウハウを公開してはどうか」というメールも戴きました。既に初版より多少の程度はご披露している積もりですが、今回それ以上の飼育技術に関する加筆は敢えて控える事と致しました。もともとギャラリーが主目的ということではありますが、加筆を控えた理由をご理解を戴く為に、(その代わりという訳ではありませんが)飼育技術に対する考え方についての私の見解をまとめて掲載しておくこととしました。
 (尚以下の記載は数本の水槽で四苦八苦している初中級者レベルを対象としており、オーバーフローにROを組込んだ集中濾過システムを構築し、”アマゾンを超える”水作りや水質管理を目指しているような上級者には無縁の内容ですから、上級者は以下の各項は読み飛ばして下さい。)
 

(1) ワイルドとターコイズ

 一口にディスカスという名前で括られますが、私の経験からはワイルドとターコイズは飼育方法も楽しみ方も異なる違った生き物として区別されます。

 ワイルドはアマゾンの広い自然の中で群れを作りながら生まれ育ったもので、そこには天敵がいる一方そこでは何時でも好きな場所に移動でき、自然の餌を摂取し排出物は自然により浄化されていきます。アマゾンの環境は抽象された水温,PH,硬度などのデータだけで尽くせるものではなく、所詮水槽にアマゾン環境を実現できるはずもありません。
 即ちワイルドを飼育する人は皆水槽という閉鎖環境を前提とした次善の策を追求している訳で、そこには「これが唯一絶対」という方法はあり得ず、その代わり横並びに数多の方法が有り得ると考えるべきでありましょう。

 一方ディスカスはワイルド同士のF1といえども成長した個体は既にワイルドとは異なる雰囲気を持つようになることから分かるように、環境の影響を受けやすく又それだけ環境順応性が高い生き物とも言えます。従い水槽で何十代も累代繁殖を繰り返してきたターコイズともなれば、もはや完全に水槽環境に適合され(とりわけ自家産ともなれば我が家の餌に慣れ雑菌に対する抵抗力も備え)、野生のディスカスとは相当違った生き物になっていると言って過言ではありません。
 ターコイズを飼い馴らして来た先達やプロ達は、出来る限り平易な飼育環境を目指して来た筈で、アマチュアがターコイズを飼う場合には、「水槽一般の飼育技術」(老廃物の毒性を除去したり、蓄積物の弊害を緩和するなどのことを目的とした水質の維持管理技術)がそのまま有効であると考えられます。

 

(2) 繁殖について

 ディスカスの親が孵化したての稚魚に体表からの分泌物を与えて仔育てする例にみるように、繁殖にはその種に独特の神秘的な要素が含まれ単純に言い切れることではありませんが、広い意味では「繁殖は成長の延長線上にある筈のこと」と考えて誤りではないと思います。(少なくとも成長させられなければ繁殖はあり得ない訳で、「繁殖の技術は成長させる為の飼育技術を土台とする」と言って間違いないと思います。)
 従いターコイズの場合では水槽一般の管理技術に長けてくれば自ずと繁殖に至り、経験を積むうちに労せずして代を重ねられるようになります。一方ワイルドでは昨日までのアマゾンと水槽の環境が違い過ぎる為、先ず自らを水槽環境に適合させられるかどうかという難題から始まり、飼育者もターコイズに対するのとは違った入り方が必要です。
 余程水槽一般の管理技術に優れていたとしても、ワイルドにとっての環境とは水質がどうのということだけではありません。野生の生き物は常に本能的に外敵に備えている筈ですから、逃げ場が無く常時明るい水槽の中でいかにして彼らの緊張を解きほぐすか、飼育技術は先ずそこから始まります。
 水槽という限定された閉鎖水域に閉じ込められることにより、諸々の環境の急変に適応させられなければならないことは勿論、餌も初めて口にするハンバーグなどに慣れる必要があり、水道水などの源水に彼らに有害な含有成分があるばかりでなく、生物濾過水槽では昨今のレジオネラ菌騒ぎにみるように、アマゾン育ちが゜経験したことの無い様々な雑菌との闘いが待ち受けています。ワイルドディスカスは(飼育者と手を携えて)これらの難関をくぐり抜けなければ、(拒食に陥るなどのことは日常茶飯事と言って過言ではなく)彼ら自身の生存を確保することさえ予断を許さない訳で、経験の浅いアマチュアでは繁殖などは到底おぼつかない先のことと考えるのが自然です。

 然しあくまでワイルドの繁殖を追求する人にとっては、運よく若い個体に巡り会い、彼らを水槽環境に取り込むことに成功し成長させられたとしたならば、その延長線上に繁殖行動を見られる可能性が無いとは言えないでしょう。更にこうした個体は水槽の生き物であるターコイズと組み合わせることにより、より容易に繁殖に至る可能性が高まるとも言えます。但し成魚を繁殖に至らしめたのと違い「半分水槽の魚にしてしまえば…」という方法によって、真にワイルドの繁殖に成功したと言えるのかどうかは議論の分かれるところで、彼らが又アマゾンで生きて行けれる個体かどうかは不明ですが、まがりなりには一応当初の目的を達せられたと言えないこともないでしょう。

 

(3) 飼育技術について

 「ディスカスの飼育の醍醐味は繁殖させるところにある」とよく言われ、飼育技術が繁殖技術と重なって語られる点で初心者には「ディスカスとは難しいもの」との印象を与えてしまうことがあります。
 又一口にディスカスの飼育と言っても、水槽一般の管理技術にシクリット特有の気の強さを考慮する程度で間に合う「ターコイズの維持」といったレベルから、未知の部分に踏み込むワイルドの繁殖という段階までには相当な幅があり、経験の蓄積はもとより掛ける費用や手間暇時間には格段の開きがあると想定しなければなりません。
 一方各人はその源水の質は勿論、ストックタンクやプレフィルターの有無、水槽に入る種類とその個体密度、ウエットかドライかという濾過方式の違い、濾過槽の比率やろ材の種類、換水頻度と換水量、餌の種類にその回数、コンスタントに掛けられる時間と費用、或いは水槽の高さや向き、コンディショナーの種類やエアレーションの程度、水草などの有無や日の当たり具合、日中の人影の量などの細部に至るまでその環境条件は実に千差万別であります。(人影の無い環境ではワイルドディスカスに新しい環境を認知させにくいという場合がある。)
 ディスカスはもともとアマゾンの魚であり水槽にアマゾン環境を実現することが不可能である以上、どのような方法を取ろうとも所詮は次善の策であり、こうした途にはゴールも王道もある筈がありません。
 外見上自分よりうまくいっている様に見える人のしていることを部分的に真似してみても(全てを真似れる訳ではありませんから)、必ずしも結果がよく出るとは限りません。例えば一般論として「換水に如くは無し」と言っても、仕事の忙しい人が「出来る時は毎日換水するが普段は1週間以上放っておくこともザラ」というのなら、この人には先ず1週間換水しないでもディスカスが死なない方法を教えて上げなくてはなりません。然しそれは毎日換水をする人の体勢とは違ったものになりますし、「気の向いた時だけの毎日換水」ではそれが必ずしも良い結果をもたらすとは言い切れません。

 書いたものを公開する以上はある程度の責任があり、私はプロの間でさえ方法の分かれるディスカスの飼育に関しては「真似してみたけど旨くいかなかった」という謗りを受けるような中途半端な内容にならざるを得ないなら、反って書かない方がましというような要素の方が多いと考えています。
 水槽一般の維持管理方法については先達の経験が本に載っていますし、外にホームページで紹介してくれている人もいます。それ以上のことは個人の条件に深く係わり、大した経験もノウハウも無い私が恰も正論の如く掲載するのは大変危険な事です。
 メールを頂いた場合には個々のケースで私の分かる範囲でお答えさせてもらっていますが、それでもお返事は考え方としてどういう方に進むべきかという面での提言が中心になり、決して「このようにしなさい」ということは言いません。それは第一に私がその人の状況を完全には掴めない為反って誤ったことを助言してしまう恐れが強いからですが、そのこととは別に、単にテクとして真似しようと思い始めますと、(何故そうしたのかという根拠が不明確なだけに、)結果として上手くいかない場合「道に迷った上泥沼にハマってしまい」、その人にとって失敗が経験として身に着かないと思うからです。

 私自身限られた時間しかディスカスに投入出来ない一介のアマチュアに過ぎない分際で、特に誇れるような変わった工夫は何一つしておりません。ただ趣味としてディスカスの顔色を伺っては試行錯誤している毎日で、決してノウハウを隠している訳ではありませんので、心情のほどご理解戴ければ幸いです。
 最後に或る人の次の助言を紹介しておきます。「ディスカスが餌を欲しがっている時に水替えし、水替えして欲しいと言っている時に餌をやっているような事になっていませんか?」 要するにディスカスと話が出来なければダメということになりますが、このポイントを初心者向けに敢えて一言で言い表しますと「一時に餌をやり過ぎるな」ということになります。

(1997年2月4日) (2月15日一部追記)     


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