[第4版の後書き]


★1 第四版制作の動機について

 ホームページを開設してから早一年以上が過ぎました。今回第四版ということで慌ただしかった一年を思い感慨もひとしおです。
 初版の後書きで、「プロが見せるほど高級な魚がいるわけではありませんが、〜」と書きましたが、今版目玉としている二枚はいずれも十万円の大台を超える価格のもので、ワイルドディスカスとしては最高峰の部類にランクされてもおかしくないものです。
 何か自分のホームページに自分が引きずられる感じで、のめり込んで行っている気がします。
 然しその一連の心境の変化の中で、ターコイズを整理しワイルドに没頭していく過程がありました。
ワイルドディスカスの魅力にとりつかれ、いいものを求め、それを又多くのディスカスファンシアに見て貰いたいという気持ちが高まってきた為です。

 ディスカスは野生種の一方に人工改造種があります。改造種はワンペアで100万円などという「ブランド」ものから、道楽の結果に紛らわしい名前を付けて安価で販売する得体の知れないものまで様々です。
 アジアアロワナは一頃の狂乱的な騒ぎからやや静寂を取り戻してきたように見えますが、ディスカス・ホビイストの目標も貴重な野生動物を心の安らぎとして鑑賞しようとする立場と、誰それの最新作を必死で追い求めるマニアックな立場とが鮮明に分離してきたのが昨今の状況ではないでしょうか。

 専門誌は [前衛] としての役割を追う結果、ブランド品のカタログのようなものにならざるを得ない宿命がありますが、それにしてもワイルドディスカスの扱いはあまりに貧弱です。しかも記者が生産者に密着するため、ワイルドコートのディスカスを人工交配種の作出の為の材料と考える生産者のスタンスを自然に引き継いでしまい、このようなワイルド軽視の姿勢が 「カメタターコイズ」 のでっち上げに象徴されるような不祥事を引き起こしたりもしています。
 然しこのようにファンを愚弄し、醜態をさらすようなことになっても、「サークル」では誰一人これを咎め糺そうとはしません。
 ディスカスの世界は真の消費者であるアマチュアの愛好家があまりに弱いために、生産者の側が一方的に引きずり回し、挙げ句の果てに思い通りにいかないといってぼやいたりしているのが実情のような気がします。

 作られたディスカスに何の価値も見出せず、衰亡一途のディスカスショップにはましなワイルドも見られなくなり、ディスカスそのものに魅力を感じられなくなりかかっていた私にとって、 「ワイルドアマゾン」 との出会いはこの上ない福音でした。 「ワイルドアマゾン」 の揺るぎ無い実践を目の当たりにして、再び私はディスカスの世界に引き戻されることになりました。
 第四版の制作は、予定していたことではなく、 「ワイルドアマゾン」 から全国にワイルドディスカスが送られている現状を見て、ワイルドディスカスを趣味とする方々に何らかのお役に立てれば、という気持ちから作ったものです。

 (ノーヴァ・オリンダの特集は、話題性としてはもうかなり古いという感じが否めませんが、ケバイ魚がお好みの人には、ワイルドにもこういうものがありますョという紹介の意味で残しました。)

 
★2 「水質管理の基礎科学大綱」 について

 このホームページを開設して間もない頃、「飼育ノウハウを公開してはどうか」というメールを頂きました。その当座は (今も) 正直に言ってノウハウというようなものは何もありませんでしたので、敢えてノウハウが無いことを「公開」いたしました。
 今翻って考えてみましても、プロのブリーダーを目指すということでも無い限り、ベアタンクでディスカスを飼うことに殊更なノウハウは必要ありません。にも拘わらず初心者の方が何故こうした要望をお持ちになるのかについて、つらつら考えてみますと、そこに「ディスカスは難しい」という思いこみがあることが分かります。
 初心者がそのように思いこまされている背後に、「ディスカスの飼育は難しい」ということでなくては困る人達の陰が見え隠れします。彼らは恰も、初心者にそう思いこませることで、ディスカスを高みに押し上げ、彼ら自身の存在理由を誇示しているかのように見えます。
 彼らの論調は多分に観念的なものですが、中に適当に科学用語を散りばめています。先ず水道水はトリハロメタンなど危険なものがいっぱいで、そのままではディスカスは到底飼えないということから始まって、ペーハーやら硬度やら果ては導電率までが参加して、条件を山のように作り上げます。初心者はこれを読むともう訳も分からないままに、ディスカスを飼うことは難しいことなのだと思いこんでしまうことになります。

 ディスカスを難しいことにしておかなければならない人達は、又一方では巧妙な罠も仕組んでいます。ディスカスの水槽に何かを入れさせることがそれです。
 綺麗な水草水槽でディスカスをお飼いなさい、ベアタンクは殺風景ですからせめて流木くらいは入れて上げなさい、と巧妙に誘います。こうしておけば間違いなくディスカスは難しいものとの虚構が崩れることはないからです。

 結論から言えば、ディスカスを上部濾過方式のベアタンクで飼う限り、難しいことは何一つありません。日本の水道水は立派な飼育源水となり得ますし、3点セット以外の道具は換水用のストックタンクだけで足ります。(ハイポを使いたくなければ、この外にカーボンのプレフィルターを用意すれば完璧です。) 水温も29℃より上にキープしておけば楽に飼育出来ます。
 一方水温を下げた水草水槽でのディスカスの飼育は、現実的には殆ど不可能に近い難題で、たとえ流木一つといえどもそれをディスカス水槽に持ち込むことで、ディスカスの飼育は一挙に熟練者でなければ管理しきれない難物に変わってしまいます。

 然し若輩の私がただ単に、「ディスカスを上部濾過方式のベアタンクで飼う限り難しいことは何一つありません」などと言ってみても、「お前は科学的なことを何も知らないからそんなノウテンキなことを言っておれるのだ」と一蹴されてしまうのは目に見えています。
 そうなってしまえば、観念論的な土俵の中での水掛け論に過ぎなくなり、真実は伝わりません。従って本当に「難しいことは何一つ無い」ことを立証する為には、逆に「難しい話」を紹介してその上で、結局何もないではないかということを説明するしか方法がありません。

  「水質管理の基礎科学大綱」は、上部濾過方式のベアタンク水槽でディスカスを飼う場合に、関係してきそうな科学用語を遍く網羅し、その意味や具体的な作用効果について説明しようとしているものです。
 但しこれらのことが何も重要な要素ではないことを立証するだけのものでは、勉強する人も張り合いがありませんから、折角修得したそれらの知識を基にして、より進化したシステムは考えられないだろうか、というところまで言及していくものにしてあります。

 水槽の管理技術は、アマゾンの水質指標がどうのこうので、それを目標として始まるのではなく、単純にディスカスの排泄する老廃物をどう処理するかに始まり、若干の水質指標がその管理過程をチェックする為に利用されるに過ぎません。
 飼育水は水道水から塩素を抜けば十分で、先ずディスカスの糞尿の処理を考え、のべつ換水を避ける為に上部濾過槽に硝化細菌を繁殖させれば、第一義的な飼育体制は出来てしまうのです。
 然し一方でそう簡単に悟られては困る人達から、繰り返ししつこく「アマゾンの水質指標」が強調されてきます。観念論的飼育論では先ず初めに「正体不明の水作り」の必要性を説き、ペーハーを調整する手法を伝授し、そして (ディスカスの住んでいるアマゾンの水温はせいぜい25℃までだ) などとアマゾンの水質を語るものになっているのが普通です。
 生物濾過を採用している水槽とアマゾンの水質の、最も大きな現実的な差は硝酸イオン濃度にありますが、観念論的飼育論者は何故か硝酸イオン濃度のことは一言も言わず、必ずと言っても良いくらい、PH、硬度、導電率などに言及してきます。然し数値のみを強調するにとどめ決してその中味には触れません。(それが観念論的と称される所以なのですが。)

 水槽とアマゾンでは生態系は全く異なります。水槽は水槽としての最適化を図ることで、結果としてディスカスが生き生きと泳ぐようになります。一方水槽をアマゾンに似せようとすることから全ての困難が始まり、袋小路に突き当たり泥沼にはまってしまいます。
 水槽とアマゾンの水質指標の値は違っていて当然ですが、もともとこうした指標は (水質として全く違ったものでも同一の値を取ることが容易に出来るように)、その値自身には絶対的な意味は持ち得ないものです。然し彼の御仁はこの数値を金科玉条のものとして一人歩きさせますから、運の悪い初心者はその一撃を食らって、容赦なく泥沼に突き落とされてしまうというのが実情なのです。

 
 今回私自身が飼育技術のベースになる科学的な解説書を求めてみて初めて、水槽の管理という視点でまとめられた書籍類などが皆無であることを知りました。
 工場排水の無害化処理技術、河川の浄化や湖沼の富栄養化対策、酸性雨や地球温暖化に係わる炭酸ガス問題、等々いずれもディスカス水槽の管理と無縁ではありませんが、いずれも焦点がずれていてそのままで役に立つものではありません。
 然し求めているのは私だけではなかろうと思い、私が叩き台を出せば、専門家の方が知見を提供してくれ、より良いものになっていくのではという淡い期待もあって、敢えて苦難の労をとり時間をつぎ込むことにしました。その結果 (尚未完ではありますが) 取り敢えず発表に漕ぎ着けたのがこの 「大綱」 ということです。

 「ディスカスを上部濾過方式のベアタンクで飼う」ことは、「ディスカスの排泄するアンモニアを、硝化細菌の働きを活用して、より毒性の低い硝酸に変える」方式のことであり、ペーハーなどの水質指標は換水などの結果で勝手に決まっているだけのことに過ぎません。
 適度に換水し程々に濾材を更新していれば、「難しいことは何一つ無い」ので、敢えてノウハウがあるとすれば、それは蓄積してくる硝酸の処理に係わるものとなる筈です。
 そんな訳で行きがかり上というのでしょうか、ついでに硝酸処理システムの実験に取り掛かることになりました。私は誇るべきノウハウがあれば、隠すより皆に知って貰ってその利点を共有できれば、発明者冥利に尽きると考えますから、この実験についても、その考え方や道具立てについて、予め詳細にその内容を公開しました。私より行動余力のある人が少しでも先に進め、真に実効あるものを作って貰えればそれに越したことは無いという気持ちからです。

(1998年1月18日)  

 
[補足追記]

 上の記述には舌足らずで誤解を招きかねない部分があったことを反省しています。
 多少弁解じみますが、上の記述の中で、「ディスカスを上部濾過方式のベアタンクで飼う限り難しいことは何一つありません」と書いているのは、ディスカスを殺さないように飼育するというレベルに於いては、という但し書きが付きます。
 初めてワイルドディスカスを飼育する場合に、難しいペーハーや導電率というような指標を目標に水槽の環境整備を図るのではなく、先ずディスカスの排泄するアンモニアをどのように浄化するかという観点で取り組むことが大切だ、ということを強調したいのが真意でしたが、結果的に誤解を招きかねない表現になってしまったのは私の不注意でした。

 ワイルドディスカスの飼育は取り敢えず殺さないという段階をクリアしますと、後は追求すれば際限の無い奥の深いテーマが幾らでも待ち受けています。おそらく野生の動物を捕獲して人工的に飼育する万般の場合に共通することでしょうが、その意味ではワイルドディスカスの飼育も決して易しいものではありません。
 水槽のワイルドディスカスは、一寸した光量の加減でパニックを起こして暴れ、又水温を1度下げただけで信じられない程緊張してしまうこともあります。デリケートな個体の場合こうした環境変化の何かに付けハンバーグを食べなくなるという困難がつきまといます。(水槽の照明を落とすとワイルドディスカスは一斉に散開して泳ぎだします。これはそれまで彼らが如何に緊張状態にあったかということを証明しているように思われます。)
 然し飼いやすいからといって、高温水槽で人慣れさせて(或いはマヒさせて)育てたディスカスは、眼光が鈍り体色も褪せ、生気を失ったような感じになってしまうのが普通です。ワイルドディスカスを一年飼って尚、引き締まった目の輝きを保たせ肌の艶も衰えさせない、言い換えれば野生の精悍さを維持し続けさせることは並大抵の技術ではありません。
 よくディスカスの寿命はどの程度かという質問を受けますが、大切なことは何年生きるかということではなく、何年観賞魚たり得るかということです。その限りではディスカスの「寿命」は正に飼育技術を評価するバロメーターそのものであると言って過言ではありません。私の経験もその意味では試行錯誤の緒についたばかりですが、多くのファンシアの方と共にこの醍醐味に挑戦していきたいと思っています。

 然しその挑戦の為には先ず前提として、どうしたら殺さずに飼えるかという基本段階をクリアしなければなりません。その考え方の原点は「ディスカスの糞尿をどう処理するか」に置いておけば間違いなく、それが濾過槽の維持管理の重要性に思い到り、それから様々派生してくる問題を順次対策していくという手順になります。
 ところが既存の書き物や雑誌の記事などは多くの場合、いろいろな段階のことがごちゃ混ぜに書かれてあり、その結果初心者が意味も分からずにKHを計ってみたり、PH降下剤を使わなければいけないと思いこんだり、ディスカスが怯えるからといって隠れ場所を作ったり、というような有害無益な道に這入ってしまうことが少なからず起こります。このような事態に対するアンチテーゼを簡明な表現で強調したいと意図したことがあのような言葉になりました。
 然し一旦書いたものを削除訂正してはますます誤解を招くことにもなりかねませんから、前記の記述は反面教師としてそれはそれとして残し、今回真意を補足する意味でこの追記をさせて頂くことにしました。

(1998年3月7日)  


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