我が家ではマンションの一室に5つの水槽を置いて、細々とディスカスをやっておりますが、場所が狭く限られていることと、私の関心が専らワイルドに向いてきたこと、の2つの理由により、今般ターコイズ系のものを殆ど全て整理してしまいました。
この第3版の制作は、ターコイズを整理する前に、皆さんが最も興味を持っておられる「ターコイズディスカスの繁殖」について、出来るところまでは十分に解明し本章を刷新して、ブリーディングを志すキーパー達の役に立つものにしておきたい、と思ったことが動機になっています。
一方私が最も関心を持っている「ワイルドディスカス」については、今一番タイムリーな話題として、一部でインボイス「マディラ」で売られているディスカスを取り上げ、「ノドン・ディスカスの怪」として掲載しました。(容量の都合上旧版までの「野生の保護について」のページは割愛することにしましたが、同章で書いていた「ピラルクなど、マニアが飼いきれないものを買える値段で売らないように」という、私からの流通関係者の方々へのお願いは、今でも心情として強く持ち続けているものであります。)
以下第3版の主要改訂部分である、(1)ターコイズディスカスの繁殖,(2)“ノドン”ディスカスの怪 の各々について若干補足説明をしておきます。
(1) 「ターコイズディスカスの繁殖」 について
ディスカスの卵は産卵後丸二日経過すると孵化しますが、何故か孵化後丸三日間は泳ぎ出すことはなく、孵化した場所に留まります。今回の刷新版ではこの「謎の三日間」の解明に主眼をおきました。
結論的に言いますと、《ディスカスの「発生」には丸五日を要するが、丸二日余り経った段階で形式上「孵化」が起こる》、ということであります。
本版の写真は、孵化後二日目までしか追いきれませんでしたので、完全ではありませんが、遠目には何が起こっているのかよく分からない「謎の三日間」について、その実体を理解し、ブリーディングの際の参考にする上で役に立つものと思います。
(以下蛇足になりますが、興味のある方の為補足しておきます。)
又Breeding(2) に掲げたペアはRRBの内っ子ペアで、出来れば孫の代を採ってみたかったのですが、こちらは産卵塔になかなか馴染まず、やはり時間の関係で断念し、整理してしまいました。 (以上、Ver.3.0 1997.6.22) (以上、Ver.3.1 1997.8.4 追記)
ディスカスの繁殖と言えば、親が「ディスカスのミルク」によって仔育てすることが一番の関心事ですが、孵化後稚魚が親に体着するまでの丸三日間については、今まであまり触れられたものを目にしたことがありません。(極端な場合、孵化したら直ぐ体着するかのような未熟な解説もあり、こうしたことが初心者に錯覚を与えるもととなったりしています。)
即ちディスカスの場合に於ける「孵化」とは、「殻を破って稚魚が出てくる」ものではなく、あくまで「発生」の一過程にあって、卵に尾が生えた程度の状態で起こりますので、未だ「稚魚の誕生」とは言えない段階なのです。
孵化後丸三日掛かって、各部の分化が行われ稚魚として完成いたします。従ってこの過程を消化せず、二日程度でフラフラ泳ぎ出すものは、未熟児で親に体着する力がありませんから、結局流されてしまう自殺行為になります。この時点では親が必死になってそうした仔を連れ戻し、丸三日耐えさせようとしているのはこのような理由によるものです。
親なしの人工孵化を試みる人も、孵化後丸三日を経ませんと、口から捕食摂餌することが出来るまでに成長していませんので、餌をやっても無意味で水質を悪化させるだけということになります。
本文に書いた通り孵化後丸二日後には、稚魚は全滅の危機に瀕してしまいましたが、私に好きなようにやられてしまった為、雄は半ば放心状態でただ見ているだけという状態でした。そこで撮影態勢は暫時撤収し、夜9時頃でしたが窮余の一策として雌を再度投入してみることにしました。雌は直後には稚魚を全部食べてしまうという気配でしたが、途中で思いとどまり、やおら一転して稚魚の救済に乗り出し、以後徹夜の努力が続いたのです。
雌は先ず産卵塔で団子状態になっていた稚魚を、口に含んではバラバラに解いていきました。解かれた稚魚はすべて産卵塔を離れ、泳ぎ出してしまいます。雌は稚魚を咥えては産卵塔に連れ戻しますが、放されると直ぐに又泳ぎ出ていってしまいます。墜落死を免れていたものは殆どが団子状態でしたから、順次解かれて泳ぎ出す稚魚の数は数十に上り、ひっきりなしに連れ戻す雌の姿は大変なもので、私には殆ど絶望的としか思えない光景でした。
程なくして雄も我に返ったように手伝いだし、雌の作業に協力して連れ戻しを始めましたが、何せ連れ戻せば又泳ぎ出す、の際限のないことで、見ている私には「いずれ力尽き断念するのは時間の問題」としか思われませんでした。夜中の12時頃のことで、水槽のライトは付けておきましたが私は寝てしまいました。(右の写真が寝る前の時のものです)
夜中の3時過ぎにふと目が覚めて見てみると、既に産卵塔には稚魚の姿は全く無く、雌雄はヒーターカバーの近くで連れ戻しをしていました。産卵塔ではとても維持しきれないとみた親がヒーターカバーに場所を移し、この中に追込んで散らばるのを食い止めているようでした。稚魚の姿はあまり見られず、何匹残っているのかその数は不明でしたが、親にはまだ気力があるように見受けられました。
翌朝はそのままの態勢で、親はヒーターカバーを護っていましたが、既に連れ戻し行為はしておらず、状態は落ち着きを取り戻していました。あの絶望的な状況から良くここまで立て直したものと、正直言ってその驚異的な粘りに敬服いたしました。この時点で孵化後丸二日半経っており、あと半日というところです。(左の写真がこの朝8時の時のものです)
その日の夕刻7時頃に体着が始まりました。([注] Ver3.1 以降の新版でも、この時の体着の様子を撮影したものが、本文中に掲げた、Breeding(8)の見出しの小画像と Breeding(9)の本画像として残されています。)
稚魚の数は30弱程度はおり、あの全滅寸前の状況からこれだけの数を生還させたのは、私には正に奇跡としか思われませんでした。
然し何故か雌の「暗化」は不十分で、稚魚の多くは雄に着く傾向がありましたが、雄はスポンジフィルターやヒーターカバーなどの障害物を上手く利用して、器用に稚魚を雌に「振り掛け」、雌に仔育てを促す仕草が見られました。
この程度の数では、この後育成を続けても大した写真は撮れませんので、非情のようですがここまでで断念してもらいました。([注] Ver3.1 以降の新版では、Breeding(10) 以降は下記掲載の次回分で構成)
従って以後の写真は、旧版に使用していた昨年の8月のもので、リニューアルして再掲しています。この時のものは既に数匹しか残っていませんが、偶々その内の2匹のいいポーズが撮れたことがあって、あの稚魚達の10ヶ月後の勇姿として今回の表紙に使うことにした次第です。
Ver.3.0 の写真は孵化後2日目までで、孵化後3日目(体着寸前)の稚魚の生育の実態を掴むことが出来ませんでした。画竜点睛を欠くこの結果は気になりましたので、雄が老齢化していることも配慮し、2ヶ月の充足期間を置いて再チャレンジすることにしました。
真夏に差し掛かることは承知の上で態勢を取りましたので、「孵化後3日目の稚魚の写真を撮る」一点に目標を置き、他のことはすべて犠牲にする積もりでした。
6月22日産卵、24日孵化。孵化率は低いものでしたが一応順調に推移し、27日に満を持して一気に撮影したのが Breeding(6),(7),(8) の写真です。(但し (8) のサムネイル版は前回分)
これで一応当初の目的は達しましたので、後は行けるところまで行こうという積もりで、稚魚のアップなどを撮り続けましたが、折悪しく7月後半には連日猛暑が続き、先ず雄が疲弊して仔育てどころではなくなり、7月末頃には稚魚もバタバタと落ち始めました。症状はなく育ちの悪いものから毎日4〜5匹づつ落ちていくという具合でしたが、そのうち体高が出るまでに成長した稚魚でさえ、突然に食欲が無くなって翌日には死んでいくという有り様で、手の打ちようがありませんでした。
昨年も8月にブリーディングを行って成功していましたので、夏場の繁殖に一通りの経験はあったのですが、今年の夏は異常な暑さが続いたのと、この1年で雄がめっきり体力を落としていたのと双方の理由が重なった為の乱調と思います。