=記憶=





「うっわー、四方八方大ピンチ」
「・・・どうしてだろう、本当に追い詰められてるのに、キミときたら」
「あはは。隊長がなんでもかんでも難しく考えすぎなんだよねぇ、ポチ」
「バウ」
「わかってるのかい!完全に待ち伏せされてて、三対一個大隊の絶体絶命なんだよ」
「ポチ怒った方がいいよ、あの人今ポチのことナチュラルに数から抜いたから」
「グルルルルッ」
「牙を剥くんじゃないポチ、ボクが抜いたのは」
「オレにござるな」
「とんでもない!ボクがそんな無礼なことを言うわけがないじゃないですか」
「ま、バレバレだよねぇ。さっきから反応遅いもん。ウケる、部隊長が足手まといとか」
「キミな!」
「あの状況で人のこと庇ったりするからだよ、親馬鹿とか勘弁して欲しいんだけど、ホント」
「カカチくんっ!」

隠れているのを忘れそうになった隊長を、負傷など感じさせない声が止める。

「関係ござらぬ、ただ仲間を見捨てるのは屑の所業にござろう」

静かな声音だった。誰が、という理由ではない、それが誰だったとしても庇っただろうと思わせるような。
何かを言い返そうとして押し黙ったカカチの指を、ポチが応援するように一舐めする。

「ったくもー、仕方ないなぁ。隊長、その人連れてって。俺が時間稼ぐから」
「・・・なんだって?」
「ちょっと聞き返されましたよポチさん。暗部の指示は一度きりだって耳が酸っぱくなるくらい言われてんのに」
「ガウ」
「酸っぱくなるのは口、じゃなくて!冗談を言ってる場合じゃないだろ。わかってるのかい!?相手が何人か」
「50人?ってとこ。ポチ、どっちが多く倒せるか競争しよ」
「カカチ」
「なに?引き留めなら聞かないよ。仲間ってのが理由でも俺庇って死なれると寝ざめ悪いから」
「お主は右側面の攻撃に入る時ポチを後方に下げる癖がござる。あれは読みやすい故、狙い撃ちされる」
「・・・ラジャ」
「ちょ、先輩っ!カカチくんを見殺しにする気ですか?」
「隊長、それナチュラルに俺のこと下に見てて怒るよ」
「そういうわけじゃなくてだね」
「しんがりは手負いの役目にござる。テンゾウ、カカチを頼む」
「先輩!?」
「父さん」

戦場では決して口にしない呼び名。密かにクナイを手にした相手が自分を残せるはずないのはわかってる。
けれど今ここを食い止められるのは自分だけだと言い切れる自信があった。里で待つ大切な人のためにも。

「生きて帰って貰わないと俺が困るから」
「それはお主も同じことにござる」
「その怪我で俺庇って戦ったら普通に死ぬよ」
「・・・」
「俺の前で泣かない人を慰める方法教えてくれるっていうなら別にいいけど」

肩を竦めて両手を上げるおちゃらけた態度、面の下で視線が対峙する。
もう泣いてばかりいた子供ではない。この過酷な戦場を一緒に生き抜いてきた忍だ。
仲間だ、と口にしたのは嘘ではないと示して欲しい。そう視線に思いを込める。

「カカチ」
「何?」
「ここは任せた」
「ラジャ」
「任せちゃ駄目でしょうここは!」
「隊長」

ポチの頭をくしゃりと撫でて、鼻を合わせる。どんな時も一緒だという誓いの儀式。

「舐めてんじゃないの」

二人を背に庇いクナイを握る。怖いものなど何もない気がするのがおかしかった。
けれど、きっとそうなのだろう。一人前だと、この危機を乗り越えるのに相応しいと認められたのだから。

「俺は仲間も自分も絶対殺させやしなーいよ」

にんまり。と笑った顔が想像できる声だった。


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